養生期間 2
ジャスが村に帰ってくると、村と森の間の入り口を警備していたカオウが、村に近づいてくる二人を見て、ぎょっとしていた。彼もメートが外に出ないようにしようという計画は知っていたというのに、昨日と同じようにボロボロの薄汚れた様子で帰ってきたのだ。大怪我や致命傷を負っているわけではないように見えるが、メートが妙にぐったりとしているように見えた。
彼を運ぶジャスもカオウに気が付いて、視線だけを彼に向けた。カオウが彼に駆け寄り、運ぶのを変わろうとしたが、ジャスは首を振って拒否する。
「……はぁ、こいつは、また無茶をしやがったんだ。この村からは見えなかったかもしれないが、森の木々より頭一つ分背の高い、巨大な鹿の魔獣と戦ったんだ。人間とは比べ物にならないほどでかいやつだ。それを一人で殺した。体力も魔気も最低限しか残ってないんだ。俺の家のベッドで寝かせてやれば、数日すれば治るはずだ」
ジャスはカオウが背負うのを変わろうとしたのを拒否した理由は少しも語らなかったが、おそらくは彼しかこの戦闘を知らないからだろう。カオウも巨大な鹿の魔獣といわれても想像することもできない。そんな巨大な魔獣は外でも見たことがないからだ。狭間の中でも穏やかな場所であるここには、巨大で危険な魔獣の話などは風のうわさでしか知らない。巨大な魔獣といわれても、噂話でしか知らないドラゴンくらいしか、大きな魔獣は知らないのだ。カオウは結局、彼の言っていることの中で、メートがまた無茶をしたという部分しか理解できず、カオウの横をジャスは通り抜けて、カオウはその場でその背を見つめることしかできなかった。
彼が村に戻ってきたのは、既に夕方も過ぎて、空が紺色になったころだった。彼が家に帰ると、テーブルにはいくつかの料理が並べられていて、クミハはテーブルについて料理を見つめていた。彼が家に入ると同時に、彼女の視線が彼らに向けられる。ジャスの帰りが遅いことを心配していたのだが、それと共に彼の背負うメートを見て、目を丸くしていた。
「……メートさん。まさか……」
「いや、死んじゃいない。ただ、気絶してるだけだ。だが、体力も魔気も最低限しか残ってない。クミハ、確か治癒術、使えたよな。少し回復してやれないか?」
「え、ええ。わかりました。そっちのベッドに寝かせて」
彼が寝るのに使っているベッドに彼を寝かせる。血まみれだったベッドはすでにクミハがきれいにしていた。血の跡は多少残っているが、神経質に気にしなければわからない程度だ。彼をその別途に寝かせて、クミハがメートの胸の辺りに手を置いた。
「失礼します。少し入ります」
治癒術というのは、この世界の医者のようなものである。治癒術を扱える人を治癒師と呼び、治癒師は自身の魔気と患者の魔気を混ぜ合わせて、体の自己治癒能力を高めて治療するのだ。実際に患部をきる必要はなく、あくまで患者自身の治癒能力を高めて治療するというものである。そのため、治癒能力が働かなくなったり、鑑賞できるほど魔気が残っていなければ、治癒術では胴留することもできない。彼の体にはかろうじて、鑑賞できるほどの魔気が残っていて、クミハは自身の魔気を彼の体に入れて、彼の体の魔気を合わせて、彼の体力の回復能力を上昇させる。急上昇させると体に大きな負担になり、帰って体力を消耗させてしまうため、ほんの少しずつ上げていくのが治癒術のコツである。そして、その間は常に魔気の流れに集中し続けなくてはいけない。もし、唐突に四属性の牧のうちの一つを強めたりすれば、それは体の負担どころではなく、バランスの崩れたまきが暴走し始めて、それぞれの影響が体に出てしまう。治癒術の説明は誰でもできるほど簡単に聞こえるが、実際にやるとなると、神経を研ぎ澄ませて行う繊細なものである。
クミハが治癒をしている間も、ジャスはその近くで治療を見守る。彼には祈ることしかできない。治癒術を使えない彼は何もできないのだ。
そんな状態がしばらく続いて、ようやくクミハがメートの胸に当てていた手を離した。彼女は息をふぅと吐き出して、大きく息を吸う。自身が集中していて、かなり浅く呼吸していたことを自覚する。そして、治療が終わると同時に、全身から汗が噴き出てきた。肩で息をするようになり、まるで村中を全力で走ってきた後のような疲労感が全身を襲う。しかし、治癒術を行った後にそうなるのは、当然の反応であることを彼女は知っている。そのまま、床に手をついて、呼吸を整えるために深呼吸をする。自身の体の魔気のバランスを整えるように意識しながら、体の疲労を少しずつ和らげる。数度深呼吸をすれば、体の疲労はある程度はなくなって、普段通りに活動できるくらいには回復していた。
「とりあえず、今できることはやったわ。後は、また明日様子を見ましょう」
彼女はそういって、ジャスを連れて、部屋から出て行った。




