藤枝には一本筋がある?
「こいつも俺と同じバツ一だろ。仲良く傷を舐めあうようになってね。」
勲は軽い感じで口にしたが、僕は思った。
楊一族の男達は、情けない事を平気で公言できちゃうのはなぜだろう、と。
「まぁ、でも、隊長のお陰でこんな美人さん達と飲み会ができるのはありがたいですよ。」
元々の参加メンバーの長谷川洋と真島尚樹が佐藤と水野の真向かいで鼻を伸ばして笑いながら頷きあった。
彼らは水野達の一つ上の二十三歳で、二人とも消防士だがレスキュー隊員ではない。
僕はここで、勲が水野へのアプローチとして、自分が「若造よりも余裕も経験も肩書きもある大人の男」であるを披露するための合コンなんだと気がついた。
勲はやはり出来る男だ。
ちょっとなりふり構っていない余裕の無さの方が伺えたけど。
「私達もこんな機会が滅多にないから嬉しいです。」
妖精が騙り、癒し系が同調した風に余所行きの顔で微笑んでいる。
どうした?
僕は彼女達の変化に彼女達の視線を追うと、僕達のテーブルの斜め向こうの席に野郎会を開催中の楊班の男共の姿が見えた。
彼らは僕達を唖然と眺めており、僕と目が会った山口は仲間に何かを語るとそのまま立ち上がり、店外へと出て行った。
途中僕達のテーブルを掠めたが、僕を見る事もしなかった。
僕一人が未練がましく、山口を見つめ続けただけだ。
楊は山口は一人ぼっちだと僕に伝えたが、あの憔悴した顔は、僕ではなく良純和尚に振られたその為だろう。
フリーになったのならば僕にメッセージの一つでも送ればいいのにとチラリとプライドのない考えが浮かんだが、僕を見ることもしない彼の行動に、彼は完全に僕を振ったのだと思い知らされた。
今の僕は彼にとっての恋敵で、恋人時代の僕がマグロだったからと彼は僕を見たくもないのかもしれない。
いや、彼は気が付いたのだ。
僕の体がほとんど女性のようであると。
胸が出ているから女性的どころか、胸の出ていない少年の体の時でさえ、僕の下半身は小水を出すだけの不完全な器官でしかなかったのである。
ドンっと肘鉄を喰らった。
横が壁の僕は、ドンっと右肩が壁にぶち当たった。
藤枝だ。
「痛いですよ。」
彼女は眉根を寄せて「てめぇ、しっかりしろよ」の顔付きだ。
彼女は優しい所がある。
「早く、お前はあたしを傑ちゃんにアピールしろよ。」
違った。
ツンデレではなく、心の底から図々しい女だったそういえば。
けれども僕は藤枝に癒され、気持ちが軽くなった事に気がついた。
そこでそんな藤枝を傑に紹介するかと意気込んだ時、豊浜が爆弾を落とした。
「ねぇ、藤枝さんて北署にいた藤枝環って人と同じ名前よね?あの人整形して移動したって友人に聞いていてね。知っている?」
凄い。
敵を撃ち落とすためには何だって使うのか。
僕は横の並びを見るに、水野と佐藤までもが目をまん丸にして藤枝の隣の、そう、女性陣席の真ん中を陣取って座る豊浜を注視していた。
そして、僕がもっと驚いたのは涼しい顔で微笑む藤枝に、だ。
「それさ、あたし自身?て、ゆうかさ、あたしは警察官だからね。潜入捜査って奴で、昔の顔を捨てなきゃだったのよ。気に入っていたんだけどね、あの顔。」
藤枝は自殺を装って殺された恋人の為に、たった一人で犯人達を追っていた事があるのだ。
手柄は全部武闘派の妖精系と癒し系の二人組に奪われたが。
「え、ぜんぜん恋人に思い入れなかったって言ってたじゃん。」
素に戻ったらしき水野が藤枝につっこむ。
「思い入れなくても手柄は欲しいでしょ。犯罪者が目の前で皿の上に乗っていたら頂くでしょうが。」
「それなのに私達がその手柄とやらを横から貰っちゃったからねえ。」
ふふんとブラックな地を出した佐藤が鼻で笑い、若造三人が目を丸くして固まった。
ちなみに存在感が無かった二十六歳の田上は、勲と傑の間に挟まれている。
彼は佐藤に憧れの目線をずっと送っていた男だったが、今は怯えた目線になっていた。
なんて弱々しい男たち。
やはり経験値が足りないからか。
ほら、大人の男達は、……やはり固まっていた。
勲も傑も弱いな。




