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狸とオコジョとイタチと白ヘビ

「悪かったね。」


 俺が狸と言った事が気に障ったのか、署長は俺を完全に無視した上で、なぜか玄人に謝罪したのである。

 玄人は眉間が陥没したのかと思う程の眉根を潜め、自分のなぜ狸親父が謝って来たのかと訝し気に狸署長を見つめ返すだけだ。


「ハハハ、ごめん。玄人君を餌に東を引き上げるには、鼬を使うしかなかったんだよ。鼬に玄人君を殺すと不老どころではなく不死も手に入るってね、囁かせたのさ。それから君が見え過ぎる事の無いようにオコジョの数も減らさせて貰った。携帯ショップで玄人君が見破っちゃったら全て台無しでしょ。」


「僕のオコジョをどこにやったのですか!」


 機嫌よく説明する男のろくでなさに俺は唖然として声を失ったが、玄人はそうでもなかったようである。

 彼にはオコジョが自分を守る鎧そのものであるのだ。


「神棚を壊した従兄達にオコジョが次々と襲い掛かっているだけだよ。大丈夫。」


「え。」


 玄人は豆鉄砲を喰らった鳩の顔になった。

 楊に縛り付けられた老人も目を見開いて呆然とした顔だ。


「神棚はあなたの仕業?え、それじゃあ、雨宮って子の行動も神崎署長の仕業だったのですか?」


 素っ頓狂な声をあげた玄人に対して、神崎は肩をひょいと竦ませた。


「元々恨みがましい性質の上に行動力もあるからね。早目に親元で矯正した方がいいでしょ。彼女は君だけじゃなくて、今までも同じような事を繰り返して来ていたからね。」


「え?」


 玄人はきょときょとと周りを見回して自分の意識を探している。

 俺だってそんな気持ちだ。

 あの辛い二週間近くは、こいつの仕業、だったのか?


「全部あんたの仕業でしたか?」


 俺の声も情けない事に少し裏返っていた。


「呪いは?あんた自身に呪いは?ユキもクミも全身がオコジョマークだらけだそうですよ。あんたに呪いは行かなかったのはどうしてですか?」


「ひでぇ。可哀相にユキちゃん達。」


 楊が友人でもある白波アミーゴズを思いやる声をあげたが、ハハハと笑い声をあげただけの人でなしの妖怪署長は、片手をぱたぱたとさせながら軽く答えた。


「蛇様の仕業だよ。白波の蛇は凄まじいね。僕の動きを知るや次々と動き出してね。僕は神棚を新潟に持って行かせるだけのつもりだったのに、蛇様が勝手に壊しちゃったの。」


「え?」


 俺達は三人とも署長の顔をまじまじと見つめてしまったに違いない。

 玄人の神棚は、玄人の祖父が白波一族が奉じる蛇神様をオコジョと一緒に讃えるべく作り上げたものであり、つまり、オコジョごと玄人を完全に蛇神様に取り込むための小道具といってもおかしくない物なのだ。

 それを奉じられている神様が壊したと聞いて、驚かない者がいるだろうか。


「もう、びっくり。白波君達が手をかけた途端にビリってね、オコジョの電撃を使ってさ。あれじゃあ、誰だって落としちゃうよね。」


「それで、あいつらは引っ越しトラックに何も乗せずにほうほうの体で新潟へと逃げ帰ったのか。そして、その仕業が神棚の神様本人の仕業?何のために?」


 自分の祠同然の神棚を壊す神様が信じられなくて、普段の声が出せないまま聞き返していた俺に対して、返ってきた答えは本当にくだらなかった。


「お正月の初詣と大事な子孫をしっかりと取り込むために、かな?」


「えぇ?」


 オカルト本人でも署長の返答が俺以上に理解できないものだったらしく、玄人が納得できない声をあげていた。


「だからさ、君の従兄の結婚式は正月前でしょ。親族全員集まるなら総会もしちゃうでしょ。またすぐ集まるのは面倒だって。面倒臭がりでしょ、武本は。それで今回正月に集まらない前例を作ったら次回も集まらなくなるでしょ、正月は自宅でだらだらしたいから年末に集まればいいじゃないって。そしたら君は白波へ毎年初詣に行けるじゃない。それに、君の従兄達は呪いを祓うために氏子の誓いを改めて神様に立てるんじゃない?」


「あぁ。」


 玄人はガクッと四つん這いになってしまった。


「畜生。あの蛇め。」


 四つん這いの姿のまま、延々と自分の神様を罵り続ける玄人を俺は見下ろしながら、白波周吉が孫への心配どころかはしゃいでいた声を思い出してしまっていたのである。


 あの爺さんは全部見通していたに違いない。

 あるいは途中から操っていた?

 しかし俺はなんとなく今回の俺のしでかした玄人への仕打ちが全て、「蛇のせい」で流せそうで、来年の初詣には玄人を白波へ帰郷させてもいい気がしていた。

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