狭間に落ちる 1
森の奥から地震というか、地面が動いているような重低音が聞こえてきたことで、ジャスの言葉も止まる。そして、彼が森の方を向いている間に、メートは森の中に走った。ジャスは既に走り出した彼に気が付いて、彼を止めようとしたが、圧倒的に彼の方が動きが速く、彼を捕らえることなどできはしない。しかし、ジャスは彼の背を追いかけて、森の中に入っていく。
「止まりなさい! 何が起きていたって、お前には対処させない。絶対にだ!」
ジャスが走りながら、声を荒げて彼を止めようとしていたが、彼は走るのをやめなかった。そして、走る速度も彼の方が速く、メートとジャスの距離は離されていくだけだった。森の中なら、ジャスの方が慣れているはずだが、彼よりもメートの方が森の中をすらすらと進んでいく。もちろん、彼が相手でなければ、ジャスも森の中を動く速度は速い方だろう。だが、彼は草木を物ともせずに走っていくのだ。
もはや、走っても追いつけないであろうほど離されてしまった。彼はそれを見て、その場に立ち止まった。追いつけないと分かってしまえば、走る気力もなくなってしまった。しかし、森の中で何かが起こっているのは間違いない。ジャスは村に戻るわけにもいかず、そのまま彼が走っていった方向に駆け足でメートの通った道を辿っていった。
ジャスの制止も無視して、森の中をかけるメートは、森の奥の方まで到達するのもすぐだった。彼が移動しているところは既に、ビガルパウズと戦った辺りを過ぎている。森の一部の木々が倒れてて、広場のようになっているところがあり、それが戦闘のあった場所だと分かりやすい場所になっていた。彼はその場所も既に通り過ぎて、その先に走っていた。森の奥に入っていけば、穏やかな森であっても、木々が増えて、少しだけ暗くなっていた。夕方という時間も相まって、森の中も多少不気味になっていた。このまま日が完全に傾けば、穏やかな森でも真っ暗になり、視界が効かなくなるだろう。だが、彼はそんなことは考えていない。暗くなった時のことなど頭の中にはないのだ。彼はさらに森の奥へと進んでいく。
そして、さらに奥に進んだところで、まるで地面ごと切り抜かれたようになっている場所があった。その切り取られた先には何もなく、透明な空間が広がっているだけだった。森はそこで終わっていて、それ以上、進むことはできないだろう。無の空間と森の境界の辺りに移動して、その境界を見ようとしたのだが、その境界には見えない壁があり、触れればそこに固い壁があるのはわかるのだが、見るだけではそこにないがあるかもわからない。
「これが、さっきの音で起こったのか」
彼は周囲を見渡してみたのだが、境界はずっと続いていて、森もその境界よりも先には少しも伸びていなかった。本当に森の先が切り取られているようで、それ以上の情報は一つもない。壁の先をいくら見つめても、その先には本当に何もない。彼はそれ以上そこでできることはないと分かると、境界に沿って移動することにした。
ここらの地理関係なんて知らない彼は、自身の勘で移動することにした。村のある方とは反対の方向へと移動する。その場所から少し歩いたところまで移動すると、再び地面が動くような重低音がした。今度は、村にいた時よりも、その音が大きく聞こえてきた。そして、境界を見ていると、その境界に亀裂が入っているのが見えた。彼が通り過ぎた境界の壁にひびが入っている。もしかすると、既にひびが入っていて、ただただそれを見逃していただけかもしれない。彼はその亀裂に近づいていく。その亀裂は既に四方八方に広がっていて、今にもその壁が割れそうなだった。その壁の亀裂から何が出てくるのかわからないというのに、彼はそれに近づいていく。
手の中で盾と剣を創造して持った。彼は警戒しながら、さらにひびに近づいていく。それがもしかすると、《《狭間に落ちる》》という現象なのかもしれない。そう考えたところで、この先に起こることの予想を立てることはできない。ひびを塞ぐ方法もわからなければ、ひびを広げて、落ちてくるものを引っ張り出すというのも危険すぎてできない。結局は、彼はそこでひびがどうなるかを見ることしかできなかった。
そして、しばらく待っていると、彼の近くの草が揺れた。辺りも暗くなり始めていて、彼はその音の正体をすぐには理解できなかった。ただ、微かに入る光が作る、音の原因は人型ではないことだけはわかった。彼は創造した武器を相手の方へと向けて、その音の原因が攻撃を仕掛けてくるのか、来ないのかを待っていた。




