優しき味方の女友達
「みっちゃんはクロに元気になって欲しいなって、それだけよ。それに。」
「それに?」
そこで仲良しの佐藤と水野が顔を合わせると、仲良くプーと噴き出して笑い出した。
「クロのお店で買った新しい服を着たいじゃない。向こうから四人って指定なんだから嫌がらずに参加してよね。」
佐藤は優しく気立ての良い女性でもあるが、時々ブラックになる。
そんなブラック佐藤はグレーのツイードのジャケット風カーディガンにオリエントブルーのチュールを重ねたフレアスカートに水野とお揃いのブーティを履いている。
お揃いでも、それは型の話で、彼女の靴はブラックだった。
目の前の彼女達が二十二歳の巡査で、今年の四月に昇格したばかりの刑事さんだとは誰も思わないだろう。
普段は日焼け止めだけの二人は、完璧な化粧をした美貌のその顔で僕を囲み、そして僕に悠然と微笑んだ。
僕も彼女達の笑顔に自然と頬が緩む。
「別にさ、合コンなんかしなくても普通に水野だけを誘えばいいだけだろうに。」
ここで茶色の毛玉がにゅっと現れて水を差した。
四人目の参加者で、髪色は水野より明るく、光の加減で金髪に見えるほどだ。
その明るく染めた腰までの長い髪は、キャバ嬢のようにトップを盛ってくるくると巻いた毛先を流している。
メンバー内唯一の三十代で、ロングヘアの彼女は藤枝環。
このメンバーでは百五十五センチしかない彼女は小柄な人形のような美女に見えると評判で、最近楊勝利警部が課長を務める「特定犯罪対策課」、通称特対課に配属された新人の一人である。
特対課では新人でも、藤枝は大学を出て警察に入ってから、少年課でバリバリ働いていたベテラン刑事だったそうだ。
そして、彼女は性格と口の悪さを一切隠さない完全に自分本位の人間で、僕が密かに尊敬している人でもある。
僕が恋人と破局したと聞いて急遽開かれた女子会でも、周りが僕を慰める中、彼女だけが僕を鼻で笑ってあしらってくれたのだ。
「馬鹿じゃないの。めそめそするならヨリを戻せばいいだけの話だろ。別れたなら、きっぱりと思い切りなよ。泣くなんて、すっげー無意味。」
そんな藤枝に乗って鼓舞された女子会は、既存の男への悪口で盛り上がり、落ち込んでいたはずの僕なのに、その日は大いに笑い大いに飲んだ。
今回の合コンに僕を入れるならば、「藤枝は絶対」と僕が主張したのは言うまでもない。
僕は彼女からその生きる力ってモノを学習しなければならないはずだ。
「仕方ないわよ。かわさんの従兄弟の佐藤勲隊長のお願いなんだから。自分がバツ一で年上だからって、私達と同じ年代の若手を三人連れてくるって話でしょ。話が合わなくてみっちゃんに嫌な思いをさせたくないって。惚れられてるねぇ。」
佐藤が楽しそうにクスクス笑いながら暴露して、水野は真っ赤に照れて佐藤を叩く振りをした。
「かわさん、そこまでバラしたら駄目でしょうに。」
藤枝が「かわさん」に珍しく溜息をついているが、かわさんとは楊警部の事であり、彼は僕の恩人で、現在は僕の大事な相談相手だ。
僕の元恋人の上司でもあり、僕を養子にした命の恩人の親友でもある。
つまり、みんなの「かわさん」なのだ。
楊は彫の深い二重の目を持つ俳優顔負けの美男子で、前髪を上げた癖のある短めの髪が童顔の顔を飾っている。
彼の印象的な彫の深い二重が人懐こく微笑めばどんな人も魅了できるだろうはずだが、自分の外見を使った事の無い彼が魅了してしまったせいか、婚約者も婚約者の祖母も彼のストーカーだという悲しい人でもある。
モテた事は無いと公言する彼は、派手な外見と違ってひたすら中身が常識人で面倒見の良い普通の人である。
そんな楊が水野に「合コン」を持ちかけたのは三日前だ。
「悪いけどさ、俺の従兄弟が水野に惚れちゃってね。一回だけでいいから合コンして構ってやってくれないかな。ホント、申し訳ないけど。飲食代は出すって言っているからさ。駄目?つまらなかったらすぐ帰っていいから。駄目?お願いよ。」
水野の机の脇にしゃがみ込み、両手を合わせて水野に必死に懇願する課長の姿に、水野は絆されてしまったのだそうだ。
凄く格好悪いよ、かわちゃん。
「まぁ、とにかくさ、さっさと行って、面白くなかったら帰れば良いんだし。クロはぐずぐずしてないでさっさと歩きな。」
小柄な体で藤枝はサクサクと僕達の前を歩いて行く。
踵にリボンの飾りがあるヒールの高い黒のパンプスに、スカートは黒レースのタイトスカート。
上身頃は淡い水色のバルーンの袖が、袖口でキュッとなっているカシミヤのセーター。
彼女の服も僕の新しい店の商品で少し嬉しい。
嬉しいが、僕は新しい店の事は思い出したくもない。