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3限のチャイムが鳴った。
体中の力が抜けた気がする。
背伸びをし、いかにも寝ていた風を装う。
先生はチャイムが鳴ると同時に授業を終わらせ、足早に教室を後にした。
教室はいつのまにか、本来の騒々しさを取り戻している。
「今日の文化祭準備、参加してほしいの。」
出しぬけに、左隣の同級生が僕に言った。
いや、僕と雫の両方に言ったのかも知れない。
雫はまだ机に突っ伏したままだった。
意外と大きい声が出たせいか、彼女の顔は赤みを帯びている。
「用事があるから。」
僕が立ち上がると、雫も机に預けていた体を起こした。
騒々しさはそのまま、多数の責め立てるような視線が僕らを刺す。
彼女は僕らに、待ってと声をかけた。
僕はシャツの袖口を掴まれた。
「大丈夫だよ。私たちはあなた達を許容する。」
寒気がした。
彼女らの善意が、茶番にしか思えなかった。
雫が彼女を強く睨んだ気がした。
僕は何も言わない。
彼女の手を振り払い、とうに迎えている限界を抱え、二人して逃げるように教室を去った。
4限と5限と6限をくり抜いた文化祭準備。
学校中が沸き立っている中で、僕らは体育館裏が居場所だった。
しかし、3時間もここで時間を潰すには、あまりにも暇を持て余す。
文化祭準備が始まった日から、今日までの3日間、僕らは1時間程度ここで過ごし、後は学校外をブラブラしていた。
4限開始のチャイムがなる頃、体育館裏で彼女がふかした煙が充満する。
大きく煙を吸い込む。
雫はもう、何も言わなかった。
ただ黙って、タバコの先を見ている。
ふと、雫の短い髪を触った。
艶がありサラサラ、そして制汗剤をかけた時のようにひんやりしている。
雫は僕の左手を右手で払った。そしてタバコを落とし、両手で僕の頬をつねった。
雫の顔が近い。
心なしか、普段より顔色は良かった。
文化祭の浮かれた空気は、場末のここにまで運ばれてくるのだろうか。
しかし雫の切実に退廃を願う目は、僕を現実へと引き戻す。
「つながりって、煩わしい。」
雫は呻く。
「でもそれは、結局は自分を助けるものだと思う。」
雫は頬に一本の筋を這わせた。
僕は今の雫が堪らなく愛おしい。
彼女の手から伝わってくる冷たさが、大きな瞳を圧縮させた目が、薄い唇を巻き込んだ口元が、おしろいを塗ったかのような白い肌が、真っ青なジャージの襟元から見える浮き出た鎖骨が、愛おしかった。
「だから、私の側にいてくれるなら、やめてほしいの。」
彼女の本質は、虚弱な寂しがり。
どこにでもいる、普通の女の子。
「でも、私は一緒にいるから。ずっと、私達は二人でいるんだ。」
雫の懇願のような告白は、僕の嗜虐心を煽った。
僕の手から溢れ出した雫が、見たくなってしまった。
僕は言った。
「大丈夫だよ。何があっても僕はいるから。」
彼女は悲しげに、でもこれ以上ない程の深みをたたえて笑った。




