玄人への仕打ちついて俺は物申す
俺が署に戻ると、俺の帰還を待ち構えていたらしきスーツ姿に戻った楊と髙ににこやかに出迎えられた。
俺が怒りのまま彼等を殴らなかったのは、殴って再会したばかりの玄人を手放したくなかった俺の弱さだ。
長い付き合いで俺の思考回路までも読んだ顔をした楊を、やっぱり俺は殴ってやろうかと考えたが、俺を知りすぎている彼は自分の部署へと俺を引っ張るように連れて行った。
特対課に連れ込まれた俺は、その部屋の奥にある、雑談用、あるいは来客用の長椅子に座らせられた。
すると楊と髙も俺を挟んで座り、彼らは有頂天になった様子で俺に説明という種明かしを交互に始めたのである。
嘘は七割の真実に混ぜれば真実味が増すのだと聞いた事がある。
それを実践したのが髙と楊であった。
中央署の北原が持って来た案件は、髙の目を通す事でただの予告殺人だと看破された。
「映像合成だよ。生前の姿の動画を幾つか撮っておいてね、別の子を殺した映像と混ぜてしまうのさ。背景も事前に撮影した部屋の画像を使ってね。そしたらアラ不思議。被害者の携帯には次の標的の殺される映像がってね。」
「それで嫌な話、被害者は皆上半身が焼かれていたのですよ。動画の中の被害者は銛のような何かで貫かれた後に生きたまま燃やされていましたからね。殺し方を同じにする事で今回の事件のオカルト要素が出来上がったという事です。」
「ふざけやがって、馬鹿野郎共が。山口が自殺したらどうするつもりだったんだ?あいつはクロを失ったら簡単に飛び降りるぞ。」
「だからさ、俺達は慌てちゃって。取りあえず縛って医務室に転がしておけって。山口を医務室に閉じ込めた後は見張りを立ててね。髙か俺の合図で解放してって。あいつ本当に強いからさ、もう大変だったよ。ちょっと怪我もさせちゃった。」
「まあ、そこはいんじゃねぇの?あいつはクロに、痛いの?って頬に手を当てられて有頂天になっていたからな。」
しかし、山口はなんだかんだ言っても、とりあえずは優秀な刑事である。
玄人の無事を確かめて冷静な頭に戻ったか、山口は俺同様に事の次第を呑み込むと警察署を破壊する勢いとなった。
仕方なく俺は奴に玄人を任せて病院に置き去りにしてきた。
玄人はスタンガンでかなりの電撃を受けたらしく、背中にその痕が赤く爛れた火傷になっていたのだ。
俺は犯人を見つけて血祭りにあげるつもりだ。
髙か楊か?女でも俺は容赦しないぞ。
「俺が許せねぇのは、お前らの大芝居だよ。俺達を仲直りするためにだろうがな、クロの背中は火傷で酷い状態だぞ。」
目覚めた玄人は俺達の救助を喜ぶよりも、痛い痛い、と背中の痛みに震えた。
慌ててシャツを捲ったら、白い肌に丸い火傷の爛れた跡が残る背中だ。
「あいつは痛みに弱いのに、どうして手当てもしなかった。」
楊は大きく溜息をつき立って自分のデスク迄歩いて行き、俺にコーヒーを淹れる為に席を立っていた髙は真面目な顔付きで振り返った。
髙は神妙そうな顔付きで、俺の横に紙コップを持って戻って来た。
「どうぞ。」
「あぁ。それで、なんだ?ようやくやり過ぎだって反省したのかよ。」
自分の机に戻った楊は、机の引き出しからフォルダーを取り出した。
昔の玄人の鞄のように、パンパンに膨れているフォルダーだ。
「何だ?」
答えずに真面目な顔をしたままの彼はそれを持って戻って来ると、無言で俺に手渡した。
片手に紙コップを持っているので、空の手で受け取ってから何気なく自分の膝に乗せ、フォルダーの中身を確認しようと表紙をあけた。
すると、フォルダーの中には玄人の写真が詰まっているばかりであった。
違う。
玄人の写真しか無いのだ。




