69、十文字タケルはロマンを求める
本日、晴天。
クラスメートが全員ジャージ姿でバスに乗り込んでいた。
それもそのはず。
本日は野外観察という、遠足兼授業というカリキュラムである。
実際の地層を掘ってみるという、化石探しは学生のワクワクを刺激させるのか特に男子のテンションが異様に高い。
右隣に座っているタケルも例外ではなく、俺はバスからの景色を眺めながら彼の言動に返答している状況であった。
「今日、ついにティラノサウルスとかステゴサウルスとかツチノコとかのすげぇ化石見付かるかもしれねぇよ!ヤバくない?ヤバくない?」
「そーねー」
そういうテンションに前世の中学時代になったからわかる。
確かに地層を掘るのはワクワクするし、恐竜とか未知の領域の化石が掘れるかもなんて期待するのだ。
しかし、残念ながら葉っぱの化石?埋まってた跡?みたいなを見付けるのが精々なのである。
期待に溢れる行き、ガッカリの帰りとこういう行事は相場が決まっている。
そんな前世の中学校時代の苦い記憶があるので、テンションなんか上がるわけない。
学校の通学日が遠足みたいな授業で潰れるのは最高だ。
しかし、地層を掘ることに対する淡い期待はもう皆無である。
はぁ、2周目の人生ってつまんね……と感じる瞬間である。
津軽円の前世である来栖さんとは中学時代は別の学校に通っていたので、円は地層掘りははじめてのようであった。
「いつも、どんなことでも目をキラキラさせる秀頼にしては珍しくテンション低いじゃないか?」
「俺、いつもこんなテンションだよ」
「嘘だぁ!……よし、俺が秀頼にテンション上がる振りをしてやる」
「ふーん」とバスの景色を眺めながら、タケルの言葉を流す。
しかし、タケルは気にもせずに俺に話を振りはじめる。
「絶対このラノベヒロイン強いやん。なんでそう思った?」
「本名が天草ダイナマイト」
「ちょっといそうなの草。てか、テンションひくっ!?」
「逆に俺が大喜利で盛り上がると確信したお前はなんなんだよ!?」
「いやぁ。俺、秀頼に大喜利出すの好きなんだよ」
今までタケルと大喜利をした記憶すらないが、俺の精神的年齢が上がる度に物忘れが激しくなっているだけだろうか。
単にどうでも良い記憶と割り振っているだけなのか。
どっちなのだろうか、自分でもわからない。
『まったく……。秀頼はもうちょっと年相応な反応をするべきね!』
「悠久先生……」
『秀頼にはテンション上げまくって遠足みたいなこういう日に熱出て休むくらいの無邪気さが欲しいとずっと思ってたのよ』
「え?俺に欠席して欲しかったん?」
『いや、秀頼に欠席とかないから。わたくしが朝に車で迎えに行き、無理矢理連れて行く』
「無茶苦茶じゃねーか」
俺の1個前に座る悠久先生に突っ込みを入れる。
彼女の隣には我が担任である星野先生が座っている。
普段は修学旅行とかのビッグイベントには参加するものの、野外活動とか工場見学とかの退屈なことには絶対参加しないことで有名な学園長先生が何故か今回は参加するというイレギュラーが発している。
義理の娘であるヨルを溺愛しているのがよく伝わる過保護っぷりである(ヨル本人からは敬遠されているが……)。
「なぁ、星野先生?こういうのって普通学園長って1組のバスに乗るべきじゃねーの?なんで5組のバスにいるん?」
「秀頼?ぜーんぶ聞こえてるわよ。どのバスに乗るかなんてわたくしの自由よ」
「あはは……。なんでですかね……?」
担任である星野先生も微妙そうな声をしていた。
彼女もわかっていないようで、悠久先生の気まぐれか、やはりヨルと同じバスに乗りたかったかの2択のようだ。
「……お?結構山の中に入った!良いとこじゃん!」
「いきなりテンション上げんなよ。なんで景色見て元気になるんだよ」
「自然に帰った、みたいな?無人島嫌いなのに、行くのはワクワクみたいな?そういう感覚あるだろ?」
「ないない」
残念ながらタケルにはそういう情緒はないようである。
化石掘るロマンより、俺は景色眺めることの方が上回っていた。
「…………」
ただ、俺はこんなことをしてても良いのか?と我に帰る。
というのも、こないだのゴタゴタも終わり一応目下の目標は終わったところだ。
その過程でタケルはセレナルートを選んだという認識で良いのだろう。
しかし、原作ゲームにはセレナルートは存在せず、なんなら存在すらないアニオリキャラ。
原作の展開が狂いに狂いまくった致命傷といっても良い。
セレナを生かしたことにはなんの後悔もないが、安易にタケルにセレナルートという未開の地を開かせてしまったことによる後悔がある。
本当ならセレナを見殺しにして、タケルにはファイナルシーズンの4人のヒロインに任せるのが最善な選択だったのは間違いない。
それに、なんやかんや無難なメインヒロインであるヨルルートか、アリアルートに分岐すると考えていただけにこれからの俺の死亡フラグへし折り行動に大きな支障が出そうである。
アリアもアリアで何故かタケルとはほとんど関わらないという謎の行動を取っている。
逆に原作ではほとんど明智秀頼との絡みがなかったはずなのに、俺に突っ掛かる頻度が多い気がする……。
そもそも仮面の騎士の中身を明智秀頼が知るなんてエピソードもなかったのだ。
……考えることが多過ぎてもう嫌になってきた……。
アドベンチャーゲームのフラグ管理するプログラマーとか、シナリオライターって凄いんだなと感心すら覚える。
もう、諦めてタケルちゃんはセレナルートに突入したという考えを持って、このオリジナルシナリオを卒業まで持っていく努力をしよう。
とりあえず明智秀頼である俺のクリア条件はタケルやヨルなどの俺の命を取る可能性のある奴に殺されないというものになる。
「化石とか見付からなくても埋蔵金とか歴史的な事実が覆るものが発掘されるかもしれないし、今日は張り切るぜ!」
「おー、ガンバガンバ」
やらかして隣に座る主人公に殺されるフラグは踏まないようにしようと再び決意を胸にやる気のない野外観察が始まろうとしていた。
因みに今回の活動はクラスメートの中で男3女3のくじ引きで班活動になっている。
俺の班のメンバーは俺、タケル、山本、絵美、アリア、ヨルというなんの代わり映えもしないメンツになったのである。




