今も平和な黄砂の村 1
倒したサンドワームとスウェースエナは放置する他なく、アカリが自動で彼女に追従する大きなタンカのようなものを出現させて、そこに倒れている魔獣討伐隊を乗せていく。人をタンカに乗せるのも、彼女が出現させた機械によって行われていた。魔獣討伐隊のリーダーも、人を運ぶのを手伝い、タンカに乗せていく。
「本当によく頑張ってくれた。お前たちがいなければ、この村は確実に終わっていた。本当にありがとう」
リーダーは涙声でそんなことを話している。そこにいる大半のメンバーは気絶していて、彼の話を聞くことはできない。
「アスターさんも、これに乗ってください。運びますよ」
アカリが一人気絶もせずに立っていたアスターに声をかける。彼女だって、ギリギリになるまで戦っていたのだ。彼女も立っているのがやっとで、拳銃も既にホルスターの中に戻していた。だが、彼女はアカリの言葉に首を振る。
「いや、いい。自分で歩ける」
彼女はアカリたちに背を向けて、ゆっくりと歩き出す。その姿勢は多少つかれているのだろうなという程度のもので、足を引きずったり、猫背になったりしてはいない。しっかりと、自ら歩いているのだ。アカリは彼女があれだけの戦闘を経て、彼女がまだ自力で動けていることに驚いていた。戦闘で手を抜いていたとは思えない。彼女の活躍をこの目で見たわけではないが、彼女が戦闘で手を抜くとは思えない。そして、彼女が戦闘の中心にいたのは、皆が倒れている陣形を見ればわかる。おそらく、彼女の持つ武器で、皆を援護していたのだということくらいは、予想が付いた。そんな戦い方をしてもなお、一人で行動できるとは思えなかった。可能性として、一つだけあるのは、彼女の超能力だろうか。
討伐隊では、所属している者の戦闘能力は把握しているが、超能力に関しては必ず教えなければいけないというわけではない。リーダーやアカリが作り出した機械と戦闘して、どれだけ戦えるか、戦いの癖はどうか、その程度を把握しているだけで、超能力を詳しく理解しているわけではないのだ。
「アスターさん、一人でも大丈夫かもしれませんが、私に運ばせてはくれませんか。この程度で労いになるなんて一つも思っていませんが、私の気持ちを受け取ってほしいんです」
アカリはそれでも、この戦闘の功労者を一人残らず運びたいと思っていた。村からは少しだけ離れているし、一人行動をすれば、それだけ魔獣に狙われやすい。アスターの今の状態では魔獣と戦闘などできないだろう。皆でいれば、魔獣に狙われる可能性も減るだろうし、アカリとリーダーはまだ戦闘できる程度には元気だ。功労者である彼女を何かに、殺させるわけにはいかないのだ。だから、無理にでもタンカに乗ってもラわなければと思っていた。
「はぁ、わかった。乗ってくよ」
彼女はタンカの端に腰を掛けた。アスターは彼女の眼光の圧に負けたのだ。もしかしたら、彼女の体の疲れもあるかもしれない。タンカに座れば、多少は体も楽になる。彼女が腰かけたのは眠っているペースの近くだった。彼女に守られなければ、きっとこの線上で大怪我を追っていただろう。自分が最後までこの戦いで最後まで立っていられたのは、彼女のおかげだろう。眠っている彼女の手は血まみれで、それは魔獣の血ではなく、彼女の手の皮が剥がれてもなお短剣を握り続けて戦ったために出てしまった血だった。あの時、休ませられていたら、彼女の手がこんなことにはならなかったのかもしれない、と考えてしまう。だが、彼女にそれを伝えることはできない。起きてからも彼女はそれを伝える必要はないだろう。彼女だって討伐隊で、それなりの覚悟を持って戦っているはずだからだ。今回は、誰も死なずに、村を守れた。それでいい。彼女は自身の思考と心をまとめた。
真っ暗な砂漠を通り、村に戻る。村の灯りといっても松明の灯りがある程度で、村人たちは既に眠っているか、自身の家の中にいる。夜の娯楽などこの村にはないため、外に出ている者は一人としていないのだ。彼女たちが村に入っても、彼女たちを迎えるものは一人もいない。魔獣討伐隊の全員が彼らの拠点の中に連れていかれる。タンカに乗せた時は起きていたものも、短い帰路の中で眠ってしまっている。タンカをしまえば、全員が地面に落下して目を覚ますだろうが、アカリには彼らのそんな仕打ちはできなかった。
「リーダー、明日までここにタンカを置いておきます。皆さんはお疲れのようですし」
アカリが小声でリーダーに耳打ちするような近さで話す。リーダーはそれにただ頷くだけで、返事としていた。




