ようこそハロラへ!!
三人は少々驚いたようだ。日本の寺なら本堂があるはずだが、現れたのは役所の受付カウンターだった。カウンターは無人だった。
「ニケ様」
吾輩は奥に声をかけた。
「なんだ?」
だみ声が返ってくる。
「破綻申請です。三名です」
奥の見えない所で、何やらモゾモゾと動く気配がする。まもなくニケ様がやってくる。巨体を揺すって二本足で歩く様は、『ずんずんずん』という擬音がぴったりだ。
「ね、ね、猫!」
鈴木が驚いている。
「三毛猫だ」
田中も驚いている。
「化け猫……」
高橋は絶句している。そんな三人にかまわず、ニケ様はよいしょと受付カウンターの向こう側の椅子に腰掛ける。身長二メートル超の巨体に抗議して、椅子がギシギシと嫌な音を立てる。
「申請書は?」
「ここに」
ニケ様は吾輩から申請書を受け取ると、記入欄を確認した。そして机の引き出しから朱肉を取り出すと、右前足の肉球でポンポンと叩き、三通の申請書に次々と拇印を押す。
「これで人生がリセットされるんですか?」
鈴木が期待を込めてニケ様に訊いたが、ニケ様の返事はそっけなかった。
「まだだ。受付の印を押しただけだ。これから審査を行う」
ややがっかりの鈴木。その隣で田中と高橋がニケ様を見ながら、ひそひそ話している。
「猫だから語尾に『ニャ』とか『ニャー』とか付けないのかな?」
「付けても可愛くないわよ。猫耳じゃなくて、化け猫だもの」
なんと罰当たりな。ニケ様が右前足を手拭いで拭きながら、吾輩をギロリと睨む。とばっちりだが所詮は居候の身、吾輩は逆らわず二人に注意する。
「言葉使いに注意しろ。ニケ様は神使だぞ。神様の使いだぞ。機嫌を損ねたら審査で不利になるぞ」
田中と高橋は黙った。物分かりがよくて助かる。遠藤と佐川のときは──止めよう。思い出したくない。居候とはいえ、(遺体ですらない)かつて人間だったモノを片づける仕事はやりたくない。
ニケ様の外見にだまされてはいけない。ネコ科は猛獣が多いのだ。残酷なのは天使だけではない、神使も残酷になれるのだ。
「では新たな転生先を斡旋する。まずは鈴木七郎」
「は、早いっすね」
「AIを導入しているからな」
「AIですか!?」
「そうでもしないと転移者や転生者が多すぎて、さばききれんのだ。そこの円の中に立て。嫌ならここで人生を続けるか?」
鈴木は大慌てで、床に書かれた円の中に駆け込む。
ニケ様はカウンターの下からマイクを取ると、マイクにささやいた。
「カークよりエンタープライズへ、転送!」
鈴木が光に包まれ……光とともに消えた。
吾輩は袖を引っ張られる。見ると高橋が引っ張ていた。
「アレ、何?」
高橋で視線でニケ様を指す。
「よく分らんが、様式美だそうだ」
「次、田中将司」
こうして田中も高橋も、新しい世界へ旅立った……どんな世界か知らないけど。