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幸せのおすそ分け

 和久に見つめられたモルファンは、とうとう観念したのだろうか。

 口は悪いが人が良い彼女は罪人のように下げていた顔をあげて、僕達が固まる真実を語り始めたのである。


「違う。私はカズに嘘をついていたから。私のジジババは親父が日本人だし日本にいる。」


 モルファンはどこからみても生粋のラテン系フランス美人でしかない。

 僕も、由紀子も「え?」だ。


「親父が再婚していて相手が日本の人なのは知っているよね。実は私が小学生の頃に来日してお店を出してたの。私はそれでずっと日本の学校通っているから友達はこっち。クロの知っているタマキは中学の時からのマブダチ。そんで、数年前に親父が帰化したついでに、不況だって親戚一同までこっちに移住しちゃったから、フランスに帰る必要ないっていうか。江戸川区にモルファン一族が集結している。」


「それじゃあ、事務所は江戸川区のままが良かった?」


「いえ、こっちがいい。」


 モルファンは海よりも森っぽい雰囲気が好きらしく、相模原市の新店舗も和久が用意した新事務所の部屋も、そして、今居る超高級マンションも非常に気に入っている。

 いや、このマンションに惚れ惚れしていると言って良い。


 棟内に総合病院と温水プール付きのスポーツジムまで完備し、居住者専用のコンビニエンスストアにクリーニング店と何でもそろう小さな町の有様であり、提携ホテルによるディナーサービスという宅配もある。

 大きな建物内には、ところどころでアクアリウムやガーデンを設置してあるという、共有テラスやスペースまでもあるのだ。


 引き込もうと思えば完全に引きこもっていられるこのマンションを遠くから見れば、緑の城壁に囲まれた城塞都市か空中庭園にも見えるかもしれないと思う程なのである。

 お化け屋敷な武本本宅を愛して住み続けていた和久には、このぐらいの奇想天外なマンションではないと落ち着かないのかもしれない。


「良かった。それじゃあお父さんのお店で働いていた子達は皆クリシュの従兄弟姉妹か。親戚も全員結婚式に呼んじゃおう。」


 グリンと首が折れそうな勢いでモルファンが和久を見上げた。


「お店でって、全部、知っていた?」


「知っているも何も、江戸川区に事務所出した時に君のお父さんもお祝いに来てたでしょ。その後も普通に連絡しあっているよ。おじいちゃんを含めて一族全員がこっちにいるって事は知らなかったけどね。君こそ知らなかった?別に黙っている事じゃないのに、どうして内緒にしていたの?紹介もしてくれないし、僕を家族に会わせたくないのかなって、かなり寂しかったのだけどね。」


「イヤ、だってさ。日本の男は外人が好きだし。外見だけ外人って、旨みが無いかな、なんてさ。馬鹿すぎて嫌になった?」


 モルファンは和久を射止めたいと間違った行動ばかり取っていた模様である。

 だが、そんな行動が和久にはツボだったようで、彼は僕でさえ惚れ惚れとする笑顔を見せた。


「嬉しいよ。それにさ、親戚が全部こっちに来ているなら、僕達は純粋な二人きりのハネムーンが出来るね。フランスじゃない方が良かったりする?」


 真っ赤な顔になったモルファンは幸せそうに呟いた。


「それなら南国がいい。」


 和久とモルファンの結婚式は十二月二十六日に青森で執り行い、二十七日にタヒチに飛び立つ事に決まり、丸く収まった事で僕達は幸せ一杯で、幸せにどっぷりと漬かっていた。

 幸せな二人のお邪魔虫になりたくない、と主張したから、幸せな二人は僕が部屋を出ていくことを許してくれた。


 僕は明日には良純和尚の所に帰れる。

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