村での生活 2
「お兄ちゃん。治ったかもしれないけど、無茶は駄目だからね。もうしないって約束もしたし」
森に入り、少し歩くと一緒に森の中を歩いているクリスにそう言われた。彼はそれをわかってはいるが、彼女の言葉に頷いた。しかし、その足を止めることはなく、森の中に入っていく。とはいっても、クリスを連れたまま、森の奥に入っていくわけにはいかない。森の奥の魔獣と戦えるといっても、人を守りながらでは厳しいだろう。
彼はそう考えながら、森の中を歩く。彼が使った薬を作るための薬草を探しているのだが、彼には薬草を判断する知識は一つもなかった。そもそも、彼が最初に生きていた世界には薬草を探す必要はなかったし、その次の世界では薬を使わずとも体は回復していたのだ。知る機会もなかったため、薬草の知識は持っていないのだ。そのためにというわけではないが、彼の代わりにクリスが薬草を集めてもらうことにしたのだ。彼は護衛というわけである。
「メートお兄ちゃん。いつもよりも奥に入っても大丈夫かな」
クリスは少し不安そうにしていたが、少し森の奥に入るくらいなら何の問題もないだろう。彼はそう考えて、二人で少しだけ森の奥に入ることにした。
森の奥とはいっても、木々が光を遮るほどではなく、まだまだ穏やかな森の中だった。クリスの話を聞けば、森の奥に行けば行くほど、森の浅い部分では採取することができない植物が採れるらしい。そして、少し森の奥に入るだけで、回復薬の効果を上昇させる効果のある薬草も採れるそうだ。彼女とこの世界で初めて出会った時も、今二人のいるくらいの森の深さのところに一人で来ていたところで、魔獣と出会ってから全速力で森から出ようとしていたところで、メートとすれ違ったというわけだ。そもそも、ここらの魔獣は森から出ることはないため、彼女は森の外まで逃げきれれば、魔獣はそれ以上は追いかけてこなかったのだろう。だが、彼はそのことを知らずに、腕試しとして魔獣と戦ったわけだ。
そのまま、森の奥に入っていき、辺りを見渡しながらクリスの護衛をする。彼女は地面に生える植物を見ながら、薬草を探していた。目的の薬草でなくとも、植物を摘んで鞄の中に入れていた。彼は採取するたびに、どんな薬草なのか聞こうとも思ったが、いくら彼がここらの魔獣に勝つことができるとはいえ、どこから敵が出てくるのかわからない以上は、そんな場所で長閑に話すことはできないだろう。とにかく、彼女を安全な場所に移動させることがまず優先するべきことだった。
二人で森の中を歩いていると、周りの草木が揺れる。その度にクリスがその方向に視線を向けて警戒しているが、大抵の場合は敵ではない。動物だったり、ただの風だったりする。彼も音のする方向、気配のする方向には意識や視線を向けているが、そのどれもが敵意や殺気のあるものではなかった。
そうして、彼女の鞄から薬草がはみ出るくらいには、様々な植物を回収したところで、森を出ることにした。森を出るときはクリスは多少安心して、油断しているようだったが、彼はより警戒を強めていた。こういう時こそ何かが起こるような気がしてならない。彼は森を出ても、警戒を弱めることはなく、彼女が村の中に入るまで警戒を強めていた。彼が警戒していたからか、はたまた単純に運が良かったのか、とにかく、二人に襲い掛かる魔獣は一体も出てこなかった。
それがなんとも不気味感じるが、それも当然と言えば当然である。そもそも、午前中に村の近くの森の中の魔獣は、警備隊の訓練でほとんど一掃したのだ。森の少し奥の方にいた魔獣も、巨大な鹿野せいで、村の近くの森の少し奥まで魔獣が戻ってきていない。そのため、今は安全に薬草を摘むことができたのだ。それは彼が巨大な鹿を倒したから安全であるわけだが、彼はそんなことを知ることはないだろう。
二人は村に戻っていく。その間に、ジャスに会った。警備隊の訓練をしているようで実践ではなく、丸太を地面に突き刺して、それをターゲットに見立てて、武器を振るう訓練をしているらしい。警備隊の面々も基本的には訓練に対する意欲は強いようだ。もちろん、全員が全員、同じくらいの熱量があって、訓練しているわけではなさそういな言い方だが、それも仕方のないことだろう。今の警備隊をやめたとしても、」村の中には他の仕事だってあるはずだ。なければ、他に仕事を見つけるかもしれない。そうして、警備隊もいい方向か、悪い方向かはわからないが、変わっていくだろう。少しでも村の中が安全になるなら、その方がこの村のためになることは間違いない。




