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だって僕こそ切られたんだもん!

 僕の隣の藤枝がチッと舌打ちする音に傑は笑い出し、なんと再び藤枝に温かい視線を送って来た。

 だが、構築し直されたせっかくの雰囲気は今度は鬼畜野郎の声によって台無しにされた。


「知りたい、でぇす!」


「何を参加しているのですか!野郎は野郎会に戻って下さいよ。」


 僕は思わず加瀬を連れて首を挟んだ葉山に叫んでしまった。

 葉山はやま友紀とものりは山口の相棒の二十九歳の巡査部長で、四角い輪郭に荒削りだが整った顔立ちと、姿勢がよい立ち居姿でとても格好がいい人だ。

 初対面時は僕にとても優しく、葉山に対する僕のイメージは、竹林に佇む武士という清々しくもや頼りがいがあってと、格好いいものだった。

 最近は言動から爽やか「武士」イメージが消えて、「鬼畜」の二文字が輝くが。


 ところで、彼の姉に以前に教えてもらったのだが、東大出である彼は国家総合に受かって警察庁に入庁したいわばキャリアであったというのに、降格されての今らしいのだ。

 だけど、警察庁の警察官が県警の所轄に刑事として居続けられるからくりが僕にはよくわからない。


 それから、彼が引き連れてきた加瀬かせ聖輝まさきは藤枝と一緒に楊の犯罪対策課に配属されてきた二十四歳の巡査である。

 彼は人の良さが出ている好印象の顔立ちで、そして人が良過ぎる為に他人に振り回されてばかりだ。


 彼らの参入に合コンメンバーは水野でさえ呆れ顔だが、サークルの王者だった葉山は余裕綽々で微笑んで、僕らの考え付かなかった言葉を口にした。


「俺の姉さんの職場が近場だからさ、すぐ看護師仲間連れて来るから。女の子も二名追加ならいいでしょ。俺の姉さん凄い美女よ。寂しがり屋の加瀬も合コンに加えてあげて。」


「ちょっと、葉山さん。」


 慌てている常識人の加瀬を尻目に、寂しがり屋の葉山は勝手に店員に指示を出し始めた。


「あ、ここ人数増えるからテーブル足しちゃって。コース一緒だから大丈夫だよね。後、二名が追加されるから。」


 勲は楊の部下で想い人と仲の良い同僚を排除する事もできずに、腹話術人形のような顔でしばし固まっていたが、葉山の姉の登場で別の意味で固まった。

 葉山の姉の真砂子まさこは葉山とよく似ているが、彼よりも繊細な顔立ちをした超絶の美人なのだ。

 さらに、彼女が連れてきた和泉いずみ京香きょうかも涼しげな顔立ちの美人であった。


 すると、和泉の登場によって、今まで完全に存在感がなかった長谷川と真島の目が突如として輝いて騒ぎだしたのである。


「あ、和泉さんだ!俺達和泉さんに憧れている奴多くてですね。いやぁ、明日は同僚に羨ましがられて妬まれますよ!」


 本気で喜んでいる真島が口にすると、長谷川は自分が席を立ちそこに和泉を誘って座らせた。

 次いで長谷川は葉山と一緒にテーブルのセッティングを仲良く相談し始めたではないか。

 可哀相な勲を見ると、葉山に呆れた水野がいつの間にか勲の横に座っていて、二人で勝手に飲み始めて幸せそうになっており、佐藤は水野の席に座った田上に口説かれていた。


 傑はというと、真砂子と顔見知りだったらしく彼女の側に行き、なにやら楽しそうに談笑し始めている。

 ドンッと藤枝に突き飛ばされて、僕は再び壁に激突した。


「何ですか。」


「これは計画的でしょ。山口とあんたが消えたら後は葉山が太鼓持ちするって。かわさんは何気にできる男だったけど、詰めが甘いね。山口と仲直りしてやりなよ。でないとあたしの合コンが毎回かわさんの手によって壊されるだろ。」


「でも、僕の方が淳平君に完全に切られたんですよ。」

「え?」


 珍しく藤枝が変な声を出して驚いているが、僕にはもう山口からの電話もなければゴメンのメールも何もないのだ。

 良純和尚からも。

 今の僕にメールしてくれる男性は和久と楊だけで、後は水野達という女友達だけだ。

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