町に滞在するなら 4
「メート、力を貸してほしい! 君は戦えるんだろ!」
クリスの身を案じた後に、メートに視線を向けたジャスは叫ぶようにそういった。唐突すぎて、彼はすぐには理解できなかった。しかし、彼が返事をしないでいると、相手はじれったいというような様子で、彼に詰め寄った。
「クリスを助けられるほど強いんだろ。なぁ、頼む。俺たちを助けてくれ!」
ジャスは彼の肩を掴んで、彼に懇願する。彼もようやく、少しだけ今の状況を理解したようだった。誰かが何かに襲われているということなのかもしれない。襲われているといえば、おそらく魔獣なのだろう。だが、彼もその依頼をはいわかりましたと二つ返事で返すわけにはいかなかった。何の情報もなく、戦いに行くほど彼は馬鹿ではないのだ。相手の情報が少しでもあれば、彼は有利に戦えるかもしれない。もし、そうでなく、戦闘能力だけが自身より上だというのなら、先手を打って自分に有利な戦闘の流れを作り、戦うことだってできるだろう。昨日戦ったあの三匹の犬のような魔獣程度の戦闘能力であれば、戦うにしてもそこまで策を練る必要はないだろう。三匹で連携してくるというだけで、それ以外に強い点はなかったのだ。だが、ジャスの様子からすると、あの三匹の魔獣のようなものではないのだろう。あの程度であれば、警備隊が対処できないはずがないだろう。確実に、警備隊にいても想定外の魔獣と、彼は覚悟して、彼の話を聞くことにした。
「あ、ああ。でも、警備隊の奴が今も戦ってるんだ。速くいかないと、あいつらが死んじまう! 歩きながらでもいいか、頼む」
彼はあまりその言葉に頷きたくはなかったが、相手の様子を見れば、切羽詰まっていることなど、考えずとも理解できることだった。彼はクリスの近くから離れて、ジャスの方へと近づいた。それだけで、ジャスは彼が力を貸してくれるものだと信じて、二人で家の外に出ていった。クリスも家の外に出ようとしたのだが、ジャスが彼女を睨み、家の中にとどめるようにしている。そして、さらにクミハがクリスのことをしっかりと抱きしめて、家の外に出さないようにしていた。クリスもジャスが家の中に入ってきたときの様子と、クミハが本気で自分を止めているのがわかり、クミハに抱かれるままになっていた。
「メートお兄ちゃん、気を付けてね」
クリスは心配した様子で、メートにそういった。父親には何も言わなかったが、ジャスはそれどころではないようだ。メートはそういったクリスの方へと手を振り、大丈夫であることを示していた。
そうして、家から出ると、ジャスは急ぎ足で移動し始めた。彼もそれに続いて、彼と同じくらいの速度で動き出す。
「前を気をしている余裕がないから手短に教える。魔獣はビガルパウズという熊のような魔獣だ。本来なら穏やかな森の奥の奥に棲んでいる魔獣で、こんな村の近くになんて出てくるはずがないんだ。頼む、誰も死なせたくないんだ」
魔獣の名前を言われても、彼はその魔獣がどういうものかはわからない。熊のような魔獣といわれるとどうにも怖いと思ってしまう。だが、今は戦う力もあり、怖がりすぎることもないだろうと何とか自分の心を持ち直す。そして、ビガルパウズという魔獣の行動について、ジャスに話を聞くことにした。
ビガルパウズはこげ茶の体毛を持つ熊のような魔獣。鋭く頑丈で長い爪が特徴で、その爪を一振りすれば、木の幹も簡単に切り刻むことができるため、爪の動きに注意するべきである。そして、その長い爪をもちながら、動きが素早いため、すぐにビガルパウズの爪のリーチの中に入ってしまい、木の幹を切り刻む爪の餌食になるらしい。常に相手の爪が届かない位置取りをし続けなければいけない相手であるということを教えてもらった。素早さがどれくらいのなのかはわからないが、話を聞く限りは勝てそうな相手である。どんな相手であっても油断して殺されるなんて結果にはしたくないため、彼はその話を聞いて気を引き締めた。
そして、話を聞いた後は、走って移動する。村から出て、さらに森の森と草原の境界に沿って進んでいく。あまり村から離れていない場所から森の中に入り、多少草木が分けられて、既に誰かが入ってきた場所を通って、穏やかな森の中に入っていく。
森の中に入って、少し進んだところで、何かが戦っているのが見えた。その何かが戦っているところだけ、木々が倒れていて、日がその場所に降り注ぐ。森の中に明るい広場のようなものができていて、少し近づくだけで、そこに一人の人間と魔獣が戦っている光景がありありと見えてきてしまっていた。