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町に滞在するなら 2

 翌日。朝日が窓から咲きこんできて、彼は自然に目を覚ました。一瞬、周りの景色を見て、迷宮城の中に戻ってきたのかと持ったが、すぐに昨日のことを思い出した。彼はベッドから抜け出して、軽く衣服を整える。それだけで昨日と同じくらいに綺麗になっていた。そして、不思議なことにどうやら体が汚れるとかそういったことはないようで、体から汗などの匂いがするということもなかった。特に寝汗が衣服にしみこんでいるということもないようだった。彼は椅子の背もたれにかけていたベストを取り、そのままそれを着て、その部屋から出ることにした。


 部屋から出ていくと、そこにはクリスたちの姿があった。クリスの正面に彼女の両親である二人が座り、まじめな顔をして子供に語り掛けているようだった。だが、クリスの方はどうにも納得がいかないような表情で二人に視線を返している。彼はどうにも空気がピリついているような気がしたが、その空気をどうにかすることができる気はしなかった。そのため、彼はその場で黙ったまま立っていた。そして、その様子に先にクミハとジャスが気がついて、視線を彼の方へと向けていた。その視線にクリスも気が付いて、彼の方に視線を向けていた。そして、少女は何かを思いついたように、椅子から飛び降りる勢いで降りて、彼の近くに移動する。それから彼の手を握り、二人の方へと視線を向けた。彼は何が始まりのかと、額に少し汗が浮かんでいた。


「森に入っちゃいけないのは一人だと危ないからでしょ! なら、メートお兄ちゃんがいれば大丈夫でしょ! 二人なら森の中に入っても……」


 二人は少し困惑した表情で、彼を見ていた。そして、今この家の中の三人の状況を把握する。おそらく、昨日の魔獣に襲われたことが問題なのだろう。クリス一人で森の中に入って、魔獣に出会ったときに一人ではそのまま襲われるだけかもしれない。だから、クリス一人で森の中に入らないように言ったのだろう。だが、彼女にとって森の中は庭のようなもので、魔獣が出たところで逃げて村まで来ることができるのだ。それに弱い魔獣であれば、森の中の草木の中のもので対抗策を作ることもできていた。だからこそ、いきなり森の中に入るな、と言われても素直にそれを聞くことはできないのだろう。そして、おそらく一人で入ってはいけないというところまで話して、その途中で自分が部屋から出てきてしまったのだと察する。そして、おそらく、二人は一人でなくとも森の中には入ってほしくはないのだろう。村の中なら誰かしら彼女を守ることができる可能性がかなり高いが、森の中となれば、警備隊も森の中までは入らないはずだ。だから、今日というよりはしばらくは、森の中に入ってほしくはないということなのだろう。だから、二人が自分に向ける視線には森の中には入らないように言ってほしいというものなのだろう。彼も両親のその心に反するつもりはなかった。


「クリス。今日も村の中を案内してほしい。俺もクリスを守れるほど体力も回復してないんだ。だから、それまでは村の中で遊ぼう。今日は、昨日回れなかった村の中を案内してくれないか」


 彼はクリスを諭すようにそういったが、彼女はほほを膨らませていた。どうしても、森の中に入りたいらしい。おそらくは、最初に理由も語らずに森の中に入ってはいけないと言われたのかもしれない。そうなれば、どんな理由があったとしても、子供である彼女は反発したいと思ってしまうのかもしれない。その想像が正解なのかは全くわからないが、彼女の様子を見てれば、そう考えてしまうのも無理はないだろう。


「……ごめんな。今日だけは村の案内をしてくれないか?」


 彼はクリスの目線と同じ高さになるようにしゃがみこんで、彼女と目を合わせる。彼はできる限り、視線に誠実さを込めて、改めてそう言った。クリスは最初こそ、黙って視線をそらしていた。その後に、彼との視線を合わせてこくりとうなずいた。


「そうか、ありがとう」


 彼はお礼を言って笑いかける。どうにも、こういう役割は苦手だと感じるが、どうやら今日だけはうまくいったらしい。クミハとジャスは今日はクリスを村の中で過ごしてくれるというのに、安堵の息を吐きだした。そして、クミハがメートに視線を投げて、もし分けなさそうな顔をしているのに彼も気が付いたが、その視線に何を返せばいいのかわからず、気が付いていないふりをした。


 そして、その後に朝食となり、テーブルの上に料理が並ぶ。昨日の歓迎会とは違い、食パンのようなものが一枚さらに乗せられて、食パンの隣にポテトサラダのようなものが乗せられていた。そうして、少しぎすぎすしたまま四人は朝食をとっていた。

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