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72、宮村永遠は聴かせる

その後、絵美が用意していた大きめの空のお弁当箱にみんなからのおかずが詰められていく。

なんか本気でピクニックみたいである。


「秀頼様の大好物であるいなり寿司も用意万端です!」

「ありがとう美鈴!」

「わ、わたくしも一緒に作ったのだ!わたくしにも感謝して欲しい!」

「美月も色々とありがとう!」


何故か誰にも公言していないのに、いなり寿司が好きということが彼女らの周知の事実になっているのが驚きである。

確かに寿司屋に行ったらマグロとかサーモンとかが好きだけど、ついいなり寿司も最低1皿は手を伸ばすくらいには好物である。


弁当箱がみんなに回されていき、円がトンカツを詰めてくれていた。

そんな光景を眺めていると、前世の記憶がもやぁと思い出されていく。

──あれはそう。

小学生時代の時、公共施設への見学があった日である。

持参するはずだったお弁当を俺は学校の教室に忘れてしまい、昼食の際なにも食べるものが無くなって教師に相談した時だった。

『ならみんなでちょっとずつ豊臣君におかずをわけてあげましょう』ということになり、クラスメートのお弁当の蓋を借りておかずをもらったという過去がふっと掠めた。


(なんでお前の回想するエピソードってしょうもない童貞みたいなやつしかねーの?)


中の人からひでぇことを言われてしまったが、俺としては良い思い出である。

人には親切にしよう、みたいなことを痛感させられた出来事である。


「みんなのが旨そう過ぎて私のおかずを置くのが非常に申し訳ない……。あ、これエミのおかずだな。見飽きたー!」

「またわたしにだけ攻撃しますね?」

「えー、エミの勘違いじゃなーい?」

「喧嘩はやめて……」


詠美の煽りに抵抗する絵美に注意をする。

仲は良いのだが、何故かずっとライバルのような関係で対立することが多い2人だ。

俺の注意に矛を収めた詠美が俺にお弁当箱を渡してくる。

玉子焼きをはじめ、色々なおかずをみんなから渡されたものだ。

目を輝かせていると絵美から明らかに女ものの箸が渡される。


「あ、このお箸は新品だから気にしないで」

「おう。気遣いありがとう」

「いえいえ。気にしないでください(後日、プライベートで使わせていただきます!)」


絵美のストックしているお箸を開封させてしまったのなら申し訳ないが、ニコニコな絵美が気にするなというのならと箸を使わせていただくことにする。

とりあえず受け取った箸で1番掴みやすい位置にあった玉子焼きを掴むと、「あ!それボクのやつです!」と三島から歓喜な声が上がる。


「あ、あんまり弁当箱をじろじろ見るなよ……」

「だって気になっちゃいますよ!ね?みんな?」


三島が声を掛けると円が遠慮がちに「……まぁ」と肯定する。

みんなも否定せず、チラチラと俺の弁当に興味がある様子だった。


「うん!めちゃくちゃ上手いよ!甘さが控えめでネギとかの食感もめっちゃ良いね!」

「あ!ありがとう明智さん!」


はずい……。

次にエビフライを取ると「お?我のだ!」とゆりかが反応する。

なんかの羞恥プレイなのか……?

学校内ではこんなシチュエーションはお断りしたいな……。

申し訳ないが楓さんや星子などの同学年が不在なのがちょっとだけ救いである。

因みにタケルは理沙のお弁当、悠久はヨルのお弁当を受け取ったので、全員からのおかずをもらったのは俺だけである。

絵美が用意してくれた白米を食べながら嬉しいが、早くこの時間が終わらないかという葛藤が生まれていた。

みんなとワイワイしながら、お弁当を食べ終える。

玉子焼きは全員用意していたようで、12切れといういつもより多めな昼食を食べ終える。

円が用意してくれていた温かいスープを飲んで落ち着かせていると絵美がとんとんと肩を叩いてくる。


「どうした?」

「これから秀頼君には利き玉子焼きをやってもらいます」

「…………ん?」

「誰が作った玉子焼きなのかを当てるゲームをしたいというみんなの意思です」

「…………ん?」

「失礼しますわ、秀頼様」

「え?」


頭の理解が落ち着かない中、俺の背中にまわった美鈴が俺の目元にアイマスクを付ける。

一瞬にして視界が漆黒に染まっていく中、美鈴から「目での判断もなしです」と囁かれる。

俺は何をされているんだろうと思いながら、クラスメートの彼女に視界を防がれる行為にドキドキしていた。


「あと、声を聞くのも禁止ですよ秀頼さん。私の音楽プレーヤーに接続されているBluetoothイヤホンを耳に付けさせていただきます!」

「う……、わかった」

「お耳、失礼しますね……(ああああ!秀頼さんのお耳とお耳でイヤホンの間接キスになるんですかね!?)」


冷静な永遠ちゃんから淡々と説明されて耳も防がれる。

目も耳も見えない暗黒な世界に陥る。

そのまま遠隔操作をしたのか永遠ちゃんのイヤホンから聞き覚えのある音楽が流れる。


「これは……」


粉雪が舞う冬に聴きたくなる心まで白く染められたくなる超メジャー音楽である。

俺もカラオケでは歌いたくなるくらいには好きな音楽なので永遠ちゃんのチョイスにはグッジョブである。

……では、あるのだがやけに音質が悪い。

歌いだしの声も本人ではなく、カバーかなんかかと思った瞬間であった。


「…………ん?」


やけに低い声。

前世でゲームやアニメで嫌というほど聞いた声。

自分の思った声と録音される声がやたら違うことに定評のある人間の不思議。

もしかしなくても、明智秀頼の声である。

俺の粉の付く雪のカラオケバージョンである。


「ああああ!ああああ!ひぃぃぃ!?助けてくれぇぇぇ!」

『ひぃ君がひぃ君になってる……』

『永遠さん、明智さんに何聞かせているんですか……?』

『秀頼さんのカラオケの録音したやつです。これ聞いて眠ると幸せな気持ちになれますよ。ドキドキして眠れなくなります!』

『矛盾してるよ?永遠は幸せな気持ちになっても、秀頼君にとっては罰ゲームでしょそんなの……』


ちょっと音が外れたのがわかって、死にたくなる。

目隠しをされて俺の心は血の赤に染まり掛けていた。


『永遠はサディストだな』

『そんなことありませんよ』

『じゃあナチュラルサディストだよ』


目も耳も使えない利き玉子焼きがスタートする前に体力がゴリゴリ無くなっていく。

後からこの体調で俺は地層を掘らないといけないのか……。

キツイ1日になりそうだ。

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