復讐
過去の話をしよう。
人間らしくない。そう周囲の人からは言われてきた。
人に言わせるには、どうやら私はうまく笑えてないらしい。
私としては笑っているつもりなのだが、他の人から見ると表情に変化が見られないようだ。
どうもそれが他の人には異端に思えたようで、私はすぐに群れから弾き出された。
残念ながら人間の群れというのは他の生物のように見捨てる訳ではない。
群れを成して個をいたぶる。これが人間の群れの習性であり、悪性である。
当然私を弾き出した輪も同様であった。
主犯格、その取り巻き。未だに鮮明に顔を覚えている。
彼らの行動はかなりのものであったと思う。何度も鳴り響く警告音を無視して線路に入ろうとした。何度も近場のビルの屋上に赴いた。昔のまま今も捨てれないロープが今も机にしまわれている。
しかし、私が行動しなかったのは、それでは群れに反抗できないからなのだろう。
あるいは、当時の私には一歩を踏み出す勇気がなかったのかもしれない。
どちらにせよ、当時の私は彼らという劣った集団を浄化しなければならないという謎の正義感に囚われていたのだと思う。
これは私なりの戦争だ。私が私であるための戦争だ。そう思ってからの行動は我ながらはやかったと思う。
彼らは決まって私を空き教室に連れ出した。そして私を遊び道具にする。
主犯格を陥れるだけなら他の群れが存在する場所でも良かった。
だが、私はそれでは満足しなかった。彼らを全員どん底に突き落とさなければ気が済まなかった。彼らに生き地獄を味合わせられたならどれだけ悦であろうかと何度も思案した。
そうして私の思いついた浄化作戦は至ってシンプルであった。彼らが私を空き教室に連れ出す。彼らは毎回私から興味が逸れることがある。その時に隠し持ったポケットナイフでできる限り多くの血を流す。今になって思えば稚拙にしか思えない作戦であったが、当時にしてみれば名案に思えた。
私を彼らが教室から連れ出す。私のポケットには凶器がしっかりと入っている。私は強い胸の高鳴りを感じた。朝から降り始めた雨は強くなり、雷が鳴っていた。
やはり彼らは私に警戒をしていなかった。彼らは私に警戒などしていなかったのだろう。
私はその時ほど劣った人間というものに感謝したことは今まで無いと思う。私は主犯格に忍ばせていたナイフを持って襲いかかった。刺す。抜く。血が流れる。それを1セットとして何度も繰り返す。私はとてつもなく興奮していた。彼らの悲鳴は私にとって私自身を讃える賛美に他ならなかった。ヒエラルキーが崩壊していく。今、この瞬間、私は彼らの将来、さらには命までもを握っている。私は神であるかのようにさえ思えた。その悦に浸りながらも私に賛美を唱えなくなったでくのぼうを捨てて手近な人を襲う。この人はどんな声で私を讃えるのだろうか。もう私の思考に彼らを浄化するなどという考えは無かった。彼らの心からの叫びを聞いていたかった。人肌を刺して血管や神経を私の手に持ったナイフが切っていく快感を味わいたかった。しかし、夢のような時間というのはすぐに過ぎるものである。取り逃した取り巻きが、先生に助けを呼んだのだ。さすが大人である。脳みその代わりに贅肉と身体と図体だけがデカくなっただけある。私はすぐに押さえつけられた。あぁ。私のお返しはまだ返しきれていないというのに。きっと彼らは喜んでくれるはずだったのに。なぜ?これが世の中というものか。なんという不条理、なんという不可解。こんなことを思案する中にも、大きな子どもは私を抑える力を緩めなかった。暴力とできるのではないか?ナイフで刺した私が言えないか。はは。
これからのことは観念したせいかあまり覚えていない。ただ、一つだけはっきり覚えているのは、誰も地獄に落とせなかったことだ。今回ばかりはた発達した医療機関を恨んだ。死ぬべき人間が生きた。そのことが許せなかった。しかし、こんな騒動後にまた騒ぎを起こせる訳もなく、保護観察処分となった私は世界のいう平凡な人間らしく生きて、私は今を生きている。あえて私自身からも評価を下すならば、私は人間らしくない。
さぁ、明日は同窓会だ。そう言って鏡を見る私は、どこか人間のようでいて、怪物のように見えたのではないかと思う。