養生期間 3
彼がクミハの治療を受けてから三日ほど、彼は目を覚まさなかった。クリスは眠ったままの彼の近くから動かずに、たまに涙を見せるほどに心配していた。もちろん、彼女の両親である二人も彼のことは心配していたし、辛そうなクリスを見れば何とかしたいと考えていたが、何もできることはないことが、さらに辛いことだった。カオウも彼の家に来て、彼の様子を見に来ていた。
そして、彼が眠ってから四日目の朝。彼は頭痛と全身の筋肉痛のような痛みによって目を覚ました。
「う、て、ぇ」
声が掠れて、咳き込んだ。喉にも痛みはあるが咳をする度に体が動くため、筋肉痛が体に響く。そして、数度席をすれば、何とか咳は収まった。筋肉痛に耐えながら、体を起き上がらせる。外はすでに明るく、窓から膝して入ってきている。森から戻ってきて、誰かにあったことまでは微かに覚えている。それが誰だったかまではわからないが、この家にいるということはジャスか、カオウなのだろう。そして、そのまま連れ帰ってきてもらって次の日だと彼は認識していた。
彼がこの場所にいるということは、どうやら村は無事らしい。巨大な鹿が生き返って、村を攻撃したというようなことはなかったようだ。痛む体に耐えながら、体を起こしてベッドから降りて立ち上がる。自身の体重が足にかかり、太ももやふくらはぎの辺りが強く反応して痛みを感じるが、もうそれも気にしないことにした。耐えられる程度の痛みであれば、問題はないだろうと彼は考えていたのだ。そして、彼の腹がぐぅぅとなった。彼は昨日の昼食以降に何も食べていなかったなと考えて、部屋から出ようとした。しかし、彼が部屋から出る前に、彼の部屋のドアが開く。そこにいたのはクリスであった。
「あ、お、お兄ちゃん。起きたんだ……。よかった……」
クリスがそういうと、涙ぐんでついには大声で泣き出してしまった。彼は突然のことにおろおろしながら、彼女に近寄った。一晩寝ただけだと思っている彼は、クリスがなぜそこまで泣いているのかわからなかった。確かに気絶するくらい体力と魔気を使ったことは事実だが、大きな怪我は一つもしていなかったはずだ。見た目には疲労が溜まっているだけに見えたはずだが、と彼が考えていると、その後ろからクミハが入ってきて、彼女も彼が起きているのを見ると、目に涙を浮かべ始めて静かに泣き出してしまった。その意味が全く分からず、彼は二人が落ち着くのを待つしかなかった。
二人が落ち着いて、リビングにあるテーブル迄移動した。二人は目が腫れたまま彼を見ていた。そして、クミハの方が話し始めた。
「メートさん。実は、あなたが眠ってから今日が四日目なんです。この三日間、ずっと眠っていて、だから、みんなあなたを心配していて……」
彼はそう聞いても、それをすぐに信じることはできなかった。だが、目の前でこれだけ泣かれれば、それが嘘だとは思えない。
「……本当に、三日も寝ていたのか……」
確かに多少なりとも無茶をして戦闘を行ったことは彼も理解している。だが、あの鹿に攻撃も受けておらず、体力と魔気を消耗していただけだ。だというのに、それほどまで長く眠っていたことに驚きを隠せない。そして、三日も寝たというのに、体にはまだ筋肉痛が残っているのだから、今の体にはあれだけの戦闘でギリギリというわけだ。この世界に来る前のような無茶をすれば、この体はその負担に耐えられないことになるだろう。そもそも、あのレーザーの魔法だって何発も撃てたはずなのに、今の体では無茶をして気絶すること前提で二発だけ。改めて、今の体の貧弱さを感じる。
「そう、か。心配かけたみたいでごめん。俺もそこまで眠るとは思ってなかったんだ。確かに無茶はしたが、この狭間に来る前はこれくらいはどうってことなかったんだ。だが、狭間で作られた体は前の世界みたいに無茶はできないくらいに弱くなってた……」
「……それなら余計に無茶はしないで。村を守ってくれたことには感謝してます。だけど、村は村人がいればまた作れます。でも、あなたが死んでしまえば、その代わりはいないんです。いくらでも心配はします。治せる傷は治します。でも、死んでしまえばもうここに戻すことはできないんです。だから、死ぬかもしれないような無茶はしないで」
クミハの言葉がメートの心にもしみ込んでくる。確かに、今回はどうにかなった。それもジャスがここまで運んできてくれて、この家で看病を受けることができたからだ。もし、それがなければあの森で野垂れ死んでいたことは間違いない。
「ああ、わかった。自分の力量はちゃんと見極めることにする。今回みたいに、ギリギリで戦ったりしないよ。もっと、ちゃんと鍛えてから戦うようにする。それか、戦えなかったら全力で逃げるよ」
二人の前ではそういうしかなかった。それでも、彼はおそらく無茶をすることになるという自覚はあった。




