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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

混沌《カオス》の勇者~キノコの勇者と召喚の勇者は幼女とともに~

作者: 麦パン

 温帯の国のとある村。そこには二人の≪勇者≫が生まれた。

二人はすくすく育ち、魔王討伐へ向かう16歳の旅立ちの日の前日。


 場所は村の外れ。晴天の下。古びた木造の訓練場、その試合場と呼ばれる場所で二人は対峙していた。

理由は各々成長した特有の能力を見せ合い、実力を確かめるためである。


 右方には黒髪の少年。鋭い目つきが印象的な彼の勇者としての称号は≪キノコの勇者≫。

能力はキノコを司る能力。名をクロノ。


 左方に立つ赤髪の少年はやる気のなさそうなたれ目で、称号は≪召喚の勇者≫。

能力は召喚を司る能力。名をグレン。


 お互いが訓練用の木剣を構え、二人の間で勝敗を審判するのは剣の指南役にして二人の師匠である≪剣の勇者≫。名をデュラン。通称師匠だ。

御年六十歳のデュランが勝負開始の合図を出す。


 「準備はよいな? 勝負……開始!」


 先手を取ったのは右方の黒髪の少年――クロノ。剣を上段に構え、そのまま前方に駆け出した。

能力を使い、木剣に重量系のキノコを纏わせ、木剣自体の質量を増やした剣を真っすぐ振り下ろす。


「やぁ! 先手必勝!」


 左方の赤髪の少年――グレンはじっと動かず、あからさまなカウンターを狙う形で質量の増えた剣をうまく体重を逃しながら、受け流す。そのまま木刀を下に叩き落とし、がら空きの胴体に受け流した力を利用した回転の横一線に薙ぎ払う。そして、木剣をまともに胴体に食らったクロノは数メートル後退する。


「ぐっ、はぁ!?」」


 だが、薙ぎ払ったの木剣は何故かグレンの手元にはなく、クロノの胴体にまるでタコの吸盤のようにピタッと吸着していた。よく見れば、訓練用防具の腹部のアーマーにタコのような吸盤が見える。それが木刀をキャッチしたのだろう。そして、グレンは咄嗟にクロノが落とした木刀を拾い上げ、戦闘不能にするべく木刀を振り上げると、キチキチ……という音がクロノから聞こえる。


「タコはもう使えないな……なら、媒体召喚!」


 その音は、クロノの胴体にくっついていた木剣から聞こえてくる蟻の噛み切り音であった。木剣を媒介として召喚された蟻は数百を超え、あっという間にクロノの訓練用防具の上から下まで全身をあっという間に覆いつくした。


「よし、……師匠。これで僕の勝ちですね!」


「……グレン。勝敗を決めんのはお前じゃないじゃろ? 相手を完全に再起不能にしてようやく勝利じゃ。して、まだ勝負は決しておらんよ」


「ッ!」


 グレンが勝利を確信していたが後ろを振り返れば、グレンにまとわり付いている召喚された蟻達の数が減っていることに気付く。クロノの全身に纏わりつき噛みついていた虫は一匹、また一匹と地面に転がっていく。


 「うぇ、何匹か口に入ったじゃねぇかよ。グレン。即効性の毒キノコがなけりゃ俺は今頃防具をかみ切られてすっぽんぽんで消えない傷だらけになってたぞ。お婿に行けないところだった」

 

 「――驚いた。5年前とは違うんだね、クロノ。前なら全然やられていたのに。なら、とっておきを見せてあげるよ!」


 「八ッ! 5年前と同じくなめられてたってのは癪に障るが、そっちがその気ならこっちだってとっておきだ!」


 二人の間で力が渦巻く。黒いオーラと赤いオーラ。それは勇者の称号を冠する力の奔流。

それぞれの最大限の能力を発動し、激突するその直前。違う力の本流が二人のオーラを遮った。


 「痛てぇ!?」

 「痛い!?」


 「馬鹿もん!! 村の外れとはいえ、勇者の力を最大限に使うと村に被害が出るじゃろ!」


 鋭い正拳が二人の少年、クロノとグレンの頭にたんこぶを作り上げた。


 「勝負はひとまず引き分け、5年前より二人とも実力は上がってるようじゃ」


 師匠のその言葉に二人は喜び、ハイタッチを交わす。が、


「じゃが、周りを考えられんようじゃまだまだ未熟じゃ! 反省するんじゃ。よいな? グレン? クロノ?」


「す、すまん。じいちゃん」

「お師匠様、申し訳ありません」


「よし。それが心からの反省と信じる。二人とも反省を積み重ねて、実力を伴い、魔王討伐成遂げるんじゃぞ」


 「おう!」

 「はい!」


 こうして、二人の実力の確認の試合が終わった。


 二人が訓練場の休憩室に戻るのを見送ると、『剣の師匠としてはもう少し、能力ではなく剣術がうまくなって欲しかった』と老人は小さく呟き、トボトボと帰路に就くのであった。








※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※







 「おい、グレン。起きてるか?」


小さな声でグレンを起こすクロノ。グレンは目元を擦りながら欠伸を零す。


 「ふわぁ。なんだい? こんな夜更けに……。はッ! まさかクロノ……夜這い? 夜這いなのかい!?」


 「変な勘違いしてるとこ悪いがそういう気はないと断りを入れておく。そんなことより、訓練場の試合場がなんか変なんだ。すぐ来てくれよ」


「あ、ああ。わかったすぐ行くよ」


二人は訓練場の中にある休憩室兼仮眠室の二段ベッドから廊下に出て、靴を履き訓練場に向かう。


ジャリジャリと砂を踏む音と、夜風が二人の肌を撫でる。すこし気味の悪いと感じてしまう。


「で、クロノ。何が変なんだい?」


「ああ、あの音だよ。聞こえるだろ? パチパチって音がさ」


耳を澄ませば、確かにパチパチと音が聞こえる。その音は試合場に近づけば近づくほど大きくなっていった。


試合場に到着すると昼間の決闘の際、召喚された蟻たちの死骸が蠢き円を形どっていた。


 「う……。なんだこれ……」


 「僕の召喚した蟻たち……? 通常なら光になって消えてゆくのにどうして……」


 パチパチという音は虫の円から聞こえてくる。その円は絶え間なく動き続け、模様なようなものを作り上げた。


「おい! グレン! これはどういうことなんだ! 気味が悪いぞ!」


「わからない! でもこれだけは言える! ()()()がこちら側に来ようとしている。僕の能力『召喚』を利用して!」


「!? 一体何が来るっていうんだよ!」


「わからないって言ってるじゃないか! これは僕の知らない召喚陣なんだ! 何が来るのか僕にさえ理解できな――」


 瞬間、虫の召喚陣は黒い光を帯びて輝いた。パチパチという音はますます大きくなり、音の間隔も早まる。


パチパチパチパチパチパチ、パンッ!


 何かが弾けるような音と同時に光は消えゆき、黒い影が虫の召喚陣にいるのが微かに見える。

 

 月明りはこんな時に限ってその召喚陣の中央に現れた影を照らす。


禍々しい雰囲気を醸し出した影はゆっくりとその正体を現す。


二人は息を呑み、その場に立ち竦む。そして、二人が見たその禍々しい影の正体は――。



「ふぇ? ここはどこ?」


 裸の幼女であった。


 齢は10歳ほど。顔だちもかなり幼い。通称幼女と呼ぶべき存在。


 二人は身構え、立ち竦んでいたお互いを見て指差し、小さな笑いを零す。ハハハと。


 そして、嫌な現実を再確認する。


 真夜中。月明りの下で男二人が幼女の裸体を観察。なおかつ二人は直前に大声を上げ、喋っていた。村の外れのとはいえ、深夜警備の自警団が見に来る可能性がある。という危機的で悲惨な現状。そう。犯罪である。


「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい! グレン!! これ、世間的に言う誘拐ってやつじゃ!?」


「どどどどど、どうしよう! やばいよ! クロノ! 折角勇者としておばさんおじさんに大切に育てられてきたのに、犯罪の勇者の烙印を押されちゃうよ」


「えぇー! なんで、私裸なんですかーー!?」


現場は混乱していた。まさに混沌である。


「え? 誘拐? 誘拐ですか? 自警団さーん!! こっちですぅ! 助けてぇー!」


幼女は現状を把握して大声で助けを求める。


男二人はもはや諦めの表情をしていた。もうこれはどうしようもないと。弁解は難しいと。そう判断した。

が、危機的状況で脳のリミットが解除されたのか頭脳はフル回転する。火事場の馬鹿力(?)というやつである。


 「むー! むぐぅー!」


 「グレン! 『帰還(リリース)』だ! この幼女を抑えてるから、『召喚』の逆行使するんだ!」


 「わ、わかった。お嬢さん僕たちは悪い人じゃないし、そして誘拐犯じゃない。これは何かの事故なんだ。このことは忘れてくれ。いや忘れてください。お願いします!」


 「むごごご!」


 幼女は何か訴えかけているが二人はそんなことを気にしてられない。意識を幼女に集中してグレンは能力を行使する。


 「勇者グレンの名のもとに! 能力『召喚』を発動! そして逆行使! 『帰還(リリース)!!』」


 薄い紅色の光に幼女は包まれ、虫の召喚陣からゆっくりと姿を消していった。


 「はぁはぁ。なんとかなったなグレン。犯罪者になるとこだったぜ」


 「あ、ああ。しかし何だったんだろう。あの虫の召喚陣。確かに何か変なものが出てこようとしてしていたのは確かなんだ。なんで幼女が……?」


 「まぁ、わからないことは後でゆっくり考えようぜ。今は明日に備えて寝よう。俺はどっと疲れた」


 「そう、だね。僕も疲れたから寝るとするよ」


二人が立ち去ろうとした時、先ほどの試合場の虫の召喚陣は再び音を立てて光を放っていた。


「またかッ! クロノ! その召喚陣を消して! そうすればこことのつながりは消えて何も出てこなくなる!」


「おう! わかった。勇者クロノの名のもとに! 能力『キノコ』を発動! 『キノコの繁殖』!!」


 クロノは召喚陣に触れ、密集キノコの効果で虫の魔方陣はたちまち、色どり様々なキノコに覆いつくされた。


「ふぅ」


一息ついた二人は再び安息の地、我らが居城の白いベッドへと歩を進めようとする。が、またもや異音と怪しい光。


「「もういいって!」」


 二人は心の内をぶちまける。その異音は空より鳴り響く。

よくよく周りを見れば森からはいくつかの人工的な光が。おそらく自警団だろう。


「詰んだ。これはダメだ。まーた幼女が出てきて、それから犯罪者として暗い牢屋で青春を過ごすんだ。ハハハ……」


「クロノ……。僕もその時は一緒だよ……」


 二人の瞳はもはや生気は無かった。悲しい瞳であった。

やがて森からの明かりは二人を照らし、深夜警備の自警団の一人が二人に声をかける。


「どうした? 何かあったか? 強い光と女の子の悲鳴が聞こえてきたが……ってなんだあれは!!」


自警団全員(といっても今回は二人)は空を見上げる。勇者の二人もゆっくりと音の元凶を見上げる。


月明りは依然明るいまま。赤い月はいつものようにこの世界を照らす。そこにあったのは小さな影。


そして、その影の周りに纏わりつく謎の生命体。


影はゆっくりとその正体を現す。生命体も目を光らせながらこちらを見つめその場で静止する。


 やはり幼女。幼女であった。が、今回は白いワンピースを着用していた。先ほどの幼女であることは間違いがない。数分前と姿変わらずだ。だが周りにいる生命体はいまだ影を纏い、見たものに不気味な印象を抱かせる。


そして、開口一番。最初の召喚で弱々しく悲鳴を上げていた幼女の声とは比べ物にならないほど大声で、


「フハハハハハハハ! 自己紹介といこうか! 私は混沌を求める、来訪者――カオスである!」


と言い放った。場は凍りつく。そう。――文字通り凍りついたのである。


「なんだぁ!? 俺の足が全部凍って――」


そう言い終わる前に自警団の一人の身体全体が凍っていた。

そして、その影響はクロノとグレンにも起こる。


「グレン!」


「クロノ!」


お互いが手を伸ばし、声を上げるが間に合わず、数秒後にはその場すべての人々が氷像と化していた。


「ハッハッハッハッハッ! これは序の口! 私の力のぉ! 一端だぁ!……って、あれ? 皆凍ってる? ……。まずいまずいまずい! ちょっとやり過ぎた! 能力解除、解除ぉ!」


焦った様子でカオスと名乗る幼女は能力解除を宣言すると、不気味な黒い影の生命体は消えた。そして、その場の氷結も解除される。


「――ふぅ~。 よしよし。これで第一印象はバッチリ。能力を使えば私の強さも伝わるし、さらに異変を片付けたという有能さもこの世界の人間に伝わる。一時は裸を見られて大変だったが、さっすが姉さまのナイスアイデア!」


ブツブツと話す幼女に突き刺さる訝しげな視線。


「フフフ……カオスの有能さがわかってどうスカウトすればいいのか決めかねてるのね? いいわ! どんどん来なさい! 私はこの世界を混沌に導きに魔王を倒す為にやって来たのだから!」


「麻酔拘束魔法! 発動! 撃てぇ!」


「――へ?」


その魔法が唱えられたとき彼女は、空からゆっくりと地面に着地し、拍子抜けた表情のまま自警団に捕まった。


「まったく。そこの二人? 君たちも来てもらうか自警団本部に。この幼女の関係者だろう? 自警団に攻撃するとはこれは国家に対する暴力かね?」


「い、いえ違うんですー! なぁクロノ!? 誤解だよな! なぁ?」


「もう、諦めよう。グレン。僕たちはもう……犯罪の勇者だ……ハハハ」


「諦めるなよ! もっと、抗おうぜ!? ――って違うんです。自警団の皆さん。この抗うっていうのは反抗するって言う意味では……あー!」


 こうしてカオスと名乗る幼女と折角旅に出ようとした16歳の旅立ちの日を迎えたそれぞれの勇者、キノコの勇者クロノ、召喚の勇者グレン。この3人の自警団による尋問は朝まで続き、誤解を解くまで3人はワンワン喚き散らしたという。


尚、この事件の事を知った師匠、デュランは弟子が犯罪者になったと勘違いし、泡を吹いて倒れたらしい。


そして、旅立ちの日。


そこには黒髪の少年。キノコの勇者――クロノ。

赤髪の少年。召喚の勇者――グレン。

最後に幼女誘拐の元凶、カオスと名乗る少女もその場に居合わせた。


「なんでいるんだよ!」

「なんでいるんですか!」


「だって」


「だって?」


「帰れなくなったんだもん。私を家まで送っていって? お兄ちゃん達?」


 キャピッとウィンクをしてこちらにアピールするカオスという少女。それを見て勇者の二人は互いに顔を見合わせる。そして、息を深く吸い同時に言い放つ。


「「勝手に来やがって! 送らねーよ!」」


「えー!?」


 驚いた少女はガックリと膝から崩れていった。


――だが、その後なんだかんだ駄々をこねた結果、カオスも一緒に旅立つことになった。


 16歳の旅立ちの日、それは元々二人の出発の予定で行くはずだったが、幼女も増えて3人に。

これは、勇者達が幼女とともに魔王を討伐するための物語。

――決して、犯罪者という烙印を押されかけて無理やり、深夜に出発して魔王を倒して名誉と信頼を回復使用などとは絶対に! そう絶対に思っていないのである! 


 最後に一報。気がつけば出発していた勇者と幼女の関係について自警団により長い取り調べを受ける一人の御年60歳。老人の影はいつもより寂しく見えたという。いや、というよりすすり泣いていたそうな。

~昔書いていた代物の供養です。お盆なので~


続きはきっと書かれるかもしれないし、書かれないかもしれないそんなお話です。


よろしければ現在、更新中の【エンマ様はぶっ飛ばす】もご覧頂ければ幸いです。

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