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続・ブルーと小豆ちゃん

 3週間の時間稼ぎと映画編も無事に終わり。次の日曜日からは再びレギュラーシーズンに戻るワケだけど……。


 私はいつものファミレスに昼食を摂取しに来ていた。そしてどうせいつもの席にはレッドとブルー、或いはブルーと小豆ちゃん。この組み合わせのどっちかが居るんだろーな〜っと思いながら視線を這わせれば、居たのはブルーと小豆ちゃんだった。

 どうやらセカンドシーズンはこの組み合わせが毎回居るようになるみたいね? ……と思いながら私は毎度のように慣れた足取りで後ろ隣の席へと滑り込んだ。


 そして聞こえてきたのは――。


「博士殿。ご足労をかけ申し訳ない」

「いや、気にするな。それより私に訊きたい事とはなんだ?」

 うん。なるほど……どうやらこのペアはブルーが小豆ちゃんに質問があって毎度呼び出してるみたいね? それで?

「では早速ですが……まず初めに伺いたいのですが博士殿は幽霊というものを信じておいでか?」

「いや、私は信じていない。何故なら本物を見た事がないからだ」

「左様でしたか。実は私も信じていない派でして……」

 元魔王のクセに?

「ん? ちょっと待て。お前は元魔王だろう? 向こうの世界で魔王だった頃に幽霊の1人や2人配下にいたのではないのか? なのに信じていないのか?」

 あ、やっぱり小豆ちゃんもそう思った?

 で? ブルーの答えは?

「いやはや流石は博士殿。お恥ずかしい話ですが確かに配下に幽霊はいました。しかし胡散臭い連中で私の寝首を掻く事ばかりを考えていたので私は幽霊を信じていませんでした」

 それは幽霊を『信じていない』じゃなくて厳密には幽霊を『信用していない』じゃない?

 しかしそんな事は些細な問題かブルーは続ける。

「とまあ私の居た世界では幽霊は普通に存在していたのですが、どうもこの世界ではその存在が曖昧なようなので私なりに文献などを調べてみたところ……不可解な事に気が付いたのです」

「不可解? それを私に訊きたい訳か。それで?」

「ふむ。幽霊にも様々な者がいるようですが……何故か魚の幽霊というものが存在しないようなのですが?」

 あ、確かに言われてみれば……?

「なんだそんな事か。答えは簡単だ……人間にとって魚の幽霊は恐怖の対象とならないからだ」

「と言いますと?」

「良いか? 幽霊とは基本人間にとって畏怖の存在。つまり見た目からして恐ろしくなくてはならない。例えば白装束を着た白髪の老婆や落武者などだ。これが逆に、ただただセクシーなだけのお姉さんや小太りで常に汗を掻いて息を切らしているハゲたおっさんだとあまり怖くない」

「ほう? 確かに」

 確かに。別の意味でちょっと怖いけど。

「そして動物なら猫や狐、あとはまあカラス辺りなら幽霊として畏怖の対象にはなり得るだろうが、これがマウンテンゴリラやレッサーパンダではまず怖くない。マウンテンゴリラの幽霊など字面が面白いし、レッサーパンダの幽霊などカワイイ以外の何者でもない。そしてここまでの話で既に察しているとは思うが、怪談話に白髪の老婆や落武者、猫や狐の幽霊は出てくるが、小太りのハゲた汗っかきのおっさんやマウンテンゴリラ、レッサーパンダの幽霊はまず出てこない……。これは何故か? 理由は簡単だ。幽霊とは常に人間にとって恐怖の対象でなくてはならない。人間にとって都合の悪いコミカルな幽霊やカワイイ幽霊は存在してはならないからだ。それ即ち幽霊とは人間の創作……いや、正確には明らかな創作フィクションならば恐怖からコミカル、カワイイ幽霊までなんでもござれだが、何故か実在するとされる幽霊には基本怖いものしかない。この偏りこそが幽霊は創作だと物語っている……と私は確信している」

 じ、事実かどうかは別として筋は通ってる! 確かに幽霊が創作じゃないならガチの怪談話でもサンバ踊ってる陽気なブラジル人の幽霊とか、早朝に「コケコッコー」って盛大に鳴くニワトリの幽霊とか出てこなきゃ逆に不自然だよね? なんか小豆ちゃんが天才エンジニアっぽい事言ってる気がする!

 ――と。

「確かに幽霊が創作でないのならば、怪談話でサンバを踊ってる陽気なニワトリの幽霊や、早朝に『コケコッコー』と盛大に鳴くブラジル人の幽霊とかが出てこなければ逆に不自然ですな?」

 お前の発言の方が不自然だコノヤロウ! ブルーッ!


 っとまあそれは置いといて小豆ちゃんが続ける。

「……という事を踏まえ話を魚に戻そう。ブルーよ、日本のホラー映画『リング』は知っているか?」

「無論。あの貞子殿が出演しているヤツですな?」

「左様。そのリングのラスト間際のシーンでテレビから貞子が出てくる有名なシーンがあるだろう? あのシーンでテレビから出てくるのが貞子ではなくマグロの幽霊だったらどうだ? 怖いか?」

「いや、最早ギャグですな? 寧ろ生きているマグロが出てきた方が怖いかと?」

 うん。確かにテレビから生きてるマグロがビチビチいいながら出てきたら怖いけど……怖さの方向が違うのよ。

 更に小豆ちゃんは続ける。

「他には『13日の金曜日』と言えばジェイソンだが、そのジェイソンが肩にマグロの幽霊を担いでいたら怖いか?」

「いや、マグロ漁帰りのアイスホッケーの選手と見間違えるだけですな?」

 そんな状況あるぅ? 私なら間違いなく2度見か3度見する……場合によっては4度見5度見。

 しかしそんな私とは対照的に見間違いで済ませるブルーが続ける。

「寧ろジェイソン殿ならマグロの幽霊より冷凍マグロを持たせた方が人間を抹殺出来る武器になるのでより恐怖なのでは?」

「そうだな。冷凍マグロと言えばエクスカリバーより斬れ味が良いと言われている伝説の一刀だからな。ジェイソンが使えば人間なんて簡単に真っ二つだろうな?」

 冷凍マグロなのに撲殺じゃないくて斬殺っ!? 冷凍マグロなのに鈍器じゃなくて刃物! それ実はジェイソンが居合斬りの達人とかそういうオチじゃないよね?


 というところで小豆ちゃんの熱弁は続く。

「更にはこういうのはどうだ。回転寿司に行って中トロの幽霊がレーンを回っていても怖くはないだろう?」

「ですな。普通気付かないかと……?」

 いや中トロの幽霊って何っ!? それもマグロの幽霊扱いなの?

「寧ろ生きている中トロが二足歩行でレーンを走っている方が恐怖じゃないか?」

「確かに」

 いや恐怖だけどやっぱりベクトルが違う!

「他にもゾンビの群の中にツナ缶の幽霊がいても怖くはないが、生きているマグロの群れの中をツナ缶が一緒になって泳いでいる方が恐怖じゃないか?」

 だから確かに怖いんだけども……恐怖が別方向に向かって突き進んでるのよ!


 しかし私とは違いブルーは。

「なるほど。確かに博士殿の言う通り、人間にとって魚の幽霊はギャグでしかない……。そして幽霊より生きている人間の方が怖いとは良く言いますが、魚も幽霊より生きている魚の方が恐ろしいと」

 いやそういう話じゃな…………いや、そういう話か?

「やはり博士殿に相談して正解でしたな。魚の幽霊が存在しない理由が良くわかりました。なので今から魚ではなく人間の幽霊を生け捕りにしてこようかと思います」

 だからお前は人の話を聞いているの? 小豆ちゃんは幽霊は人間の創作…………幽霊なのに生け捕りィ!? 

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