緊急討伐 3
「みんな! 魔獣の数も減ってきてる! あと少し! 戦いきれるよ!」
ペースの声が戦場に響きわたる。彼女の言葉を聞いて、皆の士気が高まるのを感じた。前衛で戦っている者は咆哮を上げて、魔獣をなぎ倒す。後ろに吹っ飛んだ魔獣を逃さずに、後衛が倒していく。アスターも間違いなく、魔獣を殺していく。あと少し。全員がそう思えば、最後に残った力が発揮されて、疲労も忘れて全力になる。魔獣の数が先ほどよりも素早く減っていく。
残り数十匹。そこまで減れば、もはや負ける道理はない。討伐隊の者たちは自身の勝利を確信した。それと同時に、残りの体力全て出し切ったと見えて、戦いを放棄したものも数人いる。残りの魔獣に狙われていた者とその周辺の者たちが残りの魔獣を討伐していた。
だが、アスターは自身の目を疑った。いや、最初から考えれば、確かに群れを作りやすい魔獣ではあるが、ここまでの大群になるはずがない。基本的には魔獣は生物を目にすれば戦い、決着がつくまで戦闘を行う。それは基本的なもので、圧倒的に敵わないと見た目から理解できれば、魔獣は戦闘を放棄して逃げることがあるのだ。そして、これほどの弱い魔獣が大群でここまで来た。生物が群れているところには魔獣は基本的には近づかない。行けば、自分が殺されるだけだからだ。だが、こいつらは村の方までやってきた。群れているから村も襲えると思ったのかと聞かれても、魔獣はどれだけ群れても村などの集落には入ってこない。だが、今倒した群れは村に向かっていたのだ。その理由は、と考えていれば、アスターならすぐに気が付いたかもしれない。
残りの魔獣はまだ残っている。だが、アスターの手は止まる。ふと、見てしまったその視線の先、アスターの様子にペースも同じ方向を見た。既に戦闘を放棄している者もそちらを見るしかなかった。完全に日は落ちて、月明かりが砂漠を照らす。その月光の下にいるのは、巨大なサンドワームだった。その動きはのそのそと体を左右に揺らして、前に進んでいる。その大きさは明らかに、彼女たちの知るサンドワームの大きさではなかった。村の中の建物を縦に三つ並べたくらいの大きさが一般的なサンドワームの大きさなのだが、今皆の目の前にいるのはそれの倍以上の大きさはありそうな見た目だった。まだ、その化け物は遠くにいるはずなのに、あと少しでこの場所に到達するように見える。サンドワームは基本的には地中を移動して、地上の振動を感知して地上に出てくるような魔獣であり、地上をこうして移動し続けるという行動は珍しいだろう。その巨体であれば、地面を進むよりも地上の方が進みやすいのかもしれない。そして、大量の魔獣がここに来ていた理由も、おそらくはその化け物のせいだろう。
全てのスウェースエナを倒したが、そこにいる討伐隊の者たちはその巨大なサンドワームに絶望していた。まだ何とも戦闘しておらず、体力も前回であれば、多少は戦おうという気にもなったかもしれないが、もはや、スウェースエナたちに全力をぶつけて討伐したのだから、次に何かと戦う想定などしているわけがない。
「姐さん、こんなのってないよね。せっかく戦ったのに。ちゃんと勝ったのに」
討伐隊の周囲には討伐した大量の魔獣の死体が転がっていた。もはや、数える気にもならない大量の死体は、彼らがどれだけ戦ったのかという証拠だった。それを倒してもなお、まだ戦わなくてはいけないという現実にペースも下を向いて膝を折る。彼女だけではない。武器を地面に突き立てて、そこに体重をかけている者も、既に座り込んで武器を砂の上に横たえている者も多くいる。もはや、満身創痍で戦える相手ではないのだ。
「人の勝利に水を差す奴なんて、あのクズだけでいいんだ。なんで、こんな時まで……。運が悪い? 馬鹿にするなよ……」
近くにいたペースだけがその悪態を聞き取れた。アスターが珍しく静かに感情をあらわにしながら、マジックガンの上部のカバーをスライドした。グリップの後ろの部分に白いゲージが出現した。ゲージの一番下には赤いゲージが微かに溜まっている。
「火よ、ファイアバレット」
彼女がそう呟くと、彼女の周囲に赤い球が出現した。それは、彼女の火の魔気で構成されたものだが、その赤い球は彼女の持つマジックガンに吸い込まれていく。そして、赤いゲージがほんの少しだけ上昇して、白いゲージの割合が少なくなる。彼女は再び、火の魔法を使い、自身の魔気を放出する。だが、たった一人で火の魔気を集めていても、ゲージはあまり進まない。自然に吸収できる魔気も含まれてはいるが、そのゲージの伸びはあまりよくはない。そんなことをしているアスターをペースは見つめていた。何をしているのかわからないが、彼女が出した火の魔気がマジックガンに集まっているところを見れば、火の魔気を集めていることくらいは理解できた。ペースもアスターと同じように火の魔法を使い始める。彼女が放出した火の魔気も彼女の銃へと吸い込まれていく。それでも、ゲージは思ったようには進まない。二人の奇行に周りの人間も気が付き始めた。何をしているのかは誰も理解していない。ただ、火の魔気を皆が放出し始めた。アスター以外の人間にとっては、ただの祈りと同じだった。何もしないよりは何かしていた方がいい。そんな消極的な考えながらも、そこにいる全員が火の魔気をマジックガンに集めていた。
そこにいる皆の火の魔気を集めて、ゲージの八割ほどが赤くなった。しかし、それ以上は火の魔気の集まりは悪くなった。その理由は簡単で、満身創痍の状態で薪を放出したところでその限界もすぐ来てしまい、それ以上火の魔気を放出できなくなったらからだった。アスターもそれ以上、火の魔気を出せば、引き金すら引けなくなる状況だ。魔気を限界まで引き出した他の者も既に、彼女の周囲で倒れている。気絶している者も数名いる中、それ以上魔気を収集するわけにもいかない。後は自然の火の魔気を集めるしかない。マジックガンに気を取られていた彼女は視線を相手の方へと向けると、既に目の前といえるような距離に相手がいるように見えた。もはや、相手が大きすぎて距離を測ることはできない。後どれだけ、ひきつけられるだろうか。彼女はそんなことを考えながら、銃口を相手に向けていた。




