上嶋家再始動
今日は遂に顔合わせの時だ。この一週間緊張で夜も眠れない······!という事は無かったのだが。普通に緊張はしていた。
俺はいつもより少しだけオシャレをして、父さんと一緒にカフェ「ストーンボックス」へ向かった。
「光輝、挨拶はきちんとするんだぞ?それと、礼儀正しくな。」
「分かってるよ。」
挨拶と礼儀、この2つは父さんが1番大切にしている事だ。詳しくは分からないけど······。尊敬してる人がとても挨拶をする人でどんな人にも礼儀正しくしているかららしい。
「光輝ストボに着いたぞ。」
「ほんとだ。案外近かったな。」
ストボは家から5分程度の距離にあり、想像してたよりも案外近かった。
「少し遅れるらしいから中入っとこう。」
「分かった。楽しみだなぁ。」
「コミュ障発動するんじゃないぞ?」
父さんは俺に向かって笑いながらそう言った。
「当たり前だ!」
俺は少し強い口調でそう言い返した。
そして俺達は店内に入り、5人が座れる位の席に座った。そして、3人が来るのを待った。
3分程経った時店の入口から「誠也さん!」と父さんを呼ぶ女性の声が聞こえた。
「美羽さん!」
恐らく再婚相手の女性だろう。名前は美羽さん。本当に父さんの再婚相手なのかと疑う程美人の方だ。
「こんにちは。えっと···君が光輝くん?。
「はい。上嶋光輝です。よろしくお願いします。」
俺は軽く自己紹介をした。
「まぁ、誠也さんと同じでとても礼儀正しいのね」
「はい。父さんを見てたら自然と」
「そうなのね!」
そういう風に言っておいた。そして父さんを横目で見た時···何故か目が潤んでいた。
「あ、ほらあなた達も挨拶しなさい。」
俺はその瞬間に分かった。新しく出来る義弟達だと!表情には出さないようにしていたが、心の中ではとても興奮していた、なんせ初めて出来る兄弟だからだ。
そして、美羽さんの後ろから2人の人が出てきた。······と思ったら見覚えがある2人だった。
「あ、君達は···。」
「なんだ?光輝知り合いか?」
「先週書店で2人を···」
累くんを家に誘ったなど、その場で言えるはずも無かった。
「井上怜。よろしく。」
「えっと···井上累です。よろしくお願いします。」
「俺は上嶋光輝!よろしくね!」
俺は握手をしようと手を差し出した······が、
「ごめんけど、僕は馴れ合うつもりは無い。もちろんお義父さんとも。」
「僕も···。」
その日の2人は1週間前とは別人と思える程性格が違っていた。確かに、怜くんの方はバイトだから礼儀正しかったと考えられるが···累くんの方は正直心に来た。
「コラ2人共!ごめんね光輝くん。」
「だ、大丈夫ですよ。」
美羽さんが叱ると2人はムスッとしたようにそっぽを向いた。
「みんな飲み物はどうする?」
「俺オレンジジュース。」
俺がそう答えた後、累くんが美羽さんに何か言っているようだった。その後美羽さんが「オレンジジュースを2つ」と言ったので、飲み物を伝えたのだろう。
怜くんはと言うと······。
「怜はどうする?」
「自分で頼みます。」
相変わらずだった。ドンマイ父さん······。
「あ、俺ちょっと御手洗行ってきます。」
「わ、分かった。」
俺はその場に居るのが気まづくなり少しトイレに行く事にした。
そして、男子トイレに入っては、先週の事を思い返していた。
1分程経った後、俺は手を洗い元いた席に戻った。
そしてその後は特に進展も無く······顔合わせは終了。そして俺たち一行はここから近い上嶋宅から、車で美羽さん達の居たホテルまで向かい、荷物を乗せることにした。
「じゃあ、私達は荷物下ろして来ますね。」
「わかりました!」
そう言うと、美羽さん達3人はホテルの中へ荷物を取りに行った。
「な、なぁ光輝······俺達って、嫌われてるのかな······?」
父さんが心配そうな声付きで聞いてきた······こんな倒産を見るのは何年ぶりだろうか。恐らく······母さんが亡くなってすぐ以来では無いだろうか。
こんな父さんを見るのは正直胸が痛む。
「必ず、笑って話せる時が来るさ。一緒に頑張ろうよ父さん!」
俺は励ます様な形で父さんにそう言った。父さんは笑顔で俺に向かって「おう!」と返してくれた。本当はとても辛いと思うのに······。
「お、出てきたぞ。光輝トランク開けてくれ。」
「了〜解」
俺はそう言い、トランクを開けた。
「みんな、ここに入れて。」
父さんは率先して誘導······流石だ。めげずに頑張る姿は本当にかっこいいと思う。
「あ···怜、累手伝うよ。」
俺も父さん達の手助けをしようと声を掛けたが
「自分で出来ます。」
「ぼ、僕も···。」
やはり2人とも断ってきた······。この時俺は、この後仲良くなれればいいとしか思っていなかった。
※ ※ ※
俺達は特に車内での会話も無く······家に着いた。静まり返った車内はお世辞でも······居心地がいいとは言えなかった。
「美羽さん手伝いますよ。」
今度は俺が率先して動こうと美羽さんに声を掛けた。そこで出てくるのが負けず嫌いな父さんだ······。「俺がしますよ。」と言うと荷物を軽々と持ち上げ玄関へ向かっていった······。
もちろん、子供2人は自分で荷物を運んでいてトランクは空だった。俺はトランクの扉を閉めたあと車の鍵を掛け家の中に入った。
俺は少し遅れてリビングに······そこで俺は一瞬戸惑った···朝は無かったはずのぬいぐるみがソファに置かれていたからだ。美羽さんの物だろうと思いながら俺はみんなにオレンジジュースを注いであげた。
「おぉ光輝気が利くな。ありがとう。」
「光輝くんありがとう。」
大人2人は俺にそう微笑みながら言ってくれた。
子供2人は······軽く礼をしてくれるだけだった···。それだけでも嬉しい自分が居るんだけど······。
しかし俺は累くんの目線が気になり、ジュースを冷蔵庫に戻す時に視線の方へ目を向けた。そこで何を見ているのかが分かった。
累くんはゲーム機の方を見ていた。今誘っても話を聞いてくれるかすら分からないけど······仲良くなった時に誘えばまた、一緒に出来るかもしれないと考えながら俺はオレンジジュースを冷蔵庫にしまった。
その後荷物をそれぞれの部屋に持っていく事に。なので俺は父さんに頼まれ、2人を部屋に案内することになった。
「怜の部屋はこっち。累はこっちね。」
「分かりました。」
「どーも。」
怜の方は相変わらず生意気だった。累は···少し優しくなってくれてるかな。
「俺、部屋に居るから···困ったら来てね。」
2人は何も言わずにそれぞれの部屋の中に入っていった。
俺はと言うと······自分の部屋で漫画を読んだ。どうせ誰も来ないなどと思いながら漫画を読み始めて20分が経った頃、誰かが扉をノックして来た。
俺は返事をして扉を開けた。そこには累が立っていた。モジモジしていたのでどうしたのか聞くために、まずは部屋の中に入れた。
「し、失礼します···。」
「どうぞ。で、どうかした?」
「その······えっと···。」
そこには、ストボにいた時とは打って変わって、先週の様な累がそこには居た。
「あの···冷たく接して······ごめん。」
まさか累の口からこんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。
「気にしなくて大丈夫だよ。累は再婚に反対だったんだろ?」
「そ、そんな事ないよ!僕は···お母さんには幸せになって欲しいし。」
「じゃあ······どうして?」
俺はなぜ冷たく接してくるのかが気になり、そう聞いた。
「お姉······怜に言われて······。」
どうやら怜が関わってるらしい······。なぜ男性を嫌うのかは······だいたい予想は出来た。恐らく前のお父さんが影響してるんだろう。でも、累はお父さんの話をしてくれたし······どうなんだ?
「だ、だから···僕お兄さんの事嫌いじゃないよ。信じて欲しい······。」
「分かった。信じるよ。あと、お兄さんじゃなくてもいいよ。」
「じゃ、じゃあ兄貴って呼んでいい?」
「もちろん!」
俺は即OKをした。兄貴······そう呼ばれるのはとても嬉しかった。
「ありがと!······あ、お姉ちゃんに勘づかれたらいけないから、皆の前では冷たく接しちゃうけど······それでもいい?」
「累がそうしたいなら俺は構わないよ。」
少し寂しいけど、あの二人の仲まで悪くなって欲しくないから俺はそう言った。
「分かった!またゲームしようね!」
「おう!」
そう言うと累は嬉しそうに部屋を出ていった。
俺は押し入れに入れていた小さいテレビを出し、部屋の隅に置いた。2人でやった方が他人の目を気にしなくていいと考えたからだ。
そして、俺は晩御飯を食べようと下に降りた。そこでは、とてもいい匂いが漂っていて、ついお腹が鳴ってしまった。
「あ、光輝くんいつ降りてきたの?急いでご飯作り終えるわね。」
「いえ、今降りてきたので!全然ゆっくりでも構いませんよ!」
「そう?じゃあ出来るまでゆっくりしててね。」
俺は微笑みながら言ってくれた美羽さんを見て不覚にも可愛いと思ってしまった······。父親の再婚相手にそんな感情を抱くなと心で唱えた。
ご飯が出来るまでテレビでも見ようと思いソファに座り、リモコンでテレビの画面を付けた。
この時間帯はバラエティ番組が多いので時間は潰せると思うが······実は俺はあまりテレビを見ない···漫画やゲームばかりしてきたからだ······。
どうせすぐに飽きると思っていたが、案外夢中になってテレビを見ていた······すると膝に何かが乗った感触が······
下を見ると累が俺の膝に頭を乗せていた。
「る、累?どうした······?」
「今お姉ちゃん寝てたから兄貴に甘えてるの〜」
「そ、そうなのか······」
「うん!」
累は笑顔で俺を見つめた······義弟なのにとても可愛いなと思いながら眺めていると、美羽さんが俺を呼んだ、ご飯が出来たようだ。
「る、累···ご飯だからそろそろ······」
「や〜だ···もう少しだけこうしとくの。」
そう言うと累は俺の腹辺りに抱き着いた。俺はこんな経験をするのが初めてだったので困惑していた。
「じゃあ···今日一緒に寝てくれるならどいてあげようか?」
俺は「そんなことか」と言い累の意見を飲んだ。そして累はご飯が並んでる席へと向かっていったので俺も後を追い席に座った。
食卓にはとても美味しそうなご飯が並べられていた。
「これ、美羽さんが作ったんですか?」
「そうよ?質素な物だけどね。」
「そんなこと無いですよ!」
「だと嬉しいわ」
美羽さんは微笑みながらそう言った。
「美羽さん、このホイル焼きとても美味しいよ。」
「誠也さんが喜んでくれて嬉しい」
目の前でラブラブを見せつけるな〜と思いながらも俺は食事を続けた、どれもこれもお世辞抜きでとても美味しい。今まで惣菜が多かった俺からしたらご馳走だった。
「あ、累そこの醤油取ってくれる?」
「自分で取れるでしょ···」
「あぁ、うん···。」
いつも通り冷たい······が今までみたいに心には来なかった。事情を知ってる事が大きいのだろう。
「お母さんご馳走様。今日もありがとね。」
「俺も、美羽さん美味しかったです。ありがとうございました。」
「2人とも美味しそうに食べてくれて私嬉しかったわ。また明日も頑張れそうよ。」
「では、俺歯を磨いて寝るので!」
「明日も休みだからって夜更かしするんじゃないぞ〜。」
「分かってるよ!」
そんな会話をして、俺と累は歯を磨く為に洗面所に向かった。
すると、起きてきたのであろう怜と廊下ですれ違った。
「あ、兄さん···おはよぉ」
「おぉ、怜おはよう。」
とても驚いたあの怜は俺の事を「兄さん」と呼んでくれた。正直とても嬉しかったが···寝ぼけていたからだろうとその時は気にせずにいた。
そして、俺と累は洗面所に入った。
「兄貴〜僕一人で歯磨き出来ないから磨いて〜。」
「もう高校生だろ?」
「ちぇ、ケチ〜」
甘えてくる累は可愛いが、流石に歯磨きは自分でして欲しい···もう高校生だし。
俺達が歯を磨いていると後の扉が少し開いたのに俺は気づいた。振り返ると、勢いよく扉は閉まった。どうせ父さんが覗き見したんだろう。兄弟でそんな変な事しないので安心して欲しい······。
「累、俺先上言ってるからな。」
「わかった〜。」
俺はそう言うと洗面所を出て、自分の部屋に向かった。
部屋に入った俺は、小さなテレビにゲーム機を接続して、累が来るを待とうかなとした時ちょうど累が部屋にやってきた。
「し、失礼します」
「いらっしゃい累」
「う、うん」
俺の部屋に入った途端にモジモジし始めた···男子の部屋には······この前入ったか普通に。どうしたか聞いてみることにした。
「そんなモジモジしてどうした?」
「えっと···ほんとに、一緒に寝ていいの?」
「あぁ。『 兄弟』で一緒に寝るのは普通だろ?」
「えぇ!?『 兄妹』で寝るのは普通!?」
累は何故かとても驚いた様子だった。「怜と寝た事は無いのか」と聞くと、「今はもう寝てない」との事だった。
「あ、累ゲームするか?」
「ん〜······今日は眠いから明日の朝しよ?」
「わかった。じゃあベッド入るか。」
「あ、日記書くから待ってて!」
「OK〜」
俺はゲーム機とテレビの電源を切り先にベッドに入った。
にしても、義弟と寝るなんて初めてなので俺はきちんと寝る事が出来るか分からずソワソワしていた。累をベッドから落とさないかも心配していた。
「兄貴、ただいま。」
「累おかえり。ベッド入っていいぞ。」
「それじゃあ、失礼します。」
やはり累は礼儀正しい、もう少し崩してもいいと思うんだが···無理にさせる訳にはいかないので何も言わなかった。
「狭くないか?」
「うん。大丈夫だよ。」
「なら、良かった······。」
2人とも緊張しているのか、言葉のキャッチボールが上手いこと続かない。
「兄貴って、弟と妹···どっちが良い?」
累がいきなりそんな事を聞いてきた。俺は正直に答えた。
「俺は〜···弟かな。一緒にゲームとか、外で運動とかしたらたのしそうだから。」
「そっか···分かった。ごめんねいきなり」
「全然大丈夫だぞ。」
横目で累の顔を見ると少しだけ悲しそうな目をしていた様な気がした。
数分後、後ろから寝息が聞こえてきた。どうやら累は寝てしまったらしい。これからの生活が楽しみだな······。
「上嶋家再始動だ······。」