穏やかな森の奥の魔獣 2
彼は盾を構えたまま、相手に突っ込んでいく。彼が近づいてくるのを魔獣も気が付いていた。先ほどと同じように彼に体当たりをしようと、相手は身を低くしていた。彼はそれもお構いなしに、相手の全力で走りながら、近づいていく。彼は盾を正面に構えて、相手の体を受け止めるようとしていた。魔獣は彼がそう考えているとも知らず、盾に向かって飛び出した。彼と魔獣の距離は開いてはおらず、お互いにぶつかるように動けば、その距離は一瞬で詰まる。彼の盾に巨体の体当たりの衝撃が加わる。先ほどのよりも強い衝撃に感じるが、体全身で衝撃を受けるよりも盾を持つ手でその衝撃を受け止めているからだろう。彼は身を低くして重心をさげる。体が簡単に持ち上がらないようにして、相手の体当たりに耐える。相手はそれでも前に進むのをやめずに、彼に体をぶつけ続けていた。
彼は少しずつ盾をずらしていた。相手の体の横に移動していき、相手の横を抜けて、相手は盾がなくなり、そのまま前に突っ込んでいく。前の支えがなくなった相手は、顔から地面にこすりつけて、地面を滑っていく。見た目にはかなり無様な見た目であるが、魔獣である相手はそんなことも気にせずに、立ち上がろうとしていた。彼は盾をその場に捨てて、金属の斧を創造する。それも木こりが使うようなものではなく、頭の部分が左右にあるバトルアックスだ。彼は立ち上がろうとしている相手の方にジャンプして近づく。跳び上がってからバトルアックスを振り上げる。空中でバランスを取りながら、相手に近づいていく。魔獣は彼が近づいてきていることに意識を割くことができず、立ち上がろうとしているところだった。そうして相手が体を持ち上がったところで、彼は相手の真上から落下する勢いを乗せた重いバトルアックスを振り下ろしていた。相手の体が再び地面に叩きつけられて、その上、バトルアックスの刃が相手の体の食い込んでいた。剣では少しも刃は入らなかったが、落下とバトルアックス自身の重さでようやく相手の体に刃が通るようになっていた。しかし、それでも相手の体に少しだけ刃が入る程度のもので、それだけやっても相手の体を両断することはできなかった。
彼はバトルアックスを再び持ち上げて、相手から離れていく。そのまま、魔獣との距離を空けた。相手が立ち上がると、彼が作った傷から出た血が相手の体毛を伝ってポタポタと垂れていた。相手のその痛みがないのか、何事もなかったように、彼の方に振り返り、再び突進をしようとしていた。彼はバトルアックスを構えて、相手の体当たりを受け止めた。盾でなくとも、重量のあるバトルアックスであれば、相手の体当たりを受け止めることができたのだ。彼は重心を低くして、また吹っ飛ばされないようにしていた。しかし、盾の時のように防いでいる面をずらし、相手とすれ違うというようなことをするのは難しい。だが、それは盾でやりやすいことであり、バトルアックスはそれでしかできないこともある。
彼はバトルアックスの握る部分の頭が付いている場所とは反対の位置に片手をずらして、それを自分の方へと引く。棒の中間の辺りを支えにして、前に力をかけてくる相手を押し返していた。相手の体をはじいて、少しだけ後ろに引かせる。その隙に斧を振るために、後ろの斧の頭を引いて、離れた相手の体の横に叩きつけるようにバトルアックスを振るった。はじき返された相手はすぐに体勢を整えることはできなかったため、彼の振るう斧に思い切り当たっていた。しかし、少しよろめくだけで、彼には手ごたえのようなものがなかった。彼は一撃だけで諦めることはせずに、続けて斜めにした斧の頭を下ろして、相手の顔の下の辺りから斧が当たるように斧を振り上げた。相手がよろめいている間に彼の攻撃が迫り、回避することもできずに彼が振り上げた斧の頭が相手の頭をとらえていた。彼が振り上げ切った斧と共に相手の頭が上に持ち上がる。相手は顎のあたりから顔を思い切り打たれたせいで、意識が朦朧としているようだった。彼が振り上げた斧は高い位置にあり、相手の頭は地面に触れている。その距離を彼は思い切り振り下ろして相手の頭を砕こうとした。相手は回避できる状態ではなく、相手の脳天にバトルアックスが直撃する。相手の頭から鈍い落として、相手の体が痙攣したかと思えば、その痙攣もすぐに収まり、相手は動かなくなっていた。相手の頭を砕けたのか、まだ生きているのか。彼は念のため、再び斧を振り上げて、相手の首のあたりに振り下ろす。一度や二度では首を落とすことができずに、何度が振り下ろして、相手の頭を胴体から切断した。