異世界から来た悪の組織
「えっと、それで? 新しい戦隊ヒーローが用意されてるのはわかったけど、それだと私達は何をすればいいの? 新ヒーローの先輩枠とか師匠枠?」
私が話を本筋に戻すためにレッドに質問してみると。
「いやそうではない。俺達の役目は異世界から侵略をしにきた悪の組織……つまり悪役を演じて欲しいとの事だ」
『悪役っ!?』
レッド以外のみんなが声を上げていた。
「そうだ。神としては正義のヒーローは創造出来ても悪の怪人を創造する事は出来ない。なので戦隊ヒーローの酸いも甘いも知っている俺達に敵役を頼みたいそうだ。つまり俺達は毎週日曜の朝、約30分だけ俺の元居た世界を侵略するフリをすればいい……という事だ」
あ、あのそれなりのヒーローってわざわざ創造したんだ。そしてやっぱり日朝の30分だけなのね……?
と考えているとレッドが続ける。
「幸いこちらには魔王経験者や怪人組織の元大幹部と人材は揃っている。なのでまず――組織の頂点として魔王! これをブルーに頼みたい……ブルーやれるか?」
レッドがブルーへと体を向ければ。
「お任せを」
とブルーが静かに頷く。
「次に魔王の右腕! こいつは戦闘という1点においては魔王を上回ると言われている……組織の最大幹部にして最高戦力。こいつは俺がやる」
まあ、実際私達の中で間違いなく最強のレッドが適任よね。それから?
「次は悪の怪人を造り出す悪のサイエンティスト。魔王の頭脳と呼ばれる科学者……こいつは博士に頼めるか?」
「うむ。まあ私が適任だな。なんなら本当に怪人をいくらか造っても良い……当然ロボットだが」
と快く首を縦に振る小豆ちゃんだけど……小豆ちゃんだと本当に簡単に造り兼ねないよね。
「そして次は必ず1人は居る女大幹部。魔王のチャームポイントと呼ばれるセクシー担当はグレー……お前に任せる」
「はい。頑張ります!」
うん。私達のターゲットはチビっ子じゃなくて大きいお友達だからセクシー担当は必要よね。グレーちゃんのハイパーグラマラスなボディラインが余す事なく表れちゃう雑魚戦闘員のピチピチタイツは必ず刺さる人が居るはず。
「そして最後は――」
私か。
「最後は真っ先に殺られる。いてもいなくてもいい雑務担当の幹部。魔王の乗る霊長類最強の馬の飼育担当はピンクお前だ!」
「ちょ、なんで私だけ担当が2つあんのっ? しかも雑務はともかく霊長類最強の馬って霊長類じゃないじゃん馬っ!」
てゆーかコレどう考えたって私オチ担当じゃん!
しかし私のツッコミなど無視されて話は先に進む。
「まあとりあえずだ。戦隊シリーズが始まるのは来週からだから俺達の出番も来週からとなる。なので今の内に俺達は俺達自身の細かい設定を見直しておくべきだと俺は思う。例えば組織の名前や俺達の名前なんかだな」
あ〜そっか。悪役だから戦隊名とか使えないし、レッドとかピンクも当然使えないもんね。だからって悪の大幹部がうめぼしとか豚足ってのもねぇ?
というところで私は口を開く。
「異世界から来た悪の組織っていうより、魔王が居るから異世界から来た魔王軍って考えて名前付けた方がいいよね? あとは魔王ストロガノフとダイナゴン博士はまあ箔もあるからいいとして、問題は私とレッドとグレーちゃんの名前ってかコードネームよね?」
「ああ、全く以てその通りだ。そこまで理解しているならばピンクよ――既に何か良い名が浮かんでいるのではないか?」
と軽く首を捻るレッドだけど、私としてはこれといった明確な答えはなく。
「いや全然。でも魔王軍って言ったらダークなんとかとか、デスなんちゃらとか、ブラッディほにゃららとかでいいんじゃない?」
「ほぅ? なるほどな……例えば『鰯野つみれ18歳デス』とかか?」
「言うと思ったわ……。てゆーか私18歳じゃないし……」
私がジト目でレッドに訴えかけていると、横からアゴを撫でているブルー。
「うむ。では『鰯野つみれ18歳BLOODY』とかは如何ですかな?」
「いやだからDEATHとかBLOODYとか別に語尾の話してるんじゃないのよ。そうじゃなくて……」
とまで言いかけた時に再びレッド。
「語尾じゃないなら『鰯野つみれ1DARK8歳です』とかどうだ?」
どこにダークを捻じ込んでるのよっ! と私が言うよりも速く。
「鰯野つみれ霊長類最強の馬殺しの18歳ブリっ!」
「ブリってどっから出てきたブルーッ!! あんたの事もブリーって呼んでやろうかっ!!」
「はっはっはっ! それだとビーフ・ストロガノフだけにブリーフ・ストロガノフになりますな? はっはっはっ!」
なんで高笑いしてるのよコイツ……腰砕けたわ。
私はテーブルに両手を着いて体勢を立て直し。
「いやもう……そうじゃなくて魔王軍なんだから『ダークジェスター』とか『デスストーカー』みたいなのがいいんじゃないの?」
『――ッ!』
私としては深く考えたワケでもなく1つの案として発言したつもりだったんだけど――
「宮廷道化師か……良いんじゃないか? 神に頼まれ悪役を演じる道化――正に『闇の宮廷道化師』。今の俺達にピッタリの名じゃないか?」
「――へ?」
レッドの言葉にみんなが殊更頷いてる。
「良し! みなも納得してくたようなら俺達のホームページ検索名は『ダークジェスター』に決定だな」
もうホームページあったのっ? ってゆーか魔王軍がネット検索で引っかかってホームページ表示しちゃダメじゃない?
けど結局。私達の魔王軍としての名前も「ダークジェスター」に決定した。




