狭間の旅の始まり 4
彼は石の通路を警戒しながら進んでいく。そのまま上へと続いていく一本道を進んでいく。心なしが通路が狭くなっているような気がして、ただでさえ気分が悪いのに、窮屈で息苦しくなってきたような気がして、気分がさらに悪くなる。彼の顔を見る者がいるのなら、彼が体調不良だというのは一目瞭然だっただろう。しかし、実際には通路が狭くなっているというようなことはない、単純に上に上っている道を無意識のうちに急いで登っていただけである。出口がその先にあると勝手い期待して、急ぎ足で上り坂を歩き続ければ息も上がるだろう。それが息苦しさの正体である。石の通路や謎の煙を吸ったこと。そういった状況が彼に正常な判断力を奪っているのだった。
そんな状態でも彼は通路を歩き続けていた。過呼吸にも聞こえる呼吸のリズムの中で、意識だけははっきりと保って、先へと進んでいく。さらに進んでいくと、彼の視線の先には階段があり、その先に両開きの石のドアがあった。それが地上へとドアなのかなんてわからないが、一本道の先にドアがあるなら、そこに進むしかない。彼はドアに手をかけて、両備来の片方だけを押して開いた。その瞬間、ドアの先からまばゆいほどの光が目に刺さる。まぶしくて目を細める。その先に何がいるわけでもなく、光は一層強くなり、目を瞑るしかなくなった。彼が次に目を開けた時には、彼が不用意に開いた石の両開きの扉の前だった。ドアに入る前のように、扉の方を見てその場に立ち尽くしているように見える。彼は今までのが夢だったのかと思うほどだ。体調不良も完全になくなっていて、気持ちの悪い汗もかいていたはずだが、その感覚すらもない。あるのはそういうことがあったという記憶だけ。この扉の先に入ったことは間違いないと思うしかないくらいに、記憶だけしか残っていないようだ。体に入った煙の正体も分からないし、この先にあったことがどんなものだったのかすらも分からない。もしかしたら、この状態のまま、狭間に落ちてきただけかもしれない。彼が今持っている情報だけでは、どんな荒唐無稽の話も想像の域を出ない。結局、彼はその場所で何が起こったのか、何も理解できないまま、その石の扉から離れることにした。再び、その石の扉の中に入ろうとは思えないのは当たり前で、再び草原を探索することにした。
しばらく、草原を歩いていると、進む先に草原が途切れていそうな場所があった。その境界線から先は砂が広がっているように見えた。つまりは、砂漠のような場所なのかもしれない。砂漠に入るための用意は一つもしていない。しかし、今更、他の場所に移動して次のエリアを探すような気力は生まれない。今のただの長袖長ズボンで、砂漠の中の日差しに耐えられる服装というわけでもない。とりあえずは、眠るときに体にかけている薄い布を適当に体に巻けば多少は凌げるかもしれない。
彼は布を一枚取り出して、それを頭の先から巻いた。布の端は肩のあたりに掛かるようにして、上からくる日差しは何とかガードできるくらいの装備になった。そして、草原と砂漠の境界線をまたいで、砂漠に入った。なんとも奇妙なことに、草原と砂漠の境界線はまるで線でも弾いていたかのように変化している。砂漠の砂が草原に侵食することはなく、その反対も全くないほどきれいに境界線が見える。そして、その境界線を越えると同時に、空気の温度がかなり上昇する。草原の快適な気候から一気に暑苦しい空気が肌に触れて、じりじりとやけどした後のようなひりひりした感触があった。歩くのも、草原を歩いていた時よりも体力の消費が大きい。長時間歩くとなると、かなり大変な環境だろう。そして、忘れていはいけないのは、その過酷な環境であるせいで、草原に棲息していた魔獣よりも強力な魔獣が出現するのだ。弱い魔獣でもその環境では戦うのもきついだろう。
そして、彼がしばらく砂漠を歩いていると、その脅威に出くわした。砂漠の魔獣で厄介なのは、地面に潜んでいる魔獣が多いということだろう。地上を歩いている魔獣は少なく、その魔獣が地面に潜んでいる魔獣の餌食になっている。彼は地上にいる魔獣を見つけて、見つからないように移動しようとしたその瞬間に、近くの魔獣の足元の砂場が一瞬で下に引っ込んで、その中央から太い何かが天に上り、地上にいた魔獣が突き上げられたのを見てしまった。おそらく、その太い胴体を持った魔獣の先端が開くようになっていて、今地上にいた魔獣が魔獣の体内に入ってしまったのだろう。そしてその太い胴体の魔獣が空中で頭を下に向けて、落下してくる。相手の着地点に自分がいることに気が付いたのは、ある程度近づいてからだった。




