ベッドルームの床で愛を求めるけもの
モルファンに膝枕されていたはずの僕は、そのモルファンによって膝から突き落とされて床に転がる羽目になっている。
これも僕の失言のせいかもしれないが、恋人にも親にも捨てられての愛を求め中の僕には、とってもひどい仕打ちだ。
「あぁ、ごめん。クロ。でもそれマジ?あいつは金髪の方が好きなんじゃないの?日本人の男は金髪好きでしょう?」
モルファンは僕を慰める事を放棄して、彼女には新事実だった事を確かめようと僕をユサユサ揺り動かしてきた。
なんだか面倒になった僕はそのままだらけていた。
和久とモルファンなど知るものか。
僕は失恋中で、家なき子で、可哀相な身の上なんだ。
「ちょっと、クロ。いい加減にして。教えてよ。あいつはあたしが金髪な方が好みなんじゃないの?」
「ぜんっぜん違うよ。」
答えたのは僕ではなく和久だった。
彼の声と共に紅茶の香りが部屋を漂ったので、彼が僕と仲直りの為に紅茶を淹れてくれたのだと嬉しく思ったが、共感力の無い僕でも今はじっとしていなければならない事がわかったので、そのまま床でうつ伏せでじっとしていた。
「え、違うの?」
「当たり前でしょう。僕の一番大事にしているキャラクターのモッカちゃんはクリシュがモデルじゃないか。モッカは茶色の髪だよ、忘れたの?」
忘れるどころか、僕はモッカちゃんなんて存在自体知らなかった。
そして、自分がそのキャラクターのモデルだったことを忘れていた一途だけど抜けているラテン美人は、ラテン人らしく大声をあげて喚き始めた。
生粋のフランス人にしては日本語なまりがある発音と、文法が破綻したフランス語で、だ。
一応日常会話位は理解できる僕でも、里帰りを殆んどしないフランス人でもある彼女の口から迸る言葉が、支離滅裂すぎて何を言っているのかわからなかった。
しかし、和久にはわかったらしい。
彼が簡潔に叫んだからだ。
「僕だってずっと君の事だけを愛していたよ!」
「かずひさ!」
八年ぶりに心が通じ合った馬鹿ップルは、傷心で落ち込んでいる僕を慰めに来たという目的を忘れて、なんと、抱き合ったそのまま、二人仲良く階下の和久ルームへとなだれ込んでしまったではないか。
畜生。
人肌を知ってしまった僕は、一人で転がるしかない自分が哀れで、情けなくて、このまま凍死してしまえばいいと床にずっと転がっていた。




