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初めての嘘の結果

 僕の怪我は入院するほどのものではなかったので、実は入院していない。


「え、火傷ってこれ?え?確かに赤くなっているけど、火傷ではなくて固いものでこすられてできた擦り傷だよね。直径一センチも無いけど、痛いの?これ、そんなに痛いの?痛くても、痛痒い、程度だよね。」


「痛くないです。」


 僕はしつこく尋ねる医師から顔を背けて、とうとう真実を言わされた。

 知らない部屋で目覚めた僕が見たものは、僕を泣きながら抱きしめる山口と、僕を安心した眼差しで見守る良純和尚の姿だった。


 僕はそこで、大丈夫、と答えたら、ぽいっと彼らから捨てられる気がしたのだ。

 どうたらこのままでいられるの?

 僕は、山口に抱きしめられながら、必死に、それこそ死に物狂いで考えた。

 すると、目覚めて感覚が戻った事で、背中が少しチクチクするなあと感じたので、大げさに痛がってみただけだ。


 痛がって山口にさらにしがみ付いたら、僕は彼にぎゅっと抱き返されて、彼の腕の中が何日ぶりかと思うと涙まで出てきたのである。


「泣かないでクロト。」


 僕の頬に流れる涙を拭う山口の左手の指には、なんと、僕の贈った指輪が嵌っている。

 そのことに気が付いたら、ぽろぽろ流れるだけの涙だけでなく、僕は数日分の溜まったものが堰を切ったように溢れ出したのだ。


 つまり、声を出して泣いたのだ。


「どうした!」


 僕の体に回される腕は四本に増えた。


「どこか痛いのか!辛いのか!」


 久しぶりの良純和尚の怖い声に、僕は脅えるどころか有頂天になり、とっても甘える様な声まで出して答えていた。


「背中が痛いの。」


 答えてすぐに後悔をした。

 だって、良純和尚が凄まじい勢いで僕を山口から引き剥がし、さらには僕をうつ伏せに転がして、僕のシャツを破く勢いで捲り上げたのだ。

 背中を剥き出しにされた僕は、ここでしまったと観念した。


 泣き喚くほどのものなどそこには無い!


 呆れられる。

 嫌われてしまう!


 けれども彼らは想定外だった。


「チクショウ!火傷で爛れているじゃないか!」

「嘘!あ、酷い!こんな大きな傷痕が!」


 僕はこれは彼らの嫌がらせか意地悪のような気もしたが、本気で病院に連れて行かれて本気で入院させる勢いで彼らが医者を脅す姿を見て、彼らの非常識を思い知った。

 非常識達の脅しにより医者は頭を垂れ、僕は翌日には退院の入院許可を与えられたのである。


 ところが、僕の非常識は彼らだけでは無かった。


 病室に僕が納まる寸前のそこに、和久というもう一人の非常識が現れたのだ。


「転院させてください。」


 和久の一言で健康な人間でベッドを塞ぐ必要が無くなったと医師は大喜びをし、彼は紹介状を喜んで書いて和久に手渡した。


 和久は動く時には電光石火だ。

 流石短距離ランナー。

 唖然とする良純和尚の姿など珍しい事この上ないが、僕はそんなものなど見れたとしても全く嬉しくはない。


 だって、良純和尚と山口から、僕は引き離されてしまったのだ。

 僕が仮病を使ったばっかりに。

 仮病さえ使わなければ、僕は今頃は良純宅に戻っていたはずだ。


 あれから丸一日も経ってしまったと、僕はプイプイ鳴くアンズを抱きしめた。

 僕はあのまま結局は和久の部屋に帰り、今は和久の部屋のリビングのソファに座って寛いでいた。

 ただし、自分の行動の浅はかさを後悔するように、ソファに身を沈めるようにしてよりかかって、だが。


 僕は溜息を吐きながら和久が衝動買いしたマンションの部屋のリビングを、まるで初めて見るようにして見回した。

 豪奢でなくても良純宅の方に帰りたいと思いながら。

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