003 四天魔王ネロ爆誕
どんちゃん騒ぎの宴が終わった次の日。
朝から俺はイザレッド魔王城の王室にいた。
禍々しい玉座の前で俺とゼファーは向かい合っていた。
そして、超位魔族と上位魔族数名が俺たちを傍観していた。
なんでこの状況になってるかと言うと、俺はゼファーに魔皇帝の継承者として正式に任命されたのだ。
「こんな大事な日にまったくダンテさんは何やってんだか」
そう口を開いたのは、前日に見事な噛ませ犬を演じてくれた魔王レイだった。
「あの人は自由奔放ですから。今に始まったことじゃないニャ」
ニャテンは呆れたように言った。
この人型猫が魔王だなんて未だに信じられないことだ。
だが、前日の魔王レイの首を一瞬で切り落とした実力は確かなものだ。
さっきレイが言ってたダンテとは一体……。
「ダンテって誰だ?」
気になった俺はレイの目を見ながら質問を投げかけた。
だがレイは俺と目が合うと俺から目線を逸らし、質問に答えたのはニャテンだった。
「我らが四天魔王が一人、魔王ダンテ様ですニャ。単純な戦闘能力で言えばダンテ様は、ネロ様を除けば魔族界一位の実力を持つ偉大なる御方ですニャ」
「そうなのか?魔族界一位の実力者は魔皇帝であるゼファーさんじゃないのか?」
「それが……色々と訳ありニャンですニャ……」
ニャテンは下を向きながら答えた。
詳しく気になる所ではあるが、これ以上は今聞くべきではないだろうな。
ダンテのことは一旦置いておくとして、もう一つ気になった点を俺は問いかけてみた。
「訳あり……ねぇ。ところで、四天魔王っていうのは?」
「超位魔族の中でも特質した才を持つ魔族の四体が魔王として選ばれるんですニャ。
それが四天魔王と呼ばれてるんですニャ。
四天魔王になると自由な行動が許可されるだけでなく、各々の軍を形成することも許されるんですニャ。
魔族の中から軍に入る者を自由に選抜でき、魔皇帝でなく己の配下として主従関係を結ぶことができるんですニャ」
「じゃあニャテンにも軍があると言うわけか?」
「もちろんですニャ。レイにもありますが、ダンテ様だけは生涯フリーを好む御方でして軍を作らず単独行動ばかりしておられすが……」
「話を聞いた限り、そのダンテって人は本当に自由が好きな御方なのだな。ところで四天魔王はレイとニャテンとダンテだとして、もう一体は誰なのだ?」
「……魔王リキュルスという者が居ました。ですがリキュルスは、超聖勇者一行の件で既に亡くなられておりますニャ」
「そういえばそんなこと言ってたな……。だと、四天魔王の埋め合わせは早くした方が良いのではないだろうか。このまま席が空いたままでは人間たちに容易に見くびられてしまう」
「もちろんそれはこちらとしても悩みの種の一つとして抱えていた問題。そこでどうだろうか。ネロ様が四天魔王になるというのは」
会話に入ってきたのはゼファーだった。
「お、俺が?別に構わないが……今日ここに集まったのは魔皇帝の継承者として正式に任命されるためではなかったのか?」
「ネロ様が魔皇帝の継承者なのは間違いない。だがこれほど才ある御方が"継承者"としての肩書きだけで落ち着くわけにもいかまいというのは考えておった。人間からすれば、名前も聞いたことないネロという魔族が魔王として誕生すれば人間たちも警戒すること間違いなしだ。理にかなってる話だとは思うんだがね?」
「確かにそうだが……」
俺はしばらく考えた。
……フリをした。
心の内では魔王になることに全く抵抗はなかった。
むしろ願ったり叶ったりだ。
自由に行動できて軍も形成できるなんて、めちゃくちゃ楽しそうだし。
しばらく考えたフリをした俺は、覚悟を決めたかのようにゆっくりと息を飲み、口を開いた。
「分かった。ゼファーさんを殺すまで、俺は四天魔王として責務を全うすることを誓おう」
「それは良かった。我としてもその方が安心だ。我は四天魔王には極力口を出さないようにしている。ネロ様の思うがままに生活を送ってくれ。だが、このイザレッド魔王城に何か危害が加わった時はいち早く駆けつけるよう。我が下す命令はそれだけだ」
ゼファーのその言葉を最後に、その場は各々解散となった。
ふぅ……四天魔王になれてしまった。
ここまでトントン拍子すぎて魔王になったことへの嬉しさはそこまでではないが。
これから自由に行動できるってのが個人的に一番デカい。
縛られるのなんてごめんだからな。
せっかく転生したんだ。
俺はとことんこの世界を楽しんでやるつもりだ。
四天魔王が一人、魔王ネロ。
ここに爆誕だ。
ここから本格的な冒険の開始です〜。
ぜひブクマして待っていただけるととても、とても嬉しいです。