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動力神と斬りすぎる者  作者: 白石 流
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第三話

 視界を共有してみたい。一瞬でも構わない。そんなことばかり考えていた。


 あの蒼い瞳を通せば、曇り空は快晴に、泥は清流に映るのだろうか。


 砂漠は海になり、波音さえ聞こえてくるのだろうか。


 どこか遠くを見つめ、朗らかに歌う横顔をうかがっては、そんなことばかり考えていた。


 あの明るさの前では、欠点も愛嬌に過ぎない。


 彼女が持たないものは、きっと人間には不要なのだと思った。


 無二の高潔さ。屍山血河の只中でも揺らがない優しさ。別れの少し前、背の高い草花に囲まれて泣いていた。


 ――メアリ




 ぶんぶんと五月蠅い音で目が覚めた。薄目を開け、森中の街道沿いで野宿していたことを思い出す。ロアナートを北上し、さしあたりミュイノスへ向かおうという道すがらだ。そこを抜ければ、もう一国へだててピリミ大海である。


 頭が軽い気がするのは髪を刈り、髭も剃ったからだろうか。もっとも「汚らしくて不愉快です」と強引に切られたのだが。


 今は裸体でなく、相棒が空から呼び寄せた鈍色の布鎧に、黒の長ズボンを身にまとっていた。心臓の部分鎧と腕・脛甲だけが重々しい。


 枕元には鞘の破損部をナラの木で裏当てした長剣が横たわっている。


 ひどく背中が痛かった。砂利や石灰が蒔いてあるだけの固い地面の感触が、当分は消えそうもない。昔はまったく平気だっただけに身体の変化を痛感する。


「やっと起きましたか」


 馬車がようやくすれ違える道を隔てて、フーリンが望遠鏡を振っていた。単純に振るう時もあれば、どういった意味を成すのか不明な動きも多い。


 とりわけ奇妙なのが、片手に望遠鏡を構えた状態で手足を軟体動物のように曲がりくねらせる動作であった。


 それぞれ、根元から末端までが折れ曲がっては伸び、旋回しては停まり、ふと峻烈に暴れ出す。断じて舞ではない。剣や槍の型とも異なる、我流に過ぎる何かだ。


「精が出るな」


「見習っても良いですよ」


 そうだなと適当に返事をし、革の水袋を拾い寄せて一口あおる。


「いい加減、午後になったらしいな」


 ダインの胸にも判定神の紋、相変わらず意味不明な皿なしの天秤が光っていた。動力停滞による時間のずれに自覚的になり、その影響を軽減するための神器とのこと。


 村を出てから一晩と思いきや、まだ半日と少し。朝が昼になっただけである。日に何度も就寝と起床を繰りかえす必要が生じ、生活サイクルが尋常ではない。端から見れば実によく寝る二人だ。


 欠伸が止まらないが、危機感を加速させていく。耐えがたい眠気の訪れを一日の終わりとすると、〝今朝〟にフーリンが言っていたよりも動力停滞が進んでいる計算になる。一日が四日になっているらしいが、旅に出てから既に三度寝ているのだ。そうしないと魂の引き延ばしがより進行するという説明だが、どのみち活動時間が短くなってしまう。必要最低限の仮眠で済ませてはいるが、いつまで体力が持つか。


「食事にしましょう。朝食か昼食かは考えずね。シチューでも作りましょうか」


「シチューは……苦手なんだ。悪いな。他であれば何でも良い」


「はぁ、そうですか」


 鍛錬を終えたフーリンが望遠鏡を放り、翠の〝手〟を出して空を煽ぐと、雲に向けて上昇していく。入れ替わりに、食料を詰めた背嚢と調理器具が降りてきた。見えない滑車があるかの如くだ。


 村でも見せた第三の〝手〟は、種々雑多な対象に働きかけるための力の源となる器官。これを持つ者が人類の主戦力である。


 起源は諸説ささやかれ、人間と異族はそれぞれ天界の異なる住民を真似て創られており、彼らの能力の名残が色濃い場合に、この特徴が発現するという説が有力だ。この考えを支持する者達は、〝手〟による力を神からの授かり物として『法力』と呼んだ。


 持ち主自体はありふれており、あざやホクロ程度の個性として認識されるものだ。大半は微力なため、生活の便利道具にもならない。


 軍隊での実戦投入基準を満たすものは人間を殺傷し得るエネルギーをもって、単体だが複雑な作業も可能である。更なる上を見れば幅が広すぎて一概に言えないものの、先の戦いでの出力からしてもフーリンは高位の上澄み。さすがは神の座を奪うべく送り込まれた女といったところだ。 


 風使いとは便利なもので、重い荷物は空に浮かせて運んでいける。空の異族対策として気流での防護もしているらしい。


 調理器具がひとりでに動き、球体の水がふわりと鍋に落ちていき、薪が集まり火が起こった。無論フーリンの業であるも、本当に風のみで行っているのか疑念すら抱く。こういった仕事を苦もなく並行するだけで十分な驚異だ。


「凄いもんだな」


 寝ぼけ眼のダインと対称的に、汗を拭くフーリンに疲れは見受けられない。


「鍛えられましたからねぇ」


 良い香りがしてきた。寸胴鍋で気泡を吹きだしたスープは具なしだ。ソラ豆の一粒でも食器で切断すれば惨事になることへの配慮だった。


 ほんのりとハーブが香ってくる。互いに手持ち無沙汰になってしまう。


「……鍛えられたというのは、判定神にか?」


「えぇ。直接のご指導も多かったですが、仲間達との修練にも励んでましたよ。神官達の間で〝庭〟とだけ呼ばれている、特別な場所でね」


「仲間って、さっきの桃色集団のことか」


「桃色集団……。ええ、彼女たちともよく戦いました。朝から夕方まで、毎日ね。手指などは何本飛んでいったことか。ときには命を落とすことも」


 表情からして恐らく実話のようだが。深く聞くのも憚られたとき、フーリンがずばり言った。


「判定神院のことが気になりますか?」


「少しな」


 もうじきスープが沸きそうだ。 


「朝も言ったように、表向きは施療院の体です。病人や孤児はもちろん、近隣の人々や旅人などがノルン様を慕ってやって来るのを受け入れ、曖昧な関係性のまま面白おかしく暮らしているのです」


「なんだそりゃ」ノルンというのは、どういう考えで生きているのだろう。フーリンの言葉を借りれば、これが理解不能なのも人間と神の差というものか。


「お前は何故そこに?」 


饒舌だったフーリンが口ごもり、顔を薄赤くした。


「……腕試しの旅に出ていまして」


「ほう」


 話の先が読める。


「半笑いはやめてください。なにぶん、昔からやけに強かったもので。幼い頃、周囲の全員が止めるのをねじ伏せて街を出たのです」


「都市の住人だったんだな」


「小さな零細職人の家ですよ。親の言うまま郊外で織物工として生きるのも良かったと今は思いますが、あの頃はとにかく自分の力を試したかった」


 でも、と俯いて続ける。


「殴り合いとは違いますからねぇ。いくら広いと言っても、城壁に押し込められては満足に喧嘩もできない。街を壊さない程度の分別はあったので、本能のまま大陸へさまよい出たというわけです」


「珍しい女だよ」


 少し面白くなってきた。フーリンも興が乗ったか、拳を握っている。


「私はひたすら戦いました……。東西南北、ときには上空で竜の群を打ち落とし、またあるときは海を呑むような鬼鯨を吹き飛ばし、陸においても立ち塞がる異族を片っ端から蹴り転がし、脇目も振らず戦いに明け暮れたのです」


「うーん、真実味がある」


 スープが沸騰したことに二人とも気付いていない。


「どんな相手も圧倒的な風の前には無力でした。まさか、この世で一番強いのは……私?思い上がりの絶頂期、とある情報を聞きつけたのです。西大陸最南端、芸術と美食の都と名高いアスティリア大公国、公都デルバンに邪悪なる巨竜、エイムノイスが降り立ったと。

 しばらく鎮座されるだけでも国土が死に絶えてしまう。雲を衝く真紫の巨体は『毒の津波』の二つ名通り、触れれば終わりの毒液を絶え間なく大放出!」


「そんな奴がいたのか」


 ダインは聞いたこともない。


「国の最期か、もはやこの世も終わりか。なす術のない人々の前に薄紅ローブを翻し、現れたのがノルンと名乗る女性。何をするかと思いきや、か細い拳を振り上げた! おっとっと」


 もうもうと湯気を立てる鍋がふわりと浮きあがり、火から離れた。フーリンはいったん落ち着き、咳払いをする。


「……拳を受けたエイムノイスは、産まれて初めて自らの意思によらず空を飛んだことでしょう。天で巨躯を散り散りにし、浄化された雨となり毒を洗い流した……という話だったので、半信半疑のまま、その女性とやらに喧嘩を売りに行ったわけです」


「よく行ったな」


「細い情報の糸をたどり、ようやく見つけたのがノルン邸でした。デルバンからほど近い森中にぽっかりと広大な土地をかまえ、腰を抜かすような豪邸で毎日どんちゃん騒ぎや怪しい慈善活動を行っている謎の女性。貧乏育ちだった僻みも手伝い、むかむかした私は豪奢な門扉へ手をかけたのです。すると――」


 風が木椀を運び、ダインの出した手に着地した。琥珀色のスープが椀型の一塊となり、クラゲのように漂ってきて木椀に収まる。


 フーリンが怪談話をするように語調を低くした。


「誰もいなかった筈なのに。背後から声をかけられました。『ご用件は?』と。慌てて振り向くと、そこにはやはり薄紅色のローブの女性がいましたが、彼女はとても弱々しく、まだあどけない少女でした。鮮やかな赤髪に半ば見蕩れながら、すぐに標的ではないと判断することに」


 話しながら大きな背嚢を漁っているのは、パンでも出そうとしているのだろう。恐怖の記憶がつまびらかに蘇ったのか、青白い顔が更に白くなってきた。


「試しに家主と戦いにきた旨を伝えると、表情一つ変えず『今はお食事中ですが』と言いつつも門扉は開かれました。青芝の眩しい広々とした庭園に足を踏み入れた、その瞬間――」


 フーリンの歯がカチカチと鳴っている。背嚢に突っ込んだ手をそーっと抜き出し、


「とにかく……色々あり、挨拶の仕方からご指導して頂きました」


「細かくは聞かん……」


「そして今、我々は新たな恐怖に直面しています」


「ん?」


 フーリンが立ち上がり、背嚢を逆さにした。しかし何も出てこない。やけに顔色が悪いと思ったら、


「食料が……ありません」


「ど、どういうことだ!」


 ダインも確かめてみると、ものの見事に空っぽだ。


「空の異族でしょうねぇ。こ、こんなトラブルも旅にはつきものです」


 うっすら涙を浮かべて開き直っている。具のないスープをすすり、膝を抱えて地面と睨めっこだ。


「気流の防護はどうした」 


「ちょっと隙間があったのかも知れません……」


「くっ……」


 致命的だが、叱責しても仕方がないので気持ちを落ち着かせようとした。


「ま、まぁ、ほら、不幸と幸福は縄みたいに連なってるとか言いますし、これもきっと未来の幸せへの布石なんですよ。人生、そこらへんはバランスがとれるようになってますからね」


「フーリンちゃん」


「ごめんなさい」 


 重い沈黙が流れる。腹が減った。


「ともかく、どこかで食料を得るしかないな。このままだと戦うどころじゃな――」


 突如、降ってきた何かが頭に直撃した。枕大のそれは幸いにして柔らかく、重量もさほどではなさそうだが、かなりの加速がついていた。不意打ちを受けたダインは尻を突き上げるような体勢で倒れてしまう。痛みと空腹で起き上がる気力も湧かない。


 頭上を睨むと、音もなく空を進む馬車があった。ここらを管轄とする配送屋だろう。


「やっと届きましたか」


 何度もバウンドして転がっていった荷物を拾い、緩衝材の葉を剥けども剥けども品が見えてこない。上空から投げ落としても壊れぬよう過梱包されている。しばらく青臭さに辟易し、結局でてきたのは大ぶりナイフのみだった。貴族の家宝かという装飾でありながら身幅広く重ね厚く、刃渡りの長さは短剣と遜色ない。


「ダインさん、プレゼントですよ。これから必要になりますから」


「……ありがとよ」


 人からの贈り物など久しぶりで嬉しいが、ナイフで腹は膨れない。再び街道をすすみ、村落や宿駅を探すことにした。

 しばらくすると、過ぎたる空腹が腹痛に変わってきた。二人揃って胃をおさえているのが滑稽である。


 何か喋って気を紛らわせようとしたのか、


「そのナイフは凄いんですよ。私の望遠鏡と同じくノルン様が長く愛用したことで神器と化しています。ダインさんの長剣では敵の神器に刃が立ちませんが、これであれば傷を負わせましょう。ラルタルでの戦いに必須です」


「へぇ、ありがたや」


「機嫌直してくださいよ。プレゼントだってまだあるんですから」


 存外すまなそうにしている。


「お前の言った通り、旅をしていれば食料枯渇はつきものだ。ところで、このまま徒歩移動なのか? 時間がない割にはのんびりだ」


「よその神官に頼んで、良い馬車を手配済みです。あれにさえ乗ればどこへでもひとっ飛びですが、なにぶん御者も馬も癖がありましてねぇ。もうすぐ落ち合えると思いますが……」


「さぞ変な奴なんだろうな。楽しみにしとくよ」


 思いのほか早く、村落へ続くであろう分かれ道が見つかった。迷わず入ると途端に薄暗い。どのくらい森を歩くのだろうか。フーリンは望遠鏡を呼び寄せ、ダインは長剣の鞘に手をかけて周囲を警戒する。


 道幅が狭くなったり広くなったりで不安定だ。そこかしこから野太い鳥の鳴き声がやまない。無意識に食べられそうなものを探してしまうのが情けなかった。


「お、木の実がある。先に食って良いぞ」


「今朝やっつけた甲虫みたいな色なんですけど」


 栄養不足と疲れで目が霞んできた。旅に出て半日でこれとは先が思いやられる。


「なぁ、フーリン」


 多数の気配に肌が粟立った。両脇の闇から矢が飛来し、二人の寸前で宙に静止する。フーリンの風壁だ。


 重量感に満ちた足音がいくつも近づいてくる。ダインが長剣を抜く。フーリンが見えざる敵に矢を飛ばし返してみても、足音の数と歩調に変化はない。


 やがて姿を現したのは、分厚い岩の甲殻をもった人型異族の集団だ。左右から十体ずつ、計二十体。背丈はダインの倍以上。四本の腕には弩や棍棒が握られていた。


 頭部は人間より二まわりは大きいだろう。目らしき窪みは確かに見えているようで、こちらの動きを追ってくる。言葉は通じるかと訝るのを察したように、唯一の小柄な者――とはいえダインより頭三つ大きい――が威圧的に尋ねてくる。


「村の関係者か?」


 口があまり動かず聞き取りにくいものの、人間に言葉を合わせて対話をする理性があるようだ。異族のなかには肉体が脆弱なため争いに敗れ、人間領まで逃げ延びる種もある。または知能の低さから領地の概念を解さず、ただ迷い込む者も存在する。後者の輩は人間のみならず異族間に於いても忌避され、『はぐれ』と呼ばれる。


 この時世であるので、通常の考えでは侵略者と断じるべきだが、全ての異族が主戦派ではないのだ。


 ましてや逃げ延びた種であれば性質が無害な可能性も皆無ではない。彼らがその手合いだとも思えないが、事情があるなら聞くことにした。問答無用で矢を放ったのもこちらを恐れるが故で、話せば分かる連中であれば無駄な時間を食わずに済む。


「単なる通りすがりだ。お前らが人間領にいる訳を話してもらおう」


 答えると、彼らの間で独自言語での話し合いが行われた。そして質問は無視される。


「今すぐに引き返せ」


「理由ぐらい言え」


「言う理由がない。引き返せ」


「やはり侵略者か。斬らせてもらう」


 見た目に反し、敵の動きは速かった。対話では埒があかぬと一斉に躍りかかってきては、容赦なく棍棒を振り下ろす。しかし、風壁にはじき返されてすぐにたたらを踏むこととなった。


「フーリン、いいか」


「いつでも」


 体勢を立てなおした一体が再び振りおろした棍棒を長剣で受け止め、刃が僅かに食い入ると敵の全ては粉砕された。石粉が煙り、数十の木々が倒れる。


「なんだ……これは……」


 無様に瓦解して道に散らばる石塊のなか、首だけになった小柄な者が呻いていた。


「俺にも分からん」


 冷たく言い捨てて先を急ぐ。敵勢力の内陸侵攻を立て続けに認めたのは由々しきことだが、この先に異族に狙われるほど豊かな村があると知って足取りが軽い。二人はもう、屠った相手のことなど忘れようとしている。


「そういや持ち合わせはあるのか? 俺は見事に文無しだぞ」


「ご心配なく。包むお礼には困りません」


 我が主神は太っ腹ですからと、自分のことのように胸を張ったとき、


「行かせるかぁ!」


 地鳴りを思わせる大声を浴びせられた。振り向くと、散らかっていた死体を無秩序に集合させたのであろう奇怪な岩山に、小柄だった者の首がぽつりと乗って喚いている。


「何故そこまで執着するんだ」


「お前らが村に呼ばれた増援なのはわかっている!」


 うんざりだった。フーリンも口が〝へ〟の字だ。普段であれば少しは誤解を解こうとするかも知れないが、今の二人は機嫌が悪い。


 足も肩も考えなしに取ってつけたバランスの悪そうな体で、つんのめりながら襲ってきても結果は同じだ。フーリンが放った風の飛礫を受けた敵は、細かな石塊となって再崩壊する。


「二度と現れないでください」


 竜巻が発生し、敵の残骸と木々を一緒くたに攪拌した。変形し、圧着されながら高く巻き上げられ、あっと言う間に雲へと没していく。


「タイミングが良かったらしいな」


 村人と紛争中なのは察することができる。戦況は如何ほどか。


 数キロ歩くと木柵が見えてきた。幾筋もの煙が上がっているのは戦火の残りか。森閑としているが油断はできない。ひとまず木陰に隠れて様子を窺うことにした。


「ダインさん、何か見えますか」


「その望遠鏡は飾りか」


「……? あっ」


「お前……」


 フーリンがレンズを覗き込み、短く声をあげた。


「どうした」


「石粉で汚れて何も見えません」


「行くぞ」


 こそこそするのも癪だ。木柵の途切れ目から中に入ると、そこは三十戸程度の小さな農村だった。領主館は見当たらない。ほとんどの家は破壊され、教会や水車小屋も崩れ、農作物は荒らされていた。旅人を歓待するどころではないだろう。


 座り込む村民がぼんやりと火を囲っている。


 なるべく警戒させぬよう、フーリンが話しかけることに

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