67、明智秀頼のスマホが鳴る
灰原ノアさんと牧原小鳥さん。
俺の大好きな彼女である一ノ瀬楓さんの親友の2人。
バトルホテルでの肝だめし大会以降はそんなに絡みがなかった。
しかし、五月雨から記憶を消された頃より少し前らへんにゲーム屋で2人と会ったのが連絡するきっかけになる。
ちょうど2人して乙女ゲームの中古売り場で遭遇。
俺も円から乙女ゲームを借りることもあり、珍しく馬があった。
こうして、俺の人間関係としては珍しい大学生のお姉様方との趣味友として交友関係を築くことになったのである。
直接会うことは少ないが、こうしてオンラインでは度々誘われることが多い。
『あ!来た!やっほー、楓の彼氏!』
「恥ずかしいんでその呼び方やめてくれないですかね……」
通話部屋に入った途端、小鳥さんから弄られモードである。
オタク女子である2人とゲームトークがメインだが、こうして楓さん関連で盛り上がることも多い。
『明智君と楓ちゃんももうちょっとで1年くらい続くのか……。良いなー。私も彼氏欲しいなー』
「早いですねー」
『あれ?ノア、今も狙ってる?』
『そ、そんなんじゃないよ……!』
「ん?狙ってるイベントあります?今度、執事メイドとのコラボ企画のやつノアさんにあげますよ?」
『ソシャゲの話はしてないんだなー、彼氏ぃ』
「あ、そうだったんですか……」
『でも執事メイドの椿様出たらちょうだいね?』
ちゃっかり小鳥さんからトレード要求をされてしまう。
ノアさんが何を狙っているのか気になるが、彼女たちが教えないのであえて深くは突っ込まないことにする。
『さっきね、楓ちゃんたちとミャックで会話してたんだよー』
「そうだったんですね!さっき楓さんから聞きました」
『手が早い!この行動力がノアにもあればっ!』
『だからやめてって!』
「?」
おそらくミャックでなにか盛り上がるなにかがあり、それを小鳥さんが弄っているのが目に浮かぶ。
こういう俺が内容を知らない話題に対して、反応に困ってしまい「あはは……」と愛想笑いしかしようがない。
「なんだったら俺も誘ってくれたら良かったのに」
『楓以外にもたくさんいたんだよ』
『私たち以外に明智君が知らない女子大生が3人もいるのに呼べないよ』
「あー、それは俺もご遠慮願いたい……」
肉食系の男子校生なら女子大生と仲良くなれるチャンスとでも思うのかもしれないが、俺のようなギャルゲー大好き陰キャには敷居がスカイツリー並みに高すぎる。
あと、絶対弄られる的になるのがわかりきっている。
「どういう話してたんですか?」
『ウチらの大学にさ店開いている子がいるんだけど、その子が常連客が気になってるみたいな話とかして盛り上がっちゃって!』
「めちゃくちゃ素敵な話じゃないですか!上手くいくと良いですね!」
『ねー!みんな恋愛してんだよ』
そんなサーヤみたいな子ってやっぱりいるんだなぁ……。
大学生になるとビジネスとか始める子とか多いらしいし、楓さんの友達にもそういう人いるんだ。
俺も自分の将来の相談とかしてみたいだけに、そういう独立して店開いている人の苦労話とか聞いてみたい。
サーヤは絶対話してくれないだろうし。
紹介して欲しいけれど、女を紹介して欲しいみたいに捉えられるのも嫌なのでウズウズした気持ちを堪えたまま彼女らの通話は10分ほど続き終わるのであった。
『またねー』
『今度はガッツリゲームしよっ』
「ありがとうございます!」
次の約束をして、ディスコードの部屋を出るのであった。
俺なんかのオタクのために時間を割いてくれる2人が尊い……。
「ふぅ……」
楓さん、ノアさんと小鳥さんコンビの2連続通話はちょっと喉に負担がかかる。
エアロバイクから降りて、ペットボトルに入った水を口に入れて水分補給をしていると、ラインのアプリから通話がくる。
楓さんからの折り返し?とでも思いつつ、通話をして相手も確かめずに「もしもし?」と尋ねた。
『あら?愚民じゃない。久し振りね、いきなり電話してくるなんて』
「サーッッッ!?んんっ!」
『いきなり慌ただしいわね』
「予想にしていない相手で……。ちょっと今水飲んでて変なとこ入ってった……」
ケホケホという咳を4度ほどして、改めて水を一気に喉に流し込むと落ち着きを取り戻す。
「ごめん」と謝罪しながらサーヤの通話に戻る。
「そもそもサーヤから電話してきたじゃないか……。俺はいきなり電話してねーよ」
『だって愚民が最近店に来ないから。マスターからはしょっちゅう『サンクチュアリ』に来ると聞いているのに、『暗黒真珠佐山』には足を運ばないなんて舐めた真似するじゃない』
「そもそも『暗黒真珠佐山』に行く用事がないよ……。喫茶店感覚で行くとこちゃうやん?」
『喫茶店感覚で妾に会いに来て貢ぎなさい』
「えぇ……」
そんなちょっと時間あるから占いしてもらおうとかならないから確かに足を運ぶことは少ない。
時間帯も合わないので、『サンクチュアリ』でサーヤと会うこともない。
「もしかして店がヤバいのか?」
『……え?』
「潰れそうになったら俺が手伝うから。ありとあらゆる人手を使ってサーヤの店を盛り立てるから」
『そ、そういうんじゃないわよ!本当に愚民!愚民よ、愚民!』
「語彙力のなさよ……」
どうやら俺の勘違いだったようだ。
彼女の店が潰れるほどに赤字を抱えているのだとしたら飛んでいって手伝いに行くところであった。
『別にそんな話をしたいわけじゃないの。今日、友達数人とミャックに行ったの』
「へぇ、ミャックに……」
ミャック?
楓さんもノアさんも小鳥さんも行ったあのミャックのことなのかな?
なんていう偶然なのか。
『それで色々あって、なんとなく愚民の声が聞きたくなって……』
「あ、ありがとう」
『相変わらず没個性声で安心したわ』
「おーい!?なに、没個性声って!?」
『特徴ないという意味よ』
「えぇっ!?」
明智秀頼の声なんか、聞こえるだけで不快と言われるほどに個性しかない声だと思うのだが……。
声優さんの仕事を激減させて明智秀頼の仕事しかなくなった声舐めんなよ。
『もう少し妾に顔見せに来なさい』
「わかったよ、わかった」
『じゃあよろしく』
相変わらずの好き勝手なサーヤの振る舞いだが、嫌いにはなれない面白い人である。
しかし、ミャック人気だな……。
ポテトとかビッグミャックが食べたくなってきてしまうじゃないか。
スマホを仕舞おうとすると、また着信が鳴る。
さっきからこの怒涛の連続着信はなんなのだと疲れながら名前を見るとサワルナさんからである。
「…………」
さっきから立て続けに俺のスマホの着信が止まらない……。
みんなして一体何があったのだろうか……?