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穏やかな森の異変 4

「どうかしら。きついとか、緩いとか、動きにくいとかは大丈夫?」


 着替えを終えて出てきたメートにクミハがそう聞いた。彼は軽く体を動かしながら、大丈夫と答えた。すると、彼女は真剣な視線で彼を見た。そんな視線を見ては、彼は何を言われるのかと、心構えをしていた。


「村を救ってくれてありがとう。あなたがいなければ、きっと村は魔獣たちに襲われていたわ」


 彼からすれば、村を救ったといわれても、そんなつもりは一つもなかった。特に救おうという気はなく、単純に頼られたから戦っただけだ。彼自身が救ったと考えようと思えば、その人数は二人だけ。カオウとジャスのみである。彼自身も二人を救ったという恩を返せというつもりは微塵もない。カオウはこの村で気にかけてくれていたから。ジャスは寝床や食事を提供してくれたから。彼らに恩を返したのは自分であり、それを恩だと思われても彼は感謝をどこに返していいのかわからなくなる。


「いえ、その、大丈夫ですよ」


 相手の感謝も蔑ろにはしたくなくて、何が大丈夫なのかわからないが、とにかく返事をしようと変な返しをしてしまった。クミハはそれを、気にしなくていいという意味にとらえてしまった。もちろん、村を救ってもらった恩を気にしないというわけにはいかない。彼女にとっては村を救ったということは、家族を、娘であるクリスを救ってくれたということにもなる。警備隊である夫も怪我の一つも負っていない。ビガルパウズとそれ以上の力を持った魔獣相手に、被害は彼一人だけ。全ての被害を彼が庇ってくれたと考えてしまうのも無理はないだろう。警備隊では全く歯が立たなかったであろう相手を倒してくれたのだから。


「とりあえず、食事でもどうですか」


 彼は昨日の夕食を食べていないことを思い出して、そのせいで彼は腹がすいていると、思い出したように空腹感を感じ始めた。だから、彼女の問いには肯定した。


「じゃあ、テーブルに座っていてください。ほんの少しだけ待っててね」


 彼女がそう言うと、そのままキッチンの方へと移動して、何かを作り始めた。そうして、彼が椅子に座ろうとテーブルの方を見ると、クリスが彼の方を見ていた。隣に座ってという視線を彼に送っていて、その視線にあらがうことなどできるはずもなく、彼は彼女の隣の椅子を引いて座った。クリスの方を見ると、彼女は何となく悲しそうな表情をしていた。彼の手にやさしく触れて、そのまま彼に視線を向けた。まだ少女だというのに、彼女のその表情に、慈愛のようなものを感じてしまった。


「もう、傷は痛くないの?」


「あ、ああ。大丈夫だ。ほら、もう血も出てないだろ?」


 彼は多少動揺していたが、彼女にはばれていないようだった。彼が無事であることが分かったのか、クリスはいつもの無邪気な笑顔を浮かべて、よかったといっていた。それを見れば、昨日の時点で彼女は相当心配していたのも思い出す。彼女が自分の名前を必死に呼んでいたのだ。さらに機能の夜には泣いている彼女の頭をなでることもできなかった。だから、彼は彼女の頭に手を載せて、口を開き、優しい声で彼女に話す。


「大丈夫。俺はあの程度じゃ死んだりしないからな。でも、心配してくれてありがとな」


 クリスは少しだけ俯いて、うん、と小さな声で、返事をしていた。そのまま、彼に頭をなでられている。元気な彼女がしおらしくなっているのが、本当に心配をかけてしまったんだと多少後悔するも、まだ会ったばかりだというのにそれだけ気遣ってくれる人がいるのに、胸の内が温かくなる。そして、先ほどはそういうつもりもなく、感謝されたが、今度は本当に村を守るために、行動しようと改めて決意をする。この村の為でなくとも、この家族のために、行動しよう。


 それから、クリスと話している間にクミハが料理を運んでくれた。それは彼から見れば、サンドイッチのようなもので、三角形のパンとパンの間に、具材が挟んであった。おそらく、クリスに紹介された村の中に大きな畑で撮れた野菜や森の中に住んでいる魔獣や動物の肉なのだろう。見た目には嫌悪するどころか、とてもおいしそうであった。彼は躊躇することもなく、目の前に用意された料理を手で掴んで、口に運んだ。一口かじると、新鮮な葉の感触があり、その後に濃い味のついた肉が舌に触れる。食べなかったのは一食だけだったが、まるで三日と食べていないかのように、サンドイッチをのどに詰まらせるのではないかというような勢いでガツガツと食べ進める。あっという間に、サンドイッチはなくなってしまったのだが、その食いっぷりを見て、クミハが次のサンドイッチを作ってくれていたらしい。それを彼の前に出して、ニコリと笑った。自身で今の食べ方を反省しつつも、次のサンドイッチも同じようにして食べてしまった。

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