68、サワルナは連絡する
サワルナさんかぁ……。
サワルナさんか……。
電話に出たら即難癖を付けられるかと思うと指が思い相手である。
これが俗にいう『上司からの電話』になるのだろうか……?
『はぁぁ?あのねぇ、わたくしの学園長の地位なんてお飾りよ、お飾り!上の無能共からの電話が休日にきようものなら休日出勤の手当て欲しいわ!大人はね、金を積まないと動かないの!どんな大人も金金してるの!』
こんなことをポロっと溢したのは俺が悠久先生のエアコンを掃除した時に家にお邪魔した際の雑談の時だったか。
これが『上司からの連絡』になるんですね!
悠久先生の気持ちがよくわかりました!
『んなわきゃねーだろ』という悠久先生の声が聞こえた気もするが、多分幻聴だろう。
でも出ない方が後でネチネチ来そうだし、意を決して通話へとタップして「もしもし?」と声をかける。
『あら?害虫じゃない。生意気ね、いきなり電話してくるなんて』
「してないよ!?電話されたんですよ俺!?」
『クスッ。冗談よ、冗談』
「はぁ……」
何気にサーヤからの電話とほとんど同じで俺から通話してきたみたいな空気で電話してくるから厄介極まりない。
しかも、ついさっきサーヤからも同じことをされた直後である。
知り合いなんじゃないかとすら勘ぐりたくもなるほどのシンクロ具合である。
「流行ってんすかそれ?ついさっき、知り合いからも同じ難癖付けられたんすけど?」
『え?サワルナ以外からも舐められてるんすか?明智の人間的地位の低さかわいそう……』
「おい、やめろ」
本当に人間的地位の低いゴーストタイプの陰キャにあくタイプの攻撃で効果抜群を付いてくるのはやめろ……!
ゴリゴリにメンタルが削られていく。
『明智さぁ、もっと舐められない態度取らないとモテないよ?』
「ごめんなさい……」
『サワルナの見たところ、明智はむしろ俺様な態度になると今以上にモテると思うわよ!具体的に3倍!』
「マジかよ!?」
でも、言われてみると乙女ゲームの攻略対象者みたいな俺様な性格の明智秀頼はそりゃあもう毎日違う女を抱く程度にはモテモテだったわけである。
ギャルゲーではやってはいけない俺様のベクトルではあったが、サワルナさんの言うことは案外的を経ているところがある。
楓さんからもそんな俺から罵倒されたいとかなんやらで天使ちゃんから記憶を消されたこともあるくらいだ。
ただ悲しいかな。
腰が低い俺に俺様な態度なんか取れるわけがないというところを除けば完璧なアドバイスとも言える。
『あっ、ごめん!0にいくら掛けても変わらないんだったね!』
「おい、やめろ。その冗談は俺を殺しにかかってる!」
『テヘッ、サワルナのうっかりミス』
「殴りたいこの笑顔……」
『あんたからこの顔見えてないでしょ。害虫相手に笑顔なんか浮かべるわけないじゃん』
「なんなの?ワンターンキルかまして殺したいの?」
サワルナさんの言葉は的確に俺の心を抉るように撃ち抜くスナイパーの如く強い。
言い返すと倍返しされるみたいな強かさがある女性である。
『べ、別にそんなことが言いたいわけじゃないの。ありがとうって感謝を言いに電話したの……』
「そんな態度にはまったく思えなかったけど?え?今までの暴言をそのあざとい謝罪だけで許してくれると思ったの?」
『酷いことをたくさん言いまくったサワルナを許してくれるなんて明智は優しいね』
「おかしいな?サワルナさんの通話の回線が他の人に繋がっているんじゃないかとすら思うんだが……」
俺の言葉が届いてないのか?
スマホの調子が悪いのか?
『そ、そんな!?むしろ今まで以上にサワルナが明智に暴言吐いても良いの!?』
「言ってないよ?なにも言ってないよ?」
『スタヴァのことは嫌いでも、サワルナのことは嫌いにならないでください!』
「あっちゃん気取りやめろ。誰も総選挙でサワルナに入れてないし!」
そもそも言うとしたらスタヴァとサワルナが逆だから。
スタヴァが嫌いだったらそもそもサワルナさんに会いに行ってないし。
「冗談はやめてくださいよ……」
『じょ、冗談なんて別に……。おかしいのは明智の態度でしょ』
「え?俺ですか?」
多分、寸分変わらずサワルナさんに対する態度が変わったことなどないはずである。
何が起きてもサワルナさんに対する態度は変わることはないと思われる。
流石にサワルナさんがアリアのような権力者とかならこっちの態度も低くはなる……かもと思ったが別にアリアに対してもまったく腰が低いわけではないのに気付いてしまった。
『あー、もう!ただ明智が不快だから電話して我慢大会してやろうと思っただけだから!』
「ドMかなんかですか?」
『それお前』
「みんなしてマゾ扱いしやがって……」
知り合い同士結託して明智秀頼にMのレッテル貼る同盟でも結んでいるのか?と疑問が尽きない。
『そ、そうじゃなくて……。本当にたまたま明智の声が聞きたかったから電話したの』
「突然!?」
『あら、害虫にしては良いセンスね。空中ブランコとかダチョウに乗ろうとしたりする映像が浮かんでポォカリ飲みたくなるわよね』
「誰が突然の話したんだよ。そもそもサワルナさん、世代じゃないでしょ」
あれ?
なんでこんなに話が通じないかな……?
サワルナさんが話をしない嫌がらせまで習得してしまった……。
『今日ミャックで話し合いしてて、なんとなく明智の声が聞きたくなっただけだから』
「なんでミャックで話するとみんなして俺の声が聞きたくなるんだよ!?」
『は?』
「ごめん……。なんでもない……」
サワルナさんが楓さんも小鳥さんもノアさんもサーヤにも面識がないんだから当たっちゃいけないよな。
しかし、そんなにみんなしてミャック帰りだなんて女子大生を引き付けるなにかがあるのか?
無性に俺もミャックに行きたくなって困る。
『とりあえず麗奈も元気になりつつあるみたいだから……。一応報告しとく』
「あぁ、うん」
『定期的に明智に麗奈の報告するために電話するから』
「あ、はい」
別に俺、そんなにセレナと仲良しなわけじゃないしそんな連絡要らないのが本音なんだけど……。
一応タケルちゃんにサワルナさんの話を教えることにしておくか……。
『ところで明智は千夏先輩のこと』
「千夏さん?」
『……なんでもない。あんまり迷惑かけないでよね』
「え?俺迷惑されてたの?」
『迷惑』
それだけ言うと電話が切られてしまった……。
俺、スタヴァの姉ちゃんに迷惑してたのか……?
これから声掛ける頻度を減らす方が良いのかな……?
最近のサワルナさんは変なテンションな気がする。
なんだかなー、と思っていると部屋の外から『秀頼ー!』とおばさんから声が掛けられる。
『ちょっと手伝ってー!』
「はーい、今行きます」
連絡を4回連続でもらったスマホの電池が切れそうだったので、USBケーブルに繋いで充電をして部屋を出る。
そのままおばさんの手伝いに向かう。
その手伝いの間、充電していたスマホから『城川千夏』の通話も受信していたのだが残念ながら取ることは出来なかったのである。
手伝いが終わってから彼女に折り返しの電話をするが、残念ながらタイミングが悪く電話が取られないのであった……。
─────
「あれ?明智さんの電話が通じない!?」
千夏はその後、お風呂に入ってしまうという痛恨のミスをする。
秀頼からの折り返し電話に出れなかったのである。
サーヤの言うとおり、千夏は運がない女なのかもしれない……。