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62、深森美月の言葉

俺の言葉に美月は「よくわからんが、そんな酷いギフトなのか?」と恐る恐る尋ねてくる。

「見て、判断して欲しい」と告げると、わかったと首を縦に振る。


「とりあえず俺が指示する。セレナを助けたい」

「ふふっ。そんなことを真顔で言える奴を怖いなんて思うものか」

「っ!?……うるさいな!そういうこと突っ込むな!」

「はいはい」


クソッ……、不覚にもドキッとしちゃったじゃないか……。

美月のそういうところがゲーム時代から、好きだったんだ……。


「……、美月。ギフトを使ってくれ」

「え?わたくしのギフト?」

「条件は揃っている。わざわざ月のある晴れの日を選んだんだから」

「そこまで詳しいギフトの話を秀頼に話したことあったかな?美鈴め、結構ベラベラわたくしのことを秀頼に言ってるのか?」

「わ、悪い……。そ、そんな感じ」


あっぶね……。

ゲーム知識のことを知っている感じで語ってしまった。

もう少しネタバレ抑えぎみにしないと、ポロっと俺が知る由のないことまで口にしそうである。


「はぁぁ……。修行不足でわたくしのギフトなんか未完成もいいところなのに……。こないだのセレナの写真を偽造するのだってどれだけ美鈴にダメ出しされたのかお前にも聞かせてやりたかったよ……」


ギフトの能力は最強なのに、やたら自己評価は低いみたいである。


「じゃあ、もっとギフトをコントロールしてみたら良いんじゃない?三島とか乙葉みたいにギフトを操れるとコントロール出来るよ。なんだったらいつかは月がない昼の状態でもギフトを──」

「え?あの2人、ギフトのコントロールなんてやったのか?全然知らないのだが……。そもそも遥香はギフトの能力教えないし、乙葉なんかギフトを持ってることすら知らないぞ」

「え?」

「え?」

「よし、じゃあ早速ギフトをお願いしますよ美月先生!」

「待て待て待て!しれっと話題を切り替えるな!?本当に口が軽いな!?」

「失言が多いと言ってくれ」


よくよく考えたら三島も乙葉も自分のギフトを自慢するようなタイプの人間でもないし、教えてなくても不思議ではないどころか納得しかなかった。


「はぁぁ。……わかった。忘れよう」

「お願いします……」


とりあえずお互いさっきの失言の記憶を抹消することにする。


「しかし、わたくしがギフトを使うのは良いのだが何をすると良い?」

「とりあえず『月だけの世界』でギフトの領域を造りだし、植物人間のセレナを起こしてみてくれ」

「なんでわたくしのギフトの名前まで知っているんだお前は!?詳細まで把握してるし!大体セレナを起こしたところでわたくしがギフトを解いたらまた眠りに戻るだけだが大丈夫なのか……?」

「ギフトが解かれても再びセレナを眠らせないように調整するのが俺の役目だ」

「そんなことが可能なのか……?」


震える声を出す美月に頷く。

いままでやってきたことを思い返せば出来るはずだ……。


「それとギフトについてだが、俺の知人にギフトを知るギフトを持っているってだけだ……」

「あ、なるほど。って、それ学園長じゃないか!ウチの顧問だろ!?」

「あ、知ってたんだ」

「ギフトアカデミーのパンフレットに記載があったじゃないか……。公式サイトにも掲載されてる」

「どっちも見ないから知らね……」


「学園長先生のせいかー」と盲点とばかりに美月が驚いていた。

まぁ、実際アリアと仮面の騎士に俺の情報を売ったわけだしあの件はこの濡れ衣でチャラということにしておこう……。

便利キャラ過ぎて、そりゃあセカンドシーズンで退治するよという確信がある。

タケルを地獄に突き落とすことには何事も本気なシナリオライターの桜祭の手腕(あくい)である。


「でもわたくしのギフトが上手くいく保証はないからな!?」

「承知の上だ」

「……わかった」


出来ないかも、と釘を刺す美月。

しかし、俺は『月と鈴』編のラストシーンでは美鈴に対してもっと凄いことにギフトを使っていることを知っているのでこれくらいは余裕だという確信がある。

実の妹を罰することになる結末など知るはずのない美月はそんなこと知る由もないのだが……。


…………というか美鈴をタケルとの身体にリンクさせ続けることの出来た本編って明らかにこの世界の美月よりギフト使いこなしているよね?

しかもあっちは1年前の時系列なのに……。

美月の覚醒イベントを俺が邪魔しているのに気付いてしまい、なんか申し訳なかった……。


「ふぅ……。とりあえずギフトを発動させる。『月だけの世界』」


美月の周りから領域?結界?のようなものが広がっていく感じが肌から伝わってくる。

これは、三島遥香の『エナジードレイン』よりもギフトの力が強いのに一切毒になる気がしないほど優しい力であった。


「目を覚ませ、セレナ!」

「うっ……」


美月がギフトを使いながら呼び掛けると、死人のように微動だにしなかった瀬川麗奈の口から息が吐き出され、身体が動きだす。


「…………秀頼?美月?」

「成功したな」

「き、気持ち悪い……。なにこれ……」

「ここは現実だ。そして、君は自分の身体を動かしている」


瀬川麗奈は俺の言葉を理解しつつ、納得はしていない様子でポカーンとしている。

アバターよりもずいぶんと痩せ細った身体は、とても弱々しい。

口を動かすことすら辛そうだ。


「秀頼……、もうそろそろ限界だ……」

「おっと。こっちもどうにかしないと」


本編の美月より、やはりギフトの持続力がない気がする。

本気で俺が三島や乙葉みたいに彼女も修行させた方が良い気がしてきた……。

いや、充分凄いギフト能力には変わりないんだけど……。


「セレナ……。いや、瀬川麗奈」

「……なに?」

「『お前は美月のギフトが解かれても植物人間に戻ってはいけない。脳に異常があるなら、その異常を取り除け。──これからは普通の人間として生きていくんだ』」

「わかった……」

「とりあえず『ゆっくり休め。朝の6時くらいにまた目を覚ませ』」


そうやって命令をすると、またすやすやと眠りだした。

麗奈は毛布を握りしめているところを見るに、もう大丈夫なはずだ。


「終わった」

「え?もう?」

「ギフトを解いて良いぞ」


そういうと半信半疑の態度でギフトを解除していく美月。

ギフトの力が美月に集約していく感覚は、俺もギフトを使うからわかるのだろうか。

セレナがむにゃむにゃとなんか口ごもっていて本当にただの睡眠を取っているだけなのがわかる。


「というかなんだそのギフトは?」

「あぁ、人に命令をして支配させる最低のギフトさ。美鈴を救ったのは手品のギフトなんて優しいもんじゃない。俺が命令をして無理矢理美鈴の紋章を消しただけだ」

「っ!?」

「俺はギフトを使えば誰だって奴隷に出来る。──そんな卑怯者のギフトだよ」


俺は自嘲気味に笑う。

これで彼女が引くならそれでも良い。

それくらいの覚悟を持って、俺はセレナの病気を治すことに決めたんだ。

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