2、『アンチギフト』
「よぉ、お前いつも独りで行動してるけど何してんのっ!」
小学校の入学から数日後、いつも暇して眠る振りをしている俺に興味を持ったバカみたいな男がやって来た。
友達ができないとかどうでも良い。
俺のギフトさえあればどんな奴ですら、意思を絵美みたいに曲げることができるのだから。
「うるせぇな……、【自分の席に戻れよ!】」
「そんな冷たくするなって。お前、顔かっこいいのにもったいねーぞ」
「あ?」
ギフトの能力『命令支配』が効かない!?
おかしい、確かに俺はこの男に能力を使用した筈。
まさか、能力が効かなくなる回数制限とか存在するのか?
「おい、ちょっといいか」
「え?どうしたんだい明智君?」
慌てて近くを通りかかった男を呼び止める。
「【目の前の男を席に戻らせるように説得してくれよ】」
「ほら、明智君迷惑してるでしょ。席に戻ろうよ十文字君」
「いいじゃん、いいじゃん。俺、こいつとだけまだクラスで喋ったことないんだもん」
「でも迷惑してるしさあ」
おかしい、確かに発動はしている。
効果が無くなったという意味ではなさそうだ。
「【いや、いい。もうどっか行っていいぞ】」
「……」
目の前の男を説得する素振りを失い、通りかかった男子生徒はそのままどこかへ歩いて行った。
「チッ……、【俺に1000円渡せ】」
「ちょ、いきなりカツアゲは酷いっての!面白いなお前」
「……」
何が面白いもんだ。
こいつ無自覚だがギフトの能力が効かない!?
2度連続も動かないということはそういうことなのだろう。
強いていうなら『アンチギフト』という能力だろうか。
「へえ、面白いなお前」
「お前には負けるって」
お互いに『ははは』と笑い合う。
「なあ、俺と友達になってくれよ」
「おお、さっきまでめっちゃ拒否ってたのに。いいぜ、これから俺らは友達だ!俺の名前は十文字タケルな」
「明智秀頼だ、よろしくタケル」
ああ……。
つまんねえと思ってた学校生活も楽しくなってきたじゃねーか。
このギフトが効かない男の人生を俺のギフトで滅茶苦茶にしてやりたい。
俺のギフトが効かない、こんなに俺のプライドがズタズタにされたこと、これまであったかよ!
せいぜい、楽しませてくれよ。
自称友達君(笑)。
―――――
「はあはあ……」
定期的に俺は、秀頼本人の夢を見る。
今回は俺とタケルとの出会いの話であった。
ゲーム本編で、タケルとヒロインの人生を滅茶苦茶にする惨劇の序章。
この邂逅さえ起こらなければ、『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズの事件は発生しなかったかもしれないのに……。
本当に十文字タケルという男は無能である。
ファンの間でも、タケルという男の役立たず振りは異常と呼ばれる。
明智秀頼に話しかける。
自分から災害を呼び寄せるなんて、なんてことを仕出かしてくれたんだ……。
明日から小学校入学が始まる。
多分原作通りであるならタケルと俺は同じクラスになる筈だ。
―――――
「秀頼君、最近元気がないよー」
「わかるか……?」
「わかるよ」
入学を明日に控えて、絵美が当然の様に俺の家に居座っていた。
3日に1回くらいのペースで会っている気がする……。
絵美のお母さんからも『仲が良いのねえ』なんて微笑ましい目で見られていてめっちゃ恥ずかしい……。
「学校生活不安……?」
「不安だよ……」
「わたしも不安だなぁ……。秀頼君と違うクラスだったらなと思うと眠れなくて」
「しょーもないなお前……」
こっちは10年後の命の危機を回避させるために悩んでいるのに、そんなくだらないことで悩む絵美に驚いた……。
「しょーもないは酷いよ秀頼君!だって違うクラスってことは、違うクラスってことだよっ!」
「そりゃあね。何を言っているんだお前は……?」
『リンゴの皮が赤いってことは、リンゴの皮が赤いってことなんだよ!』と同意義なことを言われると俺もなんて返したらいいのかわからない。
絵美のその辺の語彙力はまだまだ子供だと思う。
「最近気付いたんだけど、秀頼君はわたしのことを全然大事にしてくれないよね!おこですよ、おこ」
「そんなことないさ。絵美が大人になっても結婚相手が居なかったら俺が結婚してやるよってくらいには大事にしてるさ」
「え?本当?じゃあ今、結婚しよう」
「今は年齢的に無理でしょ……。大人になる頃には……」
『……お互い死んでないといいな』、と言ってしまうところだったのをグッと飲み込んだ。
「……絵美にも運命的な出会いが待っているさ」
「…………きちゃったよ」
「何が?」
「なんでもないよ!」
絵美はおませさん的なところがある。
俺が恋愛ゲームをよくプレイしているせいなのか、絵美もまだまだ若いのに恋愛の話になるといつもより饒舌になる。
おそらくだけど俺とタケルが同じクラスになるのは確定しているんだよなぁ……。
もしかしてタケル×絵美というカップリングも生まれたりするんだろうか?
セカンドの没案では絵美も昇格ヒロインの予定があったとか確かビジュアルファンブックにそんなことが記載されていた気がする。
ユーザーが望んでいなかったこと、スタッフが絵美を嫌いだったこと。
この2つが重なり絵美の昇格ヒロインに格上げされるどころか、セカンドでは絵美の登場すらカットされる事態に発展する。
ついでにセカンドでも秀頼は当然の様に続投である。
「……なんか秀頼君ってわたしに隠してることあるよね?」
「そうか?」
バチバチに隠してることだらけだけどね。
「言いたいことがあるならハッキリ言ってよ」
「そうだな……」
とりあえず、この世界の神様である製作スタッフに嫌われない様に過ごせとか言いたいけど、通じるわけないしなぁ……。
「学校に通っても人に酷いことをしたり、泣かせたり、裏切ったりするのはやめておけよ」
「秀頼君はわたしをなんだと思ってる?そんなにわたしってクズゲスな人間かな?」
「冗談だよ」
俺に操られていたとはいえ、全部絵美がやらかしたことだからな。
ゲームの強制力や運命力でそんな事態にならないことを祈るばかりだ。
「ところで……、秀頼君のアレみたいなー」
「アレ?」
凄い嫌な予感がする……。
「もう1回ギフト!『手品』のギフトが見たい!」
「……おう。……なんで?」
「秀頼君が……、運命的な出会いとか言うから……」
「?」
それがなぜギフトに繋がるのかよくわからないが、見たいのであれば見せてやるか。
定期的にギフトを使わないと、俺の『命令支配』の能力が消えていたなんて自体に気付かないとかになったらヤバイしな。
「では、今日はビー玉を使います」
「待ってましたー」
「ちゃらりらりー」
セルフBGMを口ずさみながら、ビー玉を手に握り指で隠す。
「では、これよりこの手の中に収めたビー玉を消しゴムに変えていきます」
「そんなの無理だよー」
「ではいきますよ、ギフトを使っていきます。ちゃらりらりー」
同じセルフBGMを口にしてから、すぐに絵美にギフトの能力を掛ける。
「【今この瞬間から、俺が『OK』と口にするまでの時間の間の記憶を全て忘れろ】」
「……」
絵美の目が虚ろになる。
すっげー罪悪感がある。
とにかく急いで仕込みを終わらせるか。
ビー玉を絵美のポケットに仕舞い込み、机の上にある新品の消しゴムを掴み手に握る。
「【OK】」
「ッ……。えー、本当にビー玉が消しゴムに変わるわけないよー」
「もう変わってるぞ」
そう言って、ビー玉を握っていた手を離すと中から新品の消しゴムが出てきた。
「ええ!?ウソ!?なんで!?ビー玉は!?」
「じゃあビー玉は絵美のスカートのポケットにワープさせます」
「それは無理だよー」
「もうワープしたぞ」
「えー……、そんなわけ……あった!あったよビー玉!」
『命令支配』のギフトを『手品』のギフトを言い張る罪悪感がとても凄い。
絵美を廃人にさせることも可能であるのだからむやみやたらに使うべきではないな。
「てじなーにゃ」
「なにそれ?」
「……」
やはり伝わらんか……。
ジェネレーションギャップというものがヒシヒシと伝わってくる。
「すごい、すごーい!秀頼君は魔法使いみたいでカッコイイ!!」
「へ、へへーん」
魔法使いというかやってることは呪いに近いものだけど……。
「この消しゴムとビー玉貰っても良い?」
「あ、ああ。……いいよ」
新品の消しゴムは俺が学校で使う用で持っていかれると困るものだが、『命令支配』を掛けたという罪悪感がそれくらいは許してしまおうという結論になってしまう。
俺は絵美に優しくし過ぎてしまうな……。




