表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/393

村での生活 6

 昨晩、考え事をしながら眠って、解決策の糸口すら見つけられなかったせいか、メートは重く頭痛のする頭を押さえながら目を覚ました。明らかに、昨日の心理状態を今も引きずっていて、そのせいで頭が痛いのは明確であったが、彼にはそれを自覚する余裕もなかった。ベッドの上で体を起こしたが、立ち上がる気になれない。何とか足をベッドから降ろして、足裏を床に置いたが、今度はベッドに座ったままで立ち上がる気がない。額を抑えながら、深いため息を吐き出していた。とにかく、ベッドにずっと座っているわけにはいかないが、昨日に引き続きクリスを説得する方法を考えるも、答えは永遠と出ない。


 彼の思考が狭まりすぎて、自覚も全くないことではあるが、結局は彼もこの村が好きだから離れたくはないのだ。この村が好きだから穏やかに平和に過ごせるようにしたいのだが、そんなものがなければ、わざわざ長い期間にわかってこの居心地の良い村から離れようとは思えないだろう。そして、この村を好きだからこそ、クリスを説得できそうな言葉が見つからない。それに気が付けないから、いくら考えても答えが出るはずがないのだ。思考は延々とループするのも当然である。何せ、自分自身をも完全に説得できているわけではないのだから。


 結局、彼はベッドから立ち上がるのも忘れて、その思考にとらわれている間に、クミハから声をかけられて部屋からでることになった。クミハも彼が悩んでいることはわかっているため、無理に部屋から出そうという気は一切なかったが、朝食は食べた方がいいと思ったから呼んだ。部屋から出ると、そこにいたのはクミハだけだった。ジャスはすでに仕事へ行き、クリスはベッドの上で寝転がっているらしい。既に一度起きて、朝食を食べたが、すぐに寝室に引きこもってしまったようだ。彼はのそのそと朝食に手を付ける。


「ごめんなさいね。悩ませてしまっているみたいで。でも、私たちも退けないのよ。あなたを危険な目には合わせたくない。ジャスも言ってたけど、引き留められるなら引き留めたい。だから、クリスを理由にあなたを引き留めてる。でも、きっと、あなたはクリスも説得して、村を出ていくと思います。その手段なんてわからないけど」


 クミハはすでに彼としばしの間分かれる覚悟はできているらしい。戻ってくるというのだから戻ってくるだろうという信頼もあるし、無茶をしないという約束もある。もちろん、旅路に危険はつきもので、彼が無茶をしないという約束を絶対に守ってくれるとは彼女も思っていない。ただ、その約束がお守りのように、彼が生きて戻ることを忘れなければいいと考えていた。


 クミハと少し話していると、クリスが寝室から出てきていた。彼女は怒っているような様子はなかった。しかし、目が赤く、その周りも少し腫れているように見える。今まで、泣いていたような様子だった。彼女はまだ口も開いていないが、その表情が今の彼女の心境を語っている。それを見てしまえば、メートもやっぱり出ていかないといったくなった。だが、それではこの狭間が大変なことになるのを待っているだけになってしまう。そうなる前に止めなければいけないのだ。


「クリス、ごめんな。やっぱり、旅に出ないってわけにはいかないんだ。みんな、この生活が好きだろ。俺もこの村が好きなんだ。だから、ずっと平和の方がいい。その平和を壊そうとするやつがいるかもしれないから。クリスの気持ちを無視したいわけじゃないんだ。俺もずっと、この村に入れるならそうしたいんだ。だけど、それでもし、この村がなくなったら絶対に後悔する。だから、俺はこの村を出てそいつを止めてくるよ。何もなかったら、それでいい。……そうだ、クリスにもお土産もって帰ってくるよ。それに冒険の話もできるようになる。だから……いや、だめだよな。そういうのじゃないよな」


 一度、言葉を止めてしまえば、次に出てくる言葉はすぐには出てこない。少女の前で黙りこくって、言葉を探しても《《いま》》に合う言葉は一つも出てこない。彼の言葉を聞いてなのか、クリスは黙ったままだった。しかし、その目には涙を浮かべながらも、彼を、彼の目を見つめている。


「……お兄ちゃん。お土産、楽しみにしてる。楽しい話も、待ってるよ。でも、それがなくても、メートお兄ちゃんが無事に戻ってくるだけで、それだけでいいから。ずっと、待ってるから。クリスは、寂しいけど、一緒に行きたいけど、それでも我慢して待ってるから。いい子にして、もっとお兄ちゃんと一緒に旅をしても大丈夫なくらいに、勉強も力もつけて、それで帰ってきてくれるのを待ってるから。だから、だから……」


 少女の震えた声が彼の耳に、脳に響く。彼女をただの少女だと思っていたのは、明らかに間違いだった。もしかしたら、彼女も昨日の夜の時点で、わかっていたのかもしれない。ただ、それをすぐには受け入れられなかったのかもしれない。彼の説得なんて意味はなかった。少女の心は、彼の想定の何倍も強かった。彼女の甘えてしまうことになるとは、考えもしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ