74、仮面の騎士は納得いかない
昼食の時間も終わり、幻のラーメンを食べ終えた山本らは戻ってきた。
俺とは違い特にいる意味もなかったタケルはフラストレーションが溜まっていたのか、幻のラーメンの感想にかなり食い付き気味だった。
「我々で幻のラーメンを食べた感想でござるが流石、ネットにも載っていない幻の店でござった……。それはもう……。ねぇ、山本氏?」
「あぁ、あれはたまらなく……」
「普通」
「あぁ、そう……」
白田、山本、ターザンの全体的に普通そうな反応にタケルもテンションが下がり気味である。
「美味しくもなく不味くもないからネットにも載ってないんじゃない?そもそもどこからこの情報を得たんだよ?」
「ワイのSNSのタイムラインにて流れてきたでござる」
「結局ネットで情報拾ってんじゃん」
白田の情報の出所が明らかになったところで、授業の開始を告げる教師の呼びかけが入る。
そのまま教師の指示に従いながら、注意事項を説明されて地層観察の始まりになる。
そういうわけで、ウチの班である男3人は既に固まっていたので女性陣らを待っていると「秀頼くーん!」と聞き慣れた声と共に何故か4つの影が近付いてくる。
明らかに1人、異質な生徒が混ざっている。
「あの……、仮面なんとかさん?」
「仮面の騎士だ。いちいちなんとかを混ぜるな」
「いや、あなた違うグループですよね?」
くじ引きで決まった班であり、少なくとも絶対にターザンと同じ班だった記憶がある。
だからこの班のわけがないのだ。
「仮面さんがアリアと一緒って聞かなくて……」
「そもそもなんなんだこの女は?」
絵美とヨルはお手上げとばかりにこちらにヘルプ顔を見せる。
一緒のアリアも姉の味方をするか、絵美らの味方をするかでだいぶ困っている苦笑いをしている。
「よし。山本、班を交換しろ」
「いや、無理っすよ!勝手に班を変えるなって念押しされてたじゃないっすか!?」
「くっ、国家権力ってやつか……」
「そもそも交換するなら女子としなよ……。佐々木さんかヒルさんのどっちかと交渉でしょ……」
むしろ国家権力を持ってる側なのはアリアとアイリ側なのは突っ込むまでもない。
そういう裏の事情を知るのはこの場では俺だけだろうが……。
未来から来たヨルはアリアのことを詳しく知っているかどうかはよくわからない。
「ほらほら、不良生徒共。ちゃちゃっと授業開始しろ。もう昼休み終わってるわよ」
そこのトラブルを仲裁しに来たのは我らの学園長である近城悠久である。
そこに仮面がきっと彼女に視線を向ける。
「おい、悠久先輩!なぜアリアの護衛の私が彼女から離れるなど無理に決まっている!普通班決めなら出席番号順だ!アイリとアリアなら近いしな!」
「出席番号順の班決めだとしたらアリアと仮面で結構離れているじゃない!多分ギリギリ違う班になるでしょ?」
「どうしてだよぉぉぉぉ!」
「あんたがアイリじゃなくて仮面の騎士で名前を登録したからでしょ」
因みにアイリーンで出席番号を登録してくれたなら俺の明智が2番になる。
ぶっちゃけなんでも1番になるのが嫌なので、全力で出席番号1番をアイリに渡したいくらいである。
「因みに俺の出席番号32番以降にならない?」
「お前は割り込んでくるな!全校生徒集めても明智が32番になるか!」
「残念……」
『今日の日付は1日だから1番の人読んで!』みたいな振りがなくなるのが32番以降である。
山本は常に出席番号32番以降で実に美味しいポジションなのである。
「そもそもずっと気になってたのだけどアリアに控えてる仮面さんってアイリさんって名前なの?」
「な、なんでそれを!?」
「結構ちょくちょくアリアは仮面さんをアイリって呼んでるじゃないですか!」
「人前では呼ばないようにしてたのに……」
「だとしたら抜けすぎです」
絵美の言葉にアリアはとんでもないことに気付いてしまったらしい……。
あんなに教室で堂々と『アイリ』呼びしておきながら隠せていると思えているこの国の姫様は可愛いが大丈夫なのかという不安が残る。
美月と同じポンコツなのかもしれない……。
「そもそも悠久が仮面にアイリって呼んで会話してたじゃねーか!」
「ちょっとアイ……仮面!どうなってんの仮面!」
「すまん。悠久先輩は高校の先輩だったんだ。色々あって頭が上がらない」
「なにその面白そうな情報!学園長先生!」
「なにも面白くないわよ。そこの仮面女、仮面取ったってブスッとしているし」
「それは確かに……」
「アリア……。お前だって普段は……」
「なんか言った?」
「怖いって……」
一瞬アリアがアイリに対して黒い笑みを浮かべた気がする。
ヒエラルキーが妹の方が高いのは深森姉妹を思い浮かべてしまう。
美月要素と美鈴要素をほどよく感じるアリアである。
同じ金髪だしね。
そういえばアリアって……。
「なんだよ、仮面女!お前、悠久の後輩かよぉ!言ってくれよぉ!」
「なんだいきなり馴れ馴れしい。うざ絡みやめろ」
「あたし、悠久の娘」
「ふーん……。は?は?は?達裄先輩との子供か?」
「だとしたら大きすぎるでしょ……。何歳であたし子供を産んだことになると思うのよ……。戸籍上の話だから」
「なんで悠久先輩に娘の戸籍が……」
「んなことは良いから。さっさとアイリは班に戻りなさい」
悠久先生に強く言われて渋々と仮面の騎士は退くことにならざるを得なくなる。
「アリア様にケガしたら殺してやるぞ明智」
「普通に理不尽!」
「はいはい。戻るわよ」
酷い暴言を吐きながらそのまま彼女は悠久先生に連れて行かれたのであった……。




