黄砂の村 2
彼女は家から出ると、別の建物に入った。他の石造りの建物とは大きさが違い、入り口は両開きのドアで、その上には四足歩行の動物に剣が突き刺さっているシルエットがあった。それはこの町の魔獣討伐隊であることを示すマークであった。彼女はそのドアを開けて、建物の中に入る。建物の中に入ると、そこにはピリピリした雰囲気を纏う人たちがいた。全員がピリピリしているわけではないが、魔獣討伐隊にいる人間はその名の通りに町周辺に出る魔獣と戦っているため、もちろん命を落とす可能性が高い仕事である。そのため、この魔獣討伐隊に所属している大部分の人間は緊張感のせいで、ピリピリしているのだ。
魔獣討伐隊の拠点の中には、壁には何度も消したり書いたりできる白い板がかけられていた。それ以外には石造りのテーブルと木製の椅子。壁際には、魔獣討伐隊に所属している人たちの装備などを置ける木製の棚が並んでいた。棚の上がいっぱいになることは少なく、そこに武器を置いておくような人はいない。せいぜいが、帽子などの身に着けるものくらいのものだろう。鍵もない場所に大切なものを置いておく不用心な人はいないのだ。それ以外には木製のカウンターのようなものがあるが、そこには人はいない。討伐するべき魔獣の情報は、討伐隊に所属しているものが直接、報告を受けるため、カウンターで専用の人が受ける必要がないのだ。
彼女はドアを開いて中に入ると、ほとんどの人が彼女の方に視線を向けていた。彼女だと分かると、すぐにそれぞれがやっていたことに戻った。彼女は棚のところまで移動して、棚の支柱になっている木の棒の先端にかけてあった白い軍人の使うような型崩れが起きにくい帽子を手に取った。すぐにかぶるわけではなく、指先をかけてクルクルと数度回したり、つばの部分を持って軽く空中に投げて回転させてキャッチしたり、帽子で遊んでいた。
「悪いな。少し遅れた。緊急の依頼も入ってしまったが、とりあえず、今日も仕事前のミーティングを始めようと思う。アカリ、頼む」
建物の中でそれぞれが話したり、緊張したりしていると、ドアが開いて、二人の人物が入ってきた。片方は筋骨隆々の男性で、もう一人は細身の女性だ。この暑さでも長袖でタイトなくるぶしほどのパンツを履いている。男性の方が皆に声をかけて、アカリと呼ばれた女性が、皆の前に出て話し始めた。
「はい。本日の基本的な仕事はいつもと変わりません。町周辺のパトロールと周辺に棲む魔獣の討伐。そして、緊急の報告ですが、黄砂の砂漠の空にサンドワームが飛び出してきたのを見た村民がいますので、警戒をお願いします。もし、サンドワームがもう一度、発見されるようであれば、討伐に向かっていただきますので、そのつもりで。繰り返しになりますが、本日はパトロール、周辺魔獣の討伐ですので、よろしくお願いします」
「というわけだ。死なない程度に仕事を全うしてくれ。対処できないと思ったら、他の討伐隊に助けを求め、助けを求められたものはそれに答えるようにしてくれ。それでも戦えないなら、他に助けを求めるんだ。もちろん、最初から俺に報告してくれてもいい。俺が戦おう。では、今日もみな、無事に帰ってくるように!」
男性がミーティングを終えた。毎日、やらなければいけないほどの内容だったことは一度としてないが、万が一何かあった時に何も知らなかったなんてことはあってはならないため、仕事開始のミーティングには誰も文句は言わないし、隊員全員がミーティングに参加しているのだ。そして、ミーティングが終われば、皆すぐにその建物から出ていく。チームを組んでパトロール、討伐を行うのが基本だった。ルールというわけではないが、基本的には隊員たちは二人以上のチームを組んで行動している。万が一にも勝てないと判断したときに、一人を囮にもう一人が他のものに連絡が出来なければ、緊急だと知ることすらできないからだ。アスターも暗黙の了解を知っていて、彼女も一人で行動するわけではなかった。
「姐さん、今日は町の南の方へ行きましょうよ」
「ああ、わかった。じゃあ、行くか」
アスターのことを姐さんと呼んだのはショートのオレンジ色の髪を持った女性だ。アスターよりも年下で、話す言葉にも元気が入っているような話し方をしている。彼女と同じ瞳の色で、この討伐隊に入った当日から彼女と瞳の色が同じという理由で組もうと相談してきた女性だった。最初こそ、断って一人で行動していたものの、何度も声をかけられて、結局先に折れたのは彼女の方だった。




