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第六十話 見つかったものたち

 今回の救出作戦、原作的にも主人公アクロスたちだけだと、失敗の公算が大きいものだ。


 だが俺たち悪役三人組の能力を考えるとそこまで難易度は高くない。人質にケガ人が出ることはあり得るとしても、死者が出る事態は避けられると思う。


 唯一、作戦の最大の障害になりそうな相手が一人、例のフード男の存在がある。


 あのフード男が俺の予想通りだった場合、感知魔法対策を採っている可能性もあるからだ。その場合、村潜入前に行った感知魔法の使用を把握されていることになるので、危険度は遥かに上昇する。


 主要キャラエイナールを当てにできるかどうかが微妙だからな、フード男との戦闘は避けたいところだ。


「他に隠し倉庫みたいなものはないか?」

「え、あ、いえ」

「他に村人が押し込められそうな倉庫はありますか?」

「はいはい、いえ、ありませんです、はい」

「……」


 俺が質問し、いちいちニコルが間に入って通訳するという面倒なやり取りをする。聞き出せた情報は感知魔法で得た情報の通りだった。感知魔法の正確性が確認できたことはありがたい。


「あ、あの」

「後は俺たちでやる。村長、あんたが動くと連中に注目される危険があるから、この家から出ないように」

「ひ、は、はい」


 最後だけは通訳の必要はなかった。心底、怯えているのは俺にではなく、コンセゴたちに酷い目に遭わされたからに違いない。俺たちは頷き合い、次の行動に移った。


 倉庫の前には見張りの男が三人いて、その内の一人が大型の斧を木の棒目掛けて振り下ろす。木の棒如きが斧の一撃に耐えられるはずもなく、真っ二つに叩き割られ、割れて飛んだ破片が集められた村人の一人の額を傷つける。


「ひゃはは、どうよ? 見張るのも面倒だからさ、いっそこうやって足をぶった切っちまえばいいんじゃねえの?」

「あー、そいつは確かに簡単でいいわな」

『『『ひっ』』』


 見張りたちの下衆な脅しは、村人たちを震え上がらせるのに十分な効果をもっていた。


「見たところ、人質は二十人くらい、でしょうか」

「小さな村だからな……向こうの倉庫には三十人ばかりが押し込められているようだが」

「麿の感知ではここの人質は二十一人でおじゃるよ、マルセル氏」

「酷い……早く助けましょう!」

「「いぃっ!?」」


 ニコルの言葉は問いかけのようでありながら、突撃の合図でもあったらしい。俺やクライブの意見を待たずに飛び出す。


「て、敵を撃て 《炎の矢》」


 平民に支給される安物の杖を構えつつ、呪文を唱えるニコル。緊張もあるのか、詠唱はややたどたどしい。


炎の矢ファイアアロー》の魔法。そうか、ニコルは俺と同じ火属性なのか、と場違いに少し感動してしまう。


 火のランク的にはまだまだ低いけど、ファンブックには豊かな才能を持っていたと書いていたから、銀の火、もしかすると金の火にすら届くかもしれない。


 ゲーム的に言い表すなら、学生のニコルはレベル一か二。とはいえ、村を襲った山賊は魔法なしの物理専門の雑魚。更に不意打ち、奇襲が成立する。


 俺とクライブのレベルはもっと上であることを考えると、十分にワンターンキルが可能だ。


「クライブ君!」

「任せるでおじゃる!」


 魔法の威力や精度は使い手に左右される。今のニコルでは一、二本の《ファイアアロー》を発生させるのがやっとだ。


 二本の《ファイアアロー》が斧持ちの腹部に直撃する。炸裂音や悲鳴、はクライブが無詠唱・高速で発動させた風の魔法が遮断していた。


 残り二人の男には俺の《火球》が直撃する。戦闘に要した時間は十秒未満。


「ひ、だ、誰!?」

「助けが来たのっ?」

「き、貴族!?」

「私たち売られるの!?」

「しぃ、静かにしてください」


 騒ぎ出す村人たちに、真っ先に声をかけたのはニコルだ。悪評高い俺が話しかけるよりも確かな効果が得られることだろう。


 やだな、泣いてなんかないよ。貴族=人身売買の図式にもショックは受けていないんだからね。


「救出に来ました。皆さん、ここは我々に任せて、皆さんはこのまま倉庫の中に留まっておいてください」

「ほほ、諸君らに危害が及ばないように麿が障壁を張っておくでおじゃるよ」


 人質たちに騒がないよう言い含める。できるなら避難させることが望ましいが、俺たちの側に人手が足りない。俺とクライブで風の障壁を倉庫に張って安全を確保するのだ。


 まだしばらくは倉庫から出られないことに落胆の表情を見せる村人たちも、事情が事情なだけに納得はしてくれた。


「ありがとう、お姉ちゃんたち」


 村人たちの中から、おずおず、といった態で少女が歩み出てきた。お姉ちゃん、の部分に俺の心の微妙な部分が些か揺さぶられたように感じたのは、きっと気のせいだろう。


 ニコルは少女と目線を合わせて、にっこりと微笑んだ。


「大丈夫。すぐに元の生活に戻れるから、ここで静かに待っていてね」


 ニコルの視線は慈愛に満ちている。貧困層にある実家の家計を支えているからか、少女に対するニコルの態度は一貫したものだ。


 今回の襲撃で精神的にかなり参っている少女も、ニコルの笑顔には救われたようで、笑顔で頷き返してきた。「守りたい、この笑顔」という気持ちがよくわかる。


「さて、次は」


 俺のセリフの語尾に重ねるように、離れた位置から轟音が響く。俺の視界には巨大な土や岩でできたゴーレムが三体、確認できた。


「あのゴーレムはシルフィード氏でおじゃるな。魔法が使えないのにあれだけのものを作れるとは、さすがというか何というか」

「魔力を土の塊に流し込んで、魔力糸の応用で操作しているだけなんだがな」


 魔法ではなく魔力操作技術だけでここまでのことができるのは、作中でもシルフィードだけである。理法習得後の反則的な強さも得心がいくというものだ。


「あれだけ派手にしているということは、向こうも人質救出は終わったということおじゃろう」


 恐らくそうだろう。


 ゴーレムが岩の拳を振るう度に賊と思しき人影が複数、宙を舞っている。人がまるでゴミのようだ、とでも呟きたい気分だ。シルフィードの行動は、作戦の段階が人質救出から賊掃討に移行したことを示す。


「マルセル様、クライブ様。わたしたちも!」

「慌てるな、ニコルさん。下っ端たちはシルフィード君に任せれば問題ない。俺たちは首謀者を狙う」

「え? どうやって……ですか?」

「風の感知魔法があるだろ。同時にやろう、クライブ君」

「ほっほっほ、承知でおじゃる」


 感知や探知の魔法はすべての属性魔法に存在する。火属性なら相手の体温を感知し、土属性なら移動や体重負荷の振動などを感知するのだが、広範囲かつ精度のもっとも高いのは、やはり風属性だ。


 そういえば、光属性と闇属性の感知魔法は作中で描写されたことがなかったな。


 今、俺が使ったのは風の感知魔法ではあるが、少し毛色が違う。風の流れ自体を把握することで、隠し通路や隠し部屋を探すことができる。


 限られた範囲ならともかく、村全体となると入手することになる情報も多くなり、その中から風の流れの性情を把握するのは難易度がかなり高い。


 だが俺にとっては事情が違う。


 膨大な風の流れを余すことなく把握できる、のではなく、原作を知っていることからコンセゴが隠し通路を使って逃げることがわかっているからだ。


 どの場所に通路があるのかは分からなくとも、コンセゴが出てくる場所は原作の描写から大体わかっている。クライブには村全体を改めて感知してもらい、俺はコンセゴの出現ポイントに絞って感知を行うのだ。


 当然、俺の感知魔法にはコンセゴの反応が引っかかった。


「……見つけた」


 すぐに追いかけてフラグを一つ破壊する、と思っていたら、


「こっちも見つけたでおじゃる」

「え?」


 すごく予想外の答えをクライブが返してきた。


 誰を見つけたの? 俺の感知魔法がおかしいの? こんな細かい点で原作と違ってきているの? じゃあ俺が見つけたのは誰なのよ?


「マルセル氏、ちと厄介なことになりそうでおじゃる」

「誰が見つかったんだ?」

「バカ二人、とお付きが一人」

「おい」


 主人公たち、いや、例のライバルコンビとラウラか。

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