緊急討伐 2
「姐さん。ちょっとやばそうすね……」
「行くぞ」
ペースがその惨状を見て、ひきつった顔をしていたが、アスターはそんなことも関係なく、その地獄絵図の中に突っ込んでいく。マジックガンを引き出して、すぐに構える。どこに撃ったって弾丸は当たるだろうが、適当に撃てば味方に当たる可能性も高い。彼女は射撃する方向に視線を向けて、狙われている味方をかばうように、暴れている魔獣の頭を弾丸で吹き飛ばす。撃った全ての弾丸が相手に当たっているわけではないが、彼女は確実に魔獣を撃ち殺していた。そして、その弾丸に助けられた討伐隊の者たちは、彼女にお礼を言うでもなく、すぐに他の魔獣を倒すために動き続ける。そうしなければ、魔獣を押しとどめることができないのだ。
魔獣は彼らを無視して、村へ向かうことはない。魔獣は基本的には、目についた生物を狙って攻撃を仕掛ける。倒して食えば、次の獲物を探して場所を移動する。それを繰り返して生きているのが魔獣である。だから、討伐隊の者が倒れて完全に食われなければ、魔獣を個の戦場にとどめておくことができるのだが、その数は増えてきている。倒す数より戦場に参加する魔獣の方が多いのだ。一匹倒しても、二匹以上に常に狙われれば、どれだけ熟練のものでも、疲労が溜まってくる。アスターたちが参加する前から、この魔獣たちをここに止めている者たちは、二人が拠点に解体した魔物を届けた後、少し経ったくらいから戦っている。夕方から夜の入りまでの時間戦い続けていれば、魔獣の討伐に慣れたものでも、隙が生まれてしまう。
彼女はそういったものの事情くらいは分かるため、疲労が大きそうな者を助けるように弾丸を放っていた。ペースはその彼女が魔獣からの攻撃を受けないように、アスターに近づく魔獣を倒し続けている。彼女たちを中心に、何とかそこまで戦って、押されかけていた者たちも体勢を立て直す。二人の周りに味方が集まるようになり、より戦いやすくなっていく。幸いにもマジックンガンには珠切れがなく、周りに魔気さえあれば弾丸を放つことができる。
「はっ、はっ」
「ふぅー、ふぅー」
討伐隊の者を助けたまでは良かったが、既に疲労もピークを越えている者もいる。皆の息遣いが荒く、そろそろこの戦場の片を付けなければいけないころあいかもしれない。それだというのに、魔獣の数は全く減っていないようにさえ思える。魔獣の群れの中心から見れば、余計に戦いの終わりは見えないだろう。
「姐さん。うちもそろそろ握力がなくなってきました……」
辛そうな顔で短剣を握る彼女は、手を開いたり閉じたりしながら、手の感触を確かめているようだった。魔獣の肉を切るのも楽ではない。切れ味が良くても、これだけ魔獣を切っていれば切れ味が落ち、刃を通すのに腕の力や握力が必要になってくる。筋肉を使い続けていれば、もちろんそこに疲労が溜まり、入る力も弱くなる。
「……」
ペースの言葉を聞いても、アスターは顔色一つ変えない。マジックガンを撃ちながら、彼女の手へと視線を向けると、手はすでに真っ赤になっていて、皮も多少剥けてしまっている。そんな状態でも、短剣を振るっているのだ。彼女が感じる痛みはそうとうなものだろう。
「ペース、少し休め。ここでしゃがんでろ」
休んで、すぐに回復するような状態ではないのは間違いないだろう。だが、自身を慕うペースのことだけは放っておけなかったのだ。だから、口をついて、そんな言葉が出た。表情には出さないが、アスター自身もその言葉に驚いていた。こんな状況で休めなんて言うなんてことは、自分自身のことだからこそ、ありえない話のはずだった。絆されている。自分の心のどこかにいる自分が自分自身にそう言っていた。だが、口から出た言葉を消すことはできない。
「ありがとうございます! でも、休んでられないっていうのは、わかってます。姐さんがそう言ってくれたことが、すっごい嬉しいですから!」
そういって、ペースはまた魔獣を切りつけていた。
倒しても、倒しても、数が減らない。砂漠のどこにここまでこの魔獣が潜んでいたのかわからないほどだ。誰かが、魔獣を手引きしたとしか思えないが、そんなことができるものなど心当たりは一つもない。少なくとも村の中にいるものではないだろう。
「チッ!」
そんなことを考えていたから、それとも長時間の戦闘による疲労からか。ついにペースのガードを超えて、魔獣が彼女のコート越しにその爪で足をひっかいた。アスターは魔獣の頭めがけて、肘を真上から頭に落として、地面に叩きつける。その胴体と頭を二丁の拳銃でそれぞれ撃った。
「姐さんッ! ごめん、大丈夫っ!?」
「気にすんな。自分で守れないのが悪い」
ペースは焦った様子で彼女に駆け寄ろうとしたが、アスターがそれを制止した。今は、それどころではないのだ。アスターがこの戦場の中心になっていた。そのおかげで、彼女には確実に魔獣を減らすことができているのが見えていた。戦場の人と魔獣の隙間から外に見える景色に、魔獣が少なくなっているのだ。
「……ペース。全員に伝えろ。確実に勝利に近づいてる。魔獣は確実に減ってきてるんだ」
アスター自身の声では、周囲に届かない。どれだけ大声をあげても自身の声ではだめだと考えた彼女は、自分より声の大きいペースに頼むことにしたのだ。




