狭間の旅の始まり 2
メートが村を出て、二日ほど経過した。森から少し離れて、向こうまで続く草原を歩いている。一日目の夜は初めての野宿を体験したが、悪いものではなかった。クミハたちからもらった魔獣除けを焚けば、魔獣が寄ってこなくなるというものである。魔獣にのみ幻覚を見せる成分が入っているようで、魔獣は幻覚を追い続けて死ぬまで、その幻覚を追い、攻撃し続けるという効果があるようだ。そのため。稀に幻覚が使用者の方に移動してきて、幻との戦闘に巻き込まれることがあるそうだが、その確率も低いようだ。効能を聞いた時には驚いたが、村の周囲に設置しているが、村人たちが何らかの悪影響を受けたことはないので、こういう時に使いなさいと渡されたものだ。とりあえずは、この二日間は夜も平穏に過ごすことができた。
そうはいっても、現状周囲は草原ばかりで、他に見えるのは魔獣くらいのものだ。魔獣除けは一晩、燃やすとほとんど効果がなくなってしまうので、意識のある時までそれを使用するのは無駄遣いに感じて、彼はそれを使うことはできなかった。周りの景色が変わらず、出てくる魔獣も大したことがないとなれば、退屈になってくる。歩きながら、何度伸びをしたことかわからない。暇つぶしのように魔獣と戦闘をしているが、その戦闘も暇つぶしにもならなくなってきた。既にクリスたちが恋しくなってきたところで、草原の中に堂々と立つ石でできた小さな家のようなものが見えた。興味本位で近づいてみると、両開きの石の扉が付いた四角い箱だった。外から見ると、その四角形は彼が六人ほど入れば、他に何も入らないくらいの大きさである。石の扉に手をついて軽く押せば、石の扉がほんの少しだけずれた。どうやら、鍵などはついておらず、簡単に中に入ることができるようだった。
余計な寄り道をするべきではないと思いながらも、一日中退屈な旅路を来てしまったため、彼はよせばいいのに石の扉を開いてしまった。扉の中は石の階段が地面の下にもぐるように続いていて、少しだけ覗こうと体を前に移動させれば、次の瞬間には目の前が一瞬で白くなった。
瞬きすらしていないはずだが、目の前には石の壁があった。一瞬の出来事に混乱して、周囲を見渡す。背後にあるのは、おそらく上から見ていたであろう石の階段。そして、彼が開いた石の扉がゆっくりと閉まっていくのも見えてしまった。その瞬間に、この場所に捕らわれたことを理解した。
「マジかよ……」
そう呟くくらいしかできることがない。ずっと放心しているわけでもなく、彼は意識を現実に向けた。改めて、周囲を見れば、壁にはたいまつが付けられていて、真っ暗というわけでもない。そして、階段から降りてきたとすれば、その右側に人がすれ違えるくらいの太さの通路が続いていた。通路の壁は置くまでたいまつで照らされているようで、通路の曲がり角の辺りまでは見えていた。その見た目は何となく、迷宮城に繋がるものがあるような気がした。その先に何か罠か何かが待っているのは間違いない。そもそも入口に転移する仕掛けがある時点で罠だろう。なんの警戒もなしに入ったのは確実に馬鹿な選択だった。しかし、後悔を引きずっても意味はない。前に進む以外にはここから出ることはできないだろうから。
石の通路を警戒しながら進んでいく。当たり前だが、露骨に罠だというような仕掛けは一つもなく、見るだけならただの石の通路でしかない。だが、どこが罠になっているのかはわからない。警戒しながら進んでいくが、罠らしいものはやはり見つからない。通路の先に、二つの扉が現れた。それも石でできたものに見える。二つのドアを並べられると、どちらかが正解だというように思えるが、どちらも不正解という可能性もある。最大限に警戒している彼はその可能性も考えていた。何か、二つの扉以外に仕掛けがあって、そちらが正解かもしれないと疑心暗鬼になり、二つの扉がある周囲に何か仕掛けがないかを念入りに調べる。そうやって調べていると、手に段差が触れた。不自然な段差でまるで階段のように直角の段差だ。自然にこうなるとは思えない。そのあたりを手で触れて調べていると、その段差が直角に曲がる部分に触れた。目で見ても、そこにボタンのようなものがあるようには見えない。手で触れて調べるしかないのだ。そして、その入念さで見つけたことで、彼はそれを正解だと思い、段差のある場所を奥に押し込んだ。段差が大きくなり、カチ、と音がした。彼はその瞬間に自身の勝利を確信した。罠を突破した。そう思った瞬間に彼の真横の石の壁が、大きくせり出し、反対の石の壁もせり出す。彼はその中央にいることになり、左右から石の壁が迫っていた。




