死体が歩いた?
さて、俺にこんな事態を引き起こしてくれていた元凶、白波アミーゴズは、新潟の本家にて謹慎していた。
俺は和久に玄人を奪われた憤懣を奴らにぶつけようと、奴らの監督者である玄人の祖父、白波周吉に電話をしていたのである。
彼が言うには、久美達は白ヘビ様と玄人のオコジョが一緒に入れる神棚という名のハウスを壊してしまったが為に、ハウスに住んでいたそれらに呪われ、ハウスを作った祖父に助けを求めて新潟に逃げ帰ったという事だ。
「呪い?」
「たいしたことじゃないですよ。全身に玄人の神紋がいくつも浮き出ているってだけで。」
ハハハと楽しそうに周吉は笑うが、彼が玄人の為にデザインした神様の紋は、尻尾が蛇になっているオコジョが仁王立ちしているという、ゆるキャラにしか見えない恥ずかしいものだ。
それが全身にと聞いて、俺は怒りよりも同情心が久美達に湧いたのである。
この無慈悲で有名な俺が、だ。
「すいませんねぇ。長柄の由紀子さんから玄人の荷物を一切合財引き上げてしまえって、怒りの電話を受けたそうでね、ユキが。私があの子達から事の次第を聞いて由紀子さんを質しましたら、彼女は知らないの一点張りでしょ。逆に彼女は玄人が一切新店舗に出て来ないって心配していたそうで。」
「どういうことなのでしょうか。」
ここでも、他人の思惑が入っていたのだ。
新店舗のスタッフの一人、長柄由紀子の従姉妹の娘の雨宮文香が俺達の仲を裂いたジョーカーであった。
彼女は玄人に嫉妬をし、彼の持ち物のスマートフォンを新店舗のパントリーで水没させるという嫌がらせをした上、物置での玄人の「明日アンズを引き取りに。」という言葉を盗み聞きしたからと、事務所の固定電話から佐藤由貴に電話をかけて勝手に玄人の引越しの依頼をしたのである。
その上、由紀子の振りをして「仕事の邪魔だ」と玄人に伝え、玄人を新店舗から遠ざけることまでしたのだ。
雨宮の電話を受けた由貴も玄人も、電話の声が由紀子とそっくりだったがために勘違いをしたのである。
雨宮は由紀子によってかなり叱られただけでなく、店舗からも追い払われ、今は地方の実家に戻って家業の手伝いをしているそうだ。
「武本家は皆がちびが大好きで守り隊じゃなかったの?」
俺の説明に楊は驚いた顔を見せた。
確かに玄人の親族達は玄人が当主であるにも関らず、彼が鬱化しようが女性化しようが間抜けなほど意に介さずに可愛がる。
けれど、それは玄人よりも世代の上の人間ばかりだ。
「同世代はやっぱり嫌なんじゃないのか?和久や白波アミーゴズは、実績や財産で言えば武本物産のクロと同等かそれ以上だろ。それ以下で財産から程遠い同世代の親族は羨むのじゃないか?どうして彼ばかりってね。」
「お前が人の事をそれだけわかるようになったとはねぇ。子を持つと人って変わるね。」
「うるさいよ。」
隣の楊の二の腕を小突いた時、鑑識の一人が大声で叫びだした。
誰かを呼ぶ声ではなく、ただ驚いての叫びだろう。
俺の物件に住んでいた北条キヨのタンスから、死んだばかりの遺体が出てきたのだ。
出てきた死体は死んでいるはずの北原大介。
「お前、中身は確認して捨てたって言ってたよね?」
「お前こそお前のところの死体安置所の死体の確認をちゃんとしてんだろうな。」
楊はいつものようにしゃがみ込んで、いつものように頭を抱えた。
「ああ~も~。」




