養生期間 5
クリスに手をがっちりホールドされながら、村に出て穏やかな時間を過ごす。村の中の人も彼に声をかける人も増えてきていて、彼の手をがっちり握るクリスに話しかけるものもいて、二人の姿を温かい目を向けていた。
彼自身は数日、この村に滞在しているから話しかけられるようになったと考えていた。しかし、実際にはこの村の人たちは、いきさつはどうであれ、この村が彼によって助けられていることを知っているのだ。彼の活躍をジャスやカオウが言いふらして回ったわけではない。しかし、話の流れとして、彼のことを話す流れになったり、彼のビガルパウズとの戦闘を見ていた警備隊もいる。家族にはその話をしたかもしれない。人の口に戸は立てられないとはよく言ったもので、言いふらすような気はなくとも、一人がしゃべったとしても、この小さな村の中では話も一瞬で広まってしまう。だから、この村で彼の活躍を知らないものは誰一人としていない。彼はすでに物珍しい村の客人ではなく、穏やかな森の村を救った英雄であった。
彼は村人たちとの交流に心が温かくなるのを感じた。最初から守るつもりで魔獣を倒していたわけではないが、それを感じれば、守ることができてよかったと感じるのは当然のことだろう。
そうして、彼とクリスは村の中を回っていると、カオウとジャスが彼に近づいてきた。ジャスは彼が村の中を歩いているのを見て、驚いた様子で彼に駆け寄ってきたし、それに気が付いたカオウも彼についていくように続いた。
「治ったのか。よかった。本当に良かった……」
「心配かけて悪かった。後、助けてくれてありがとう」
ジャスは彼の両肩にそれぞれ手を置いて、目に涙を浮かべていた。その様子を見れば、彼も本気で彼を心配していたことはわかるだろう。
「まったく。本当に無事だったからよかったものの、死んでたらどうするつもりだったんだ?」
カオウが横から彼にジトッとした視線を向けていた。しかし、それを見ていたクリスが彼の体を片手で押していた。
「その話はもう終わったの! ちゃんと、無茶しないって約束したもん!」
それを聞けば、カオウもそれ以上口を開いて彼を責めることはできなかった。しかし、彼もメートのことを心配していたのだ。さらにジャス、クミハ、クリスも全く元気がなかった原因でもある。メートが元気になれば、三人が気落ちしていた原因もなくなるだろう。その証拠にクリスがどついてくるほど元気になっている。
「……確かにメートは無茶をしたかもしれないが、そもそも、俺たち警備隊がもっと強かったら、お前に頼りきりにならなかったんだ。無茶をさせないようにする。本来はそれが俺たちのやるべきことだった。……メート、体の不調が全て治ったら、警備隊を鍛えてくれないか。戦いのコツというか、そういうのを教えてくれるだけでいいんだ。後の訓練は自分たちでやる。だから、頼む。お前に頼らなくても、穏やかの森の奥の魔獣くらいは倒せるようになりたいんだ」
その言葉は切実だった。彼自身も、ずっとこの村を守っていくことはできないとも考えていた。いずれはこの村を出て、狭間と呼ばれるここらを旅して、見て回りたいと、最初から考えていたのだ。この村にはすでに愛着もあるが、それ以上にこの場で停滞し続けることは、自身が許さない。
「わかった。その話は引き受ける。だが、何かを意識して戦ってるわけじゃない。コツとか、戦術とかそういうのは全く分からない。生きるか死ぬか、ギリギリで戦って本能で身に着けたような技術だからな。とにかく、実戦で教えるしかないな」
彼のその言葉に、彼に教えを請うたのは間違いかもしれないと思ったが、そうしなければ警備隊はいつまでたっても、本当の緊急事態に対処できないとも思った。結局は、彼ほどではなくとも、もっと強くならなくてはいないのは事実なのだから。
それから、ジャスとカオウと別れて、メートとクリスは家に帰ることにした。彼も目を覚ましただけで、体力も魔気も元に戻ったわけではないのだ。村を多少、歩き回っただけで体に疲労がたまっているのを自覚している。朝、起きた時にはもう大丈夫だと思っていたが、クミハの言う通り、まだ完治していないようだった。
クリスと共に家に帰り、クリスたちと夕食を取り、早めにベッドに入った。その翌日、調子に乗って散歩をしたせいか、彼はまた寝込んでしまった。起きようとしても体に力が入らない。クミハ曰く、体力と魔気が完全に戻っていないのに、外に出て歩いたかららしい。大人しく寝ていればよかったと後悔しても意味はない。彼は意識はあるものの、一日中ベッドに伏していた。だが、そのおかげか、次の日には最初に起きた日よりも体調がかなり良かった。筋肉痛もなく、体を起こせないということもない。しかし、彼はその日も安静に家の中にいた。
そして、彼が起きてから四日目。体の不調もなくなり、クミハからも運動しても大丈夫だというお墨付きももらえた。だからと言って、すぐに運動をすることもない。とりあえずは、約束通りに警備隊のいる場所に移動しようと考えた。そのことをクリスに伝えて、その場所まで案内してもらうことにした。




