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迷い人の行き先 3

 村の方へと移動し始めて、しばらく歩いてきたが、特に景色が変わることもない。村が明らかに近づいてきているというだけで、森と草原の境にいるという景色は変わることがない。魔獣も近くにはいないし、戦闘になることもない。


 そうして、彼が歩き続けていると、森の方から足音がした。彼はその場で停止して、その方向に視線を移すと、その先には背丈の小さな人が森をかけて抜けてくるのが見えた。その子供のような背丈の人の後ろからは四足歩行の中型の犬が追いかけてきていた。その犬は明らかに魔獣で、その人に襲い掛かろうとしているのがすぐに見て取れた。


 逃げている人は彼に気が付いているのか、いないのか。彼のいる方向へと近づいてきているようだった。近づいてくると、その人物が何かを抱えているのがわかる。それ以前に、逃げている人が明らかに少女であることもすぐにわかった。そうして、近づいてくれば、少女が必死に逃げているのも理解できた。彼は少しだけ森の中に入り、少女の方へと近づいていく。少女は彼の方へと視線を向けた。少女の視線と彼の視線がぶつかったのは彼も理解していたのだが、少女はふっと視線を逸らすと、彼の方へとそのまま近づいてくる。少女の後ろについてきていた中型犬の魔獣は三匹。その程度であれば、相手できないはずがないだろう。過去の記憶があるため、余計にそう感じていた。


 少女は彼の横を通り抜けていく。


「ごめんなさい……」


 少女の小さくとも、そんな言葉が聞こえてきた。空耳かもしれないと思えるほどの小さな声だったが、それが空耳であるはずがないと彼は結論付けて、持っている剣と盾を構えた。魔獣の特性として、敵が逃げたとしても別の生物が出てくれば、そちらに攻撃するというものもある。全ての魔獣がそういう特性を持っているわけではないだろうが、少なくとも彼の目の前にいる魔獣はその特性を持っているようだった。少女と彼が入れ替わると、魔獣たちはすぐに近くにいる彼の方へとターゲットを変える。魔獣は止まっている彼の狙いをつけて、戦闘の一匹が飛び掛かってくる。彼は腰を低くして、盾で飛び掛かってくる犬に盾をぶつけて、空へと弾く。空中に放られては身動きもできずに、相手は宙を飛ぶ。その間に、彼の左右から残りの二匹の魔獣が彼に襲い掛かる。鋭い牙を彼に見せながら、かみつこうとしている。その場所から移動して、回避する。流石に、彼が回避したらといって左右から飛び掛かっていた魔獣同士がぶつかるということもなく、彼のいた場所で交差して、地面に降り立つ。そのまま、相手は体を彼に向けなおして、グルルとうなりながら、彼に攻撃を加えようとしている。その二匹がそうしている間に、二匹の後ろに最初に飛び掛かってきた魔獣が地面に落下していた。だが、落下しただけでは大したダメージにはなっていないようで、相手はすぐに起き上がり、彼の方を睨みつけていた。三匹そろって、彼の正面から走って近づいてくる。攻撃を回避された二匹の方が先に彼に飛び掛かる。今度は口ではなく、鋭い爪のついている前足で彼に攻撃しようとしているのが、簡単に予想できるくらいには見え透いた攻撃であった。そのため、彼はそれが囮のようなものだと思い、次の攻撃を警戒する。二匹の爪を回避するわけではなく、片方を盾で受け止めて、もう片方の前足を剣でふるって払った。次の攻撃を警戒して、追撃はせずに、相手の攻撃を防ぐか回避するために構える。だが、二匹からは次の攻撃がすぐには来ない。三匹目が見え透いた飛び掛かりをしてきただけで、その無防備な相手の胴体に真横から剣をすっとふるうだけで、相手の胴体に、斜めに刃の軌道が乗っていた。


 しかし、胴体を切ったというのに、相手は地面を転がり、すっと立ち上がった。腹部からぼたぼたと血を流しているというのに、全くダメージを受けているような様子はなく、ふらふらもせずに戦闘態勢をとっている。しかし、すぐに仕掛けてくるわけではなく、彼の攻撃を警戒しているのか、ゆっくりと距離を詰めてきていた。


 相手のその様子は怖いと感じるが、それでも相手の知能はそこまで高くはない。迷宮城で戦ってきた相手と比べれば、優れた能力もなく、読めない戦術を使ってくるわけでもない。そう考えている自分の油断に気が付いて、相手が完全に動けなくなるまで勝敗はわからない。最後の最後で捨て身の攻撃をしてこないとも限らない。相手が弱く見えるというのは、警戒し続けない理由にはならないのだ。たった少しの油断が命取りになるというのは、身をもって体験しているのだ。彼は改めて、剣と盾を握る手に力を入れて、相手を見据える。

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