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「全国高等学校剣道選抜大会、県大会個人戦優勝 浅井雫。」


パチパチパチパチ。まだらな拍手がクラスから生まれ、僕もつられて拍手をする。

しかし僕はその言葉を上手く咀嚼できず、動揺していた。

雫がそこまで熱を入れて部活をしていたことを知らなかったから。


黒板の上に取り付けられたスピーカーから漏れ出る校長の声を、僕以外のクラスメイトはさも当然と言った風に受け入れている。

別に彼女を詳しく知っているつもりはなかったけれど、周りの同級生ほど知らないつもりでもなかった。


不良女子として名高い浅井雫と仲が良いこと。

それは転校生としてここに座っている僕が、この半径3メートル程の空間で唯一誇れるアイデンティティであったかもしれない。


夏休みが終わっても、まだ暑い。

汗が通った背骨のラインから冷たさが伝播していく。

「続きまして、吹奏楽部、、、」

表彰はまだまだ続きそうで、雫と話したい気持ちをグッと抑えるのが苦しい。


しばらくして、暑さにやられたのか、やけに息継ぎの多い校長の声を振り払おうとしたのか、僕の頭は雫との会話を妄想していた。


あの日の屋上のように今にも塀から身を乗り出しそうな雫が浮かんだ。

僕は錆びた扉を背にしてそれを眺めている。

彼女の肢体はスレンダーだが今にも折れそうな細腕は心配が勝つ。


多くの言葉が頭をよぎっていくが、彼女を前にして口に出す決心はつかなかった。

消え入りそうな足跡と、精一杯に伸ばした背筋を連れて、雫は一歩ずつ僕に近づいてくる。

そして立ち竦む僕を前に立ち止まり、薄く微笑んだ。

ぷっくりと浮き上がった涙袋と風にそよぐ黒髪のショートは、僕を白黒の妄想から色づいた過去に連れていく。

僕がしているのはあの日の回想になっていた。


雫は記憶をなぞるように、さらに一歩ずつ近づいてくる。その時、彼女が僕より数センチ背が高いことに気がついた。だから僕は数センチ背伸びをした。すると、目線と目線は一直線で結ばれた。


大きな瞳は自虐的で投げやり。浮き上がっている根深いクマは、人を寄せ付けず排他的だ。

授業中に見た一つ席を挟んだ先の横顔は、孤高の一匹狼を連想した。

しかし、近くで見る彼女は塗りつぶされた画用紙なのか、底が空いたバケツなのかわからない。

だが一人で生きていけるような存在ではないことは確かだった。


自己紹介の時に教壇の上から見えたぽっかりと空いた席は何より心強く、そしてその机の主である彼女には親近感を感じていた。

しかし違ったと、その目を見て僕は思った。


鼻と鼻がくっつく距離まで近づき、彼女は怪しく微笑む。

すると彼女は僕の肩にゆっくりと頭を乗せた。

ぼっと顔が熱くなる。

体重をかけられた左肩が汗ばんでいないか、その時はそれ以外の考えが抜け落ち、それだけが頭を占めていた。


彼女はゆっくりと息を吸い込み、吐き出す。

傍目に見える彼女の顔は、驚くほど白い。


「ねぇ。」

透き通る声は妙に嗜虐心を煽り、庇護欲を沸かせる。

「私が世界で一番嫌いな人間って、誰だと思う。」

彼女は唐突にそういった。

その言葉に何も反応できず、ただぐるぐると頭を巡る。僕の想像は意識から脱線していた。


僕を屋上に呼んだのは、机に置かれたノートに書かれた殴り書きだ。"今すぐ屋上に来て!!ヘルプミー!"小学生のような拙い字と、稚拙な言葉でこう書かれていた。

単なる嫌がらせも想定していたが、体育の授業で全員出払った教室に置かれたノートに哀愁を感じてしまい誘われた。

でも、何かを少し期待していたのかもしれない。


彼女は僕の返答を待たず、また口を開く。

「それはね、、、」

彼女は僕の肩を掴んで、そのまま突き放した。

扉に思いっきり叩きつけられ、その場で膝をつく。

視界がぼやけ、体から数滴の汗が滴った。

その場で数回大きく口呼吸をしていると、安定した視界がイタズラっぽく笑う彼女をとらえた。


背中をさすりながら起き上がる僕に、彼女は言う。

「私!!私なんだ!私は私が嫌いだ!圧倒的にね!」

両手の人差し指を自分に向け、満面の笑みでゲラゲラ笑う、そんな彼女を僕は許せなかった。

その時僕は彼女を誰にも渡したくないと、そう思った。























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