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失った時の慟哭を知るためにあなたをその手にかけるべきか(馬13)  作者: 蔵前
八 特定犯罪対策課はいつだって嫌な風に機能している
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特対課に持ち込まれた事件

 楊の「特定犯罪対策課」、通称特対課とくたいかは、所轄の垣根を越えて凶悪犯罪の捜査を行う課であり、様々な事件が所轄から持ち込まれる。

 課長の楊は自分の課について寂しく笑う。


「俺達は島流れの掃き溜めってことよ。持ち込まれる事件ってね、所轄やら本部でだるい、かったるいって放り投げたくなる事件ばっかりなのよ。可哀相でしょ。」


 相模原東署は島流れの署でもあるそうだ。

 そして楊が今さらにそんなことを言って嘆くのは、一週間前にとある出来事が起きたからだ。


 僕が良純宅を出た事ではなく、楊達に彼が語った通りの新たな「捜査するのがだるい、かったるい」事件が持ち込まれたのである。

 そんな楊の課に持ち込まれた今回の事件は、持ち込まれる一週間前に起きたというのだから事件発生は今から二週間前になるが、楊達にとってはまず一週間前の出来事だ。


「どうも、皆様ご面倒をおかけする事になりまして。」


 北署の北原大介刑事は体が大きい割には非情に腰が低く、ペコペコと頭を下げながら楊の部署に入って来たのだという。


「サブレで有名なお店の落雁です。どうぞ。鳩の形をしております。鳥好きと有名な楊さんに喜んでもらえるかなーと。」


「うわお。大好きです。これ。」


 楊は本気で喜んで小さな紙袋を胸に抱き、そんな楊の素振りにニコニコと微笑む北原は、あと三年で定年の警部であった。


「そちらで捜査しきれないって、何があったのですか?」


 鳩の落雁に気を良くした楊が、恭しく北原警部を部署の奥に設置された長椅子へと誘うと、次から次へと部署内のメンバーが席を立ち、長椅子の彼らを囲むようにして立った。

 長椅子に座った北原は課のメンバーをぐるりと見回すと、鞄から出した事件フォルダーを隣に座る楊へと手渡し、事務的に事件概要を語り始めたのである。


 十一月三日、近隣住人のボヤの通報で独身寮の一室に駆けつけた消防隊が見たものは、上半身が焼け焦げた二十代の女性の姿であった。


 二十六歳の会社員である伊藤真由美に素行の悪いところは無く、調理途中でコンロの火が服に燃え移っての事故だと判断され、その時に警察は簡単な現場検証をするだけで事件性は無いものと結論付けられた。


 しかしこれが事件となったのは、そこで終わるはずのものが五日後、北原が特対課を訪れる二日前に再び起きたからである。


 十一月八日の未明。

 今回は通報したのがみさき朋子(ともこ二十三歳会社員、被害者本人であった。


「怖い。助けて。」


 漠然とした恐怖を抱える女性の通報で、近辺をパトロールしている警察が市民に安心を与えるべく通報者の住むマンションのベルを鳴らした。


「御免ください。連絡を頂いた警察のものです。大丈夫ですか?岬さん。」


 何度呼びかけても返事は無く、それどころか換気扇からの黒い煙と室内での煙探知機の音で警察官達は異常と見てドアを開けた。

 室内ではやはり伊藤と同じ状態の女性の遺体が転がっており、このことから前述の伊藤真由美を含んだ連続殺人事件と県警は判断をしたのだ。


「皆様すいませんね。ただの連続殺人がオカルトめいてきましたので、皆様にお願いするべく参上した次第で。」


 楊は、特対課メンバーの全員が、心の中で一斉に「畜生」と唱えた声が聞こえた気がした。


「オカルトめいたって、どのような所がでしょうか?」


 尋ねたのは藤枝と同時期に犯罪対策課に移動してきた新人の加瀬かせ聖輝まさきだが、彼はいつの間にか淹れていたコーヒーをも北原に差し出していた。

 彼は人当たりが良く人柄がいいので、誰もに好印象を与える人物である。

 そんな彼がこの課にいるのは、優秀すぎて妬まれ、「刑事が出世するなら楊の特対課」と先輩に手柄を取り上げられて飛ばされてきた可哀相な身の上だからだ。


 おまけに僕の対となる予定のオカルト的な力を持っていたにも関わらず、彼を苛めた先輩に知らず知らずに力を使ったが為に力を全部奪われてしまったという、本当に間抜けで僕が自分を見るような情け無さなのだ。


 さすが、対となる者。

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