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養生期間 4

 クミハの説教も終わり、彼女はメートに朝食を用意してくれていた。クリスは彼の腕を離さないように掴んでいて、四日前のように自分が眠ってしまった隙に外に出ないようにしていた。彼女がもし眠ってしまっても、その手は彼が無理矢理外さなければ、外れないほどにがっちりと両手で掴んでいた。クリスはそれだけ近くにいるというのに、彼には怒っていて、ふいと彼の方には意識的に顔を向けないようにしているのが、ありありとわかるほどだった。


 外にはいかないといいながら、森の中に入っていき、帰ってきたときには三日も眠った状態になっていたのだから、怒るのも無理はないだろう。彼もそれをわかっているから、簡単に謝って終わりというわけにはいかなかった。それだけ心配をかけてしまったことは間違いないことも理解できているから、さらに簡単に謝れない。だが、彼女にこのまま顔を背けられたままというのは、なんとも心が痛む。とにかく、彼は謝らなければいけないことをしたのだ。


「クリス。悪かった。ごめん、心配かけて」


 彼がそういうと、クリスはちらとメートの方へと視線を向けた。彼と視線が合うとクリスはまた視線をそらしてしまった。どうやら、すぐには許してくれないらしい。だが、まだ会ってそこまで時間は経ってないはずだが、ここまで懐かれるとは思いもしなかった。そして、それだけ好かれているというのに、嘘をついて心配をかけてしまったことが申し訳ないと同時に、うれしくもあった。もう、彼は両親や友人には絶対に会えない。最初にいた世界ではすでに死んでしまっているのだ。前の世界で出会った人たちも彼を心配するようなことはなかった。そのため、ここまで心配して、世話を焼いてくれる人たちというのは嬉しいことだった。


「なぁ、クリス。俺は、この村を守れてよかったと思ってる。あれだけの無茶をしたけど、その結果、この村の人たちは何も知らず、怖い思いもしないで、平和に生活できてる。俺だけがこれを守ったなんて言えないけど、それでもあの魔獣を倒せてよかったよ」


「でも、メートお兄ちゃんが、死んじゃったら意味ないじゃんっ」


 彼女は目に涙を浮かべて彼の方に顔を向けた。その表情を見るだけで、本当に彼女が自分のことを心配してくれたのがわかる。もちろん、彼女の心を最初から疑ってはいないが、その心配の大きさを目に見える状態でみてしまった。それだけ心配をかけてしまったという現実が、彼の瞳にも映る。


「ああ、だから、俺は死なないよ。せっかく、戦って勝っても死んでじゃったら意味がない。だから、俺は生きることに執着してる。無茶はしないといったばかりだけど、どれだけ無茶をしても、それは死なない。それは絶対だよ」


 死なないこと。それは彼という存在の根底に根付いた癖のようなものである。前の世界で作られた彼にとっては絶対の規則。生への執着で強敵とも戦ってきたのだ。


「……ほんと? 死なないって?」


「ああ、絶対だ。俺が死ぬのは寿命が来た時だけ。戦って死ぬなんて、馬鹿なことはないよ」


「そっか。でも、嘘をついたことは許さない。でも、もう怒るのもやめる。クリスもお兄ちゃんと仲良くしたいもん」


 そういいながら、彼女はメートの手に額を当てて左右にこする。彼はそんな彼女の頭の上に手を置いて、優しく撫でた。それを彼女は受け入れて仲直りとした。


 そして、クリスと話している間に、クミハの料理が出来上がり、空腹の彼はその料理を食べ始めた。最初に作ってくれた料理はすぐになくなったが、既にクミハは次の料理を作っていて、彼はそれも食べきってしまった。朝食とは思えないほどの量を平らげたが、彼は少しも苦しそうにはしていなかった。しかし、満福にはなったようで、彼はふぅと息を吐きだしていた。


「ごちそうさま。クミハさん、おいしかったよ。ありがとう」


「いいえ、満足したみたいでよかったわ。……一応、言っておくわ。三日間眠っていたけれど、まだ戦闘みたいな体の動かし方はできません。後、三日くらいは安静にしてください。運動なんてしちゃだめよ?」


 彼女が指を立てて、子供に言い聞かせるように彼に言い聞かせる。四日前にまだ怪我が完治していないだろうに、気絶するまで戦闘して帰ってきた前科が彼にはあるからか、彼女は妙に威圧的にそう言っていた。彼はその言葉に頷くしかできなかった。


 朝食も食べ終わり、彼はクリスと共に家の外に出た。少し歩くだけなら大丈夫だとクミハに許可を得て、また村を見て回ることにした。


「いい、クリス。メートさんには絶対に無茶させないようにね。あと、具合が悪そうだったら、すぐに戻ってきてね。いい? メートさんを守れるのはクリスだけだからね」


 クミハがクリスに言い聞かせているのが、彼にも聞こえてきているのだが、おそらく意図的だろう。あなたが無茶をすれば、クリスが自身の責任を気にするぞと言っているのだ。今回ばかりは、無茶をする気もない。軽い運動がてら散歩をするだけだ。


 クミハに言い聞かされたクリスはがっちりと彼の手を握り、彼が無理やり力でもって引きはがさないと剥がれないくらいには力強く掴んでいた。

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