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73、黒幕概念が忠告してくる

視界と聴力を防がれる拷問……、ではなくてゲームが開始される。

音楽の1番パートが終わったちょうどほどの時間に音楽が鳴り止む。


『じゃあ秀頼に今から誰かが食べさせるから口開けてろよ』

「耳と目を防がれ間抜けに口開けとかもはやなんの罰ゲームなんだよ……」

『端から見たらマゾ豚野郎だよなwww』

「ぶっ飛ばすぞお前」


ルール説明兼からかいを見せるタケルに豊臣光秀時代の素で口が悪い文句が飛び出てしまう。

さっさと終わらせようと思い口を開けると、誰かが俺の前にいる気配がある。


なるほどなるほど。

鼻から伝わる情報はほどよくシャンプーの匂いがして、そんなに強くない芳香剤のジャージを着ている者である。

……目の前にいるのは三島か?

全員と近くにいて、手を握ったりすることが多いので全員の匂いについては自信がある。

口に放り込まれた玉子焼きはネギが入っていたのでそれだけでゆりかと円と三島の3人に絞られる。


「…………三島の玉子焼き」

『うわぁ!凄いです明智さん!』

「いやぁ。良かった!正解!」


一安心すると、ちょっとルンルンした気分の三島が離れていく。

…………これ、多分みんなが俺の目の前に立っただけで誰かわかる自信あるわ。

五感の内、制限が掛けられれるほどに他の感覚が研ぎ澄まされていくらしいがどうやらあれは本当の話だと痛感する。


『じゃあ音楽鳴らしますね』という死の宣告と共にまた俺の歌唱した曲が鳴る。

それからはもうヌルゲーであった。

美月、ヨル、理沙、美鈴……と案の定簡単に正解する。

正解がかさむ度に『明智秀頼すごい!』みたいな空気になるのに後ろめたくなる。

玉子焼きが口に入る前にあーんしてくれる人がわかるのが無双の理由である。

これでもだし巻き玉子とか、砂糖が多めとか、食感とかこういうのも理解できてはいる自信がある。

こうして他の子たちも続々当てていき、1番食べ慣れているボーナスタイムの絵美の玉子焼きも看破して10連続正解を叩き出す。

残りは永遠ちゃんと咲夜の2人だけになる。

次に永遠ちゃんが俺の口に玉子焼きを入れた時に違和感に気付く。


「…………」

『どうした秀頼?ここにきて2択がわかんなくなったか?』

「これやってんなぁ」

『!?』

「これ、誰の玉子焼きでもないだろ。少なくとも今日はじめてこれ食べたやつだよ」

『かーっ!すげぇよお前』


タケルがなんだよそれと言いたげな罰の悪そうな声を上げる。

『正解、正解』と拍手する。


『これ、違う場所で食べていた川本の母ちゃんが作った玉子焼きなんだよ。さっき1個もらった』

「なにやってんだよ。これくらい味でわかんだよ」


川本武蔵の玉子焼きかい……。

通りで永遠ちゃんからもらった玉子焼きより味が濃い気がしたんだ。


『絶対鼻で判断してると思ったのに!』

「それは否定しない」

『え?秀頼さん、鼻で判断できるんですか?』

「わかるよ。好きな子のこと、全部わかるようには努めているし。でも、味もわかるよ。永遠ちゃんのは明太子入っている玉子焼きだよね?鼻がなくても判断可能だよ」


目の前にいるタケルと永遠ちゃんが驚いているんだろうなというのがなんとなく伝わる。

多分両隣にいる絵美と美鈴をはじめ、この場の全員が驚愕している空気がなんかある。


『え?私、においますか?』

「良い匂いだよ。永遠ちゃんだけじゃなくてみんなだから大丈夫。俺、鼻が特別効くだけだから」


無人島に行くと突然変な獣に襲われることも多々ある。

だから獣をにおいで察することが出来るとあらかじめ襲撃を予知できる。

空模様でさえ、雨が降りそうだのの判別が可能になる。

機械のレーダーよりは、人の五感で感じる方がより正確な天気を察知できるのである。


「みんなのこと、目隠しされてても判別出来る程度には誰よりもわかるから」

『秀頼さぁぁぁぁん!』

「うわっ!?エイエンちゃん!?」


真っ正面から永遠ちゃんに抱き付かれる。

胸も密着されてしまう感触もあり、さすがにドキドキと心臓が音を上げる。

目隠し状態では流石に俊敏な襲撃を回避するのは難しい。


『なんでも私をわかってくれるぅぅ!』

『ずるいですわよ永遠さん!?』

『永遠は露骨にあざといです!』

『というか早くウチの番にまわせ!永遠の番は終わりだ!』

『行くぞ永遠』

『待ってヨルちゃん!』


ヨルから無理矢理引きずられていく永遠ちゃん。

それからすぐに咲夜の玉子焼きも食べさせてもらい、俺が作る味にもっとも近かったのですぐにわかった彼女のものも平らげる。

正直、玉子焼きだけでお腹いっぱいなのは秘密である。


「鼻でわかるとか結局秀頼の茶番じゃない」

「難癖じゃないですか……」

「盛大に外す秀頼が見たかった!」

「このアマ……」


目隠しのアイマスクを取っていると悔しそうな悠久が座っていた。

こっちの目隠し中は全然会話に混ざらなかったが、しっかりとこの光景は目にしていたようだ。

Bluetoothイヤホンも永遠ちゃんに返していると、タケルから拍手しながら全問正解おめでとうと祝福された。


「豪華賞品プレゼント!」

「ただの粒ガムじゃねーか。食べるけど……」


キシリトールガムを包み紙から剥がして口にすると、タケルが包み紙を回収する。

変なところでマメな人物である。

とりあえず全員ぶんの正解に安堵していると、2つぶんの足音が近付いてくるのを感じる。

美月が「概念と千姫……」と反応をする。

そこに目を向けると「くはっ」と笑う黒幕概念さんが立っていた。

概念さんという偽りの姿を模したエニアがなにをしにきたのかとビクッとする。


「概念さんと部室以外で会うの新鮮ですね」

「わかりみ」


なお、概念さんの正体を知らない者らは結構呑気である。


「あ、ヨリ君……」

「よぉ、こんにちは千姫」

「ぅぅぅ……」


挨拶すると、シュッとした動きで概念さんを盾にするようにして隠れる。

「っ!」と息を飲むと、彼女はヒューと走り去ってしまう。


『(ヨリ君がカッコ)いいよーーーっ!』


突然奇声を上げて走り去ってしまった。

なんなんだよ……。

本当にここ最近はずっと千姫に逃げられたり、よそよそしかったりでまともに相手になれないことに悲しさがある。

どうしてそこまで千姫は俺を避けるんだ……?


「どうしたんですか概念さん?」

「よく聞いた絵美。……今日はなにか不吉な気がする。これはなにか悪い存在がいるかもな」

「はぁ……」


悪い存在そのものであるお前がそれを口にするのはなんなの?

と、思わなくはない。


「くはっ。ではさらばだ、愛する部活メンバー諸君」

「わたくし、顧問の先生なのになんで上からなの?」


よくわからない黒幕概念さんから忠告?され、彼女は「やれやれ」とぼやきながら千姫の走り去った方向に歩いて行った。


…………なんだったんだあの2人?

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