77、箱の中身
怪しげな動く箱。
埋蔵金のような宝よりも呪物に近い何か。
これは開けたらアカンやつだなーと思い、俺は目を閉じ深呼吸をする。
自然に包まれた爽やかな空気が肺をいっぱいにする。
「どうした秀頼?」
「決めた……。決めたよもう」
「決めた?」
「この箱、埋めようぜ!触らぬ神になんとやらだ!」
開けないで封印しよう。
全員に告げると、みんな声には出さないが目で肯定している。
これが満場一致の答えだ……。
「本当は元あった地層に返したい。この穴に箱を入れて砂被せたらいけるやろ」
「いけるな」
「そうしよう」
箱を引っ張り出した際の穴がまだ残っている。
ここに箱をまた置いて、見ぬ振りをして今日のことは何もなかったことにする。
実に素晴らしい平和的解決!
「グッバイ!箱の運命の人は僕じゃない!辛いけど否めない!こともない!多分!」
「名曲をそんな扱いにすんな!」
「いてっ」
歌いながら箱を埋めていると、ヨルに軽く小突かれる。
これで丸く収まった時であった。
──ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!
「っ!?」
箱がブルブルと猛振動を起こす。
例えるならスマホで鳴る大きいバイブのよう。
何故箱が勝手にこんな行動を起こすのか、アリアも口を抑えて驚愕している。
「うおっ!?」
そして穴にすっぽり収まった箱がピューンと飛び、俺に向かってくるので反射的にキャッチしてしまう。
「これ絶対おかしいって!明らかにパンドラの匣だよ、秀頼君!?」
「参ったね……」
絵美がパニクった声で箱を指す。
この動きは流石にただの箱ではないと誰もが察したようだ。
「もう1回埋めるか……」
タケルと山本に同意を求め声を出すと、箱がまたブルブルブルブルと震え出す。
ドンドン震えが大きくなる。
「…………んー。開けるか?」
そう口にすると箱の震えが止まり、嬉しそうに跳ねる。
箱に意思でもあるかのような動きだ。
まるで遊んで欲しい犬のような動きにちょっとだけ可愛さも感じなくもない。
「え?開けるのか、そのヤバい箱?」
「え?埋めるに決まってんじゃん……」
ヨルの問いに本心で返答をすると、また箱がバイブのように震え出す。
もう俺の声がこの箱に届いているのは明白。
箱の中身はコレを開けて欲しいようだ。
「仕方ない開けてやるか……」
俺が根負けすると、バイブは収まりまた嬉しそうに跳ねる。
なんなんだこれは?
無人島でも体験したことのないトラブルである。
「い、良いのか開けて?爆発するんじゃないか?」
「ニトログリセリンでも入ってんじゃないか?」
「だとしたらもう爆発してるよ……」
タケルと山本は根本的に開けることに不賛成のようだ。
絵美、アリア、ヨルだって全員が同じ意見らしい。
なんなら俺だって開けたくないが、箱が開けろと無言で催促してくる。
俺はイヤイヤ箱を閉ざしている赤いヒモの結びを取る。
シュルシュルとほどいていくと、後は蓋を上にあげるだけで箱が開封される。
「…………」
嫌だなぁ……。
ロクなこと起きないよ……。
自分でも、なんでこんな箱を開けているのかわからなくなりながら蓋を開ける。
すると、中にあったものがようやく御披露目される。
「こ、これはっ……!?」
「どうした秀頼っ!?」
「ねこ」
「猫……?」
「猫のぬいぐるみだ……」
右手の親指と人差し指で摘まめるほどの小さい猫のぬいぐるみである。
予想外なものが現れたと思いながら持ち上げる。
めちゃくちゃ軽い。
「あー……。ボロ布だが確かにぬいぐるみだな……」
「ぬいぐるみとか人形と同じ類いの呪物だろ!?」
「はっ!?」
山本の指摘にハッとする。
これはアカンと思い、箱に猫のぬいぐるみを仕舞おうとした時だった。
『あへっ!オレの封印を解いたな人間共!ついにオレはこの世界へ蘇ったのだ!』
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!」
猫のぬいぐるみの口がパクパクしながら言葉を発しはじめる。
『こんな姿をしているがオレは選択を司る──』
「マタシャベッタァ!」
『うるさい!なんなんだこの人間共!?』
ベラベラしゃべりまくる猫のぬいぐるみを見て発狂してしまう。
タケルから「落ち着け」と声を掛けられ、背中を優しくポンポンと叩かれる。
なんとかその心遣いに、混乱も収まる。
「やばくね?これポ●モンじゃね?しゃべるニャースじゃね?」
『なんの話をしているのだ?あへっ、オレは選択を司る神!貴様ら有象無象の人間共よりよっぽど気高き存在』
「自称神wwwどう思うよ山本?」
「あぁ、俺もそういうこと思ってたことあるよ。邪気眼とかに憧れる時期なんだな」
「え?山本、お前自分を神と思ったことあるの?」
「え?」
「確かに!一瞬流しそうになったが、お前自分が神だって思ってやがったのか!?それはヤバいぞ山本?」
「一気にしゃべるな男子共!ぬいぐるみの存在に突っ込め!」
ヨルの正当な言い分にしゃべるぬいぐるみという存在がおかしいことに気付く。
今まで変な甲冑とか死神ババアとかに追いかけられた非日常に惑わされそうになるが、明らかにおかしいぬいぐるみである。
現にさっきまでぬいぐるみが口を利いたことに発狂したばかりだった。
「おい、猫畜生?人間様になんか用か?」
『あへっ!?き、貴様!?概念を司る神の尖兵かっ!?』
「よし、タケル。3組の山川のセンコーからライター借りてこい。喫煙者だから100パー持ってるから」
「あ、あぁ……」
『も、燃やすな!オレを燃やすな!神だぞ、オレ神!』
「何言ってんだこいつ?どうする明智?」
「燃やすか埋めるかスクラップだなぁ……。埋まるのが1番平和なんじゃない?」
『あへっ!せっかく出れたのにっ!せっかく出れたのにっ!助けてくださいよぉ、旦那ぁ……。オレの箱の封印を解いた恩人じゃないっすか!なんでも願いを叶えますよぉ?ね?』
何故か命乞いがはじまる。
なんでも願いを叶えると言われちゃうとなんとなく悩んじゃう。
「なんでも願い叶う?」
『あへっ!オレ、こう見えて神なんで!』
「じゃあもう1度封印されて?」
『鬼かお前ぇぇぇ!』
可愛くもないヘンテコな猫のぬいぐるみに懐かれてしまった……。
そもそもなんだこいつは?
その後、戻ってきたタケルが「ライター借りてきた!」と叫ぶと『あへっ!?』と俺のズボンを捲ってバリアみたいにしていた。
そもそも笑い声が『あへっ』って色々とヤバい奴である。