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60、『幽体離脱』

それから奇妙な3人の夜中ドライブが終わり、えりなさんの車が病院の駐車場に停まる。

「着きました」と声を掛けられ、「ありがとうございます」と感謝を告げる。

時給が発生するわけでもないのに銭ゲバ探偵(褒め言葉)が文句を言わないで運転手を務めてくれて本当に頭が上がらない。


「病院ですか……?秀頼、どこか悪いのか?」

「いや、俺はぴんぴんしてるけど……」

「じゃあなんのための病院なんだ?何を目的に……?ここに助けたい人がいるということか?」

「まぁ、そんな感じ……」


美月の疑問に肯定すると、時間も時間なので車から降りることにする。

彼女へも付いて来るようにジェスチャーをすると「わかった……」とシートベルトを外して、地面に足を着ける。

運転席のえりなさんが「我のことは車で待っている探偵と思ってくれれば良いので」と声を掛けると、ライトを消灯して車のエンジンを止めた。


「いや、そうとしか思ってないが……」

「律儀に突っ込むね……」

「あの人、あんなにキャラ濃かったけ……?」

「元々あんな人だよ?多分……」

「なんかボケてる時のゆりかみたいな人じゃないか?」

「名字が同じなだけで偏見じゃないの?」


えりなさんから「ご無事に」と告げられる。

「え?危険あるの?」と美月から尋ねられるも、「そんなことないよ」と否定しておく。

無理はさせるかもしれないが、危険はない。

その旨も伝えるも、彼女はピンとはきていたかったが「任せろ」とドンと胸を張る。

彼女に頼もしさを感じながら、目的地であるセレナの病室へと向かうことにする。


「この時間って、お見舞い大丈夫なのか?」

「タケルパパに許可もらってるから大丈夫だよ」

「タケルパパ関係あるのか?それ、イコール理沙パパじゃないか……」

「理沙パパがこの病院の院長なんだよ」

「お前はタケルパパで突き通せよ。別人と勘違いしそうになるじゃないか」


俺のやること、言うことにズバズバ突っ込む美月の態度がなんか癖になっていた。

聞き上手というわけではないが、とても気持ち良く会話が出来る快感がある。

どうしても永遠ちゃんとか美鈴とかの前だと、格好悪いところを見られたくなくてあんまりボケないので気安い相手だとつい奇行に走りたくなる。


「あ、ここだ」と目的地に付くとノックをする。

「はーい」と少女の声がする。

普通に身体の近くにいるんかいと、普段の彼女がどこにいるかも知らないので拍子抜けする。

いつも公園にいるわけではないようだ。

俺が病室のドアを開けると、無機質な機械音がやたら耳に響く。

人の声よりも遥かに小さい音なのに、とても大きい音と錯覚するのはここに命が刻まれている音だろうかと考えてしまう。

暗い部屋で廊下の光しか光源がなかったので、病室のライトを点灯させた。


「ん?誰もいなくないか?寝ている子はいるみたいだが……。さっきのは誰の返事だ?」


美月は疑問を口にしながら病室に踏み込む。

「え?え?寝ている振りなのか?」と怪しむような声を出すと、眉をひそめている。

そこにツンツンと背中をつつかれる感触が広がる。

それと同時に「うひゃ!?」と普段の美月からは考えられないようなかん高く短い悲鳴が出てきた。


「な、な、な、な、なんだ!?幽霊か!?」

「幽霊デース……」


すぐにセレナの声優の声だと気付くと、驚く気も失せる。

しかし、美月は厳しい顔をしながら構えを見せる。


「いくぞ秀頼!戦闘態勢だっ!」

「飛躍し過ぎだ……。そんないきなりロープレの戦闘画面に移行とかしないから……」

「タチサレ……タチサレ……」

「うっひゃあ!?わたくし攻撃出来ない!がんばれ、秀頼!」

「シルフスコープあればヤれる?」

「なんでそっちはヤる気満々なの!?やめて秀頼ちゃん!?ワタシはセレナだよセレナ!可愛いセレナちゃんだよ!?」

「なんだ、ガラガラの幽霊かと思ったよ」


実際そんなこと思ってもないのだが、乗っかってみた。

美月が安心したように「セレナ……?」と声を漏らした。


「そ、そうか……。セレナか……。安心した……。本物の幽霊かと思ったぞ……」

「幽霊なんかいないよ?この病院で1回も見たことないし。美月は怖がりだね!」

「そうか。わたくしは本物の幽霊も見たことあるからな」

「あはは!真顔でおもしろ!」

「……おもしろ」


実際に本物の幽霊と出会ったことのある美月は複雑そうに顔を歪めていた。

俺も高校に入学して、奇妙な体験を何個も経験しているためセレナ側でなく美月側の人間である。

甲冑の幽霊に襲われた記憶は多分一生忘れられないだろう。

いつかセレナをわからせるためにバトルホテルへ連れて行きたいところである。


「というかいつわたくしの背中に現れた!?この部屋にいたはずだよな!?後ろを取れるはずがない!」

「あはは、ごめんごめん。驚かせようと透明になって様子伺ってた」

「しれっと凄いこと言ってるな……。それがセレナのギフトか」

「おりょ?流石ギフトアカデミーの生徒さんだ!すぐにギフトだって気付いたね!」

「わたくしは初対面時からセレナがギフトを使っていたことくらい気付いていたさ。……が、なんだこれは?」

「秀頼……、説明してないの?」


タケルと同じような目でチラッと様子を見るセレナ。

俺はそれに対して、無言で2回ほど頷く。


「ワタシの本体はそっちの寝ている身体、こっちのワタシは精神みたいな存在……なのかも」

「ずいぶん曖昧だな……。そっか、寝ているのがセレナ本人なのか……」

「それ、植物人間ってやつ。で、ワタシはもうすぐ死ぬ段階なんだよね。多分1ヶ月……。いや、来週まで持つかもわかんないんだよね……」

「…………え?」

「寿命が尽きちゃう!みたいな……。だから本来はギフトが無ければワタシはここにはいられないの。幽体離脱しているアバターがワタシの存在」

「『幽体離脱』のギフト……?」

「そういうことになるのかな」


「あはは……」と居心地が悪そうな苦笑をして人差し指で頬をかく。


「あ、そうだ!せっかくだし秀頼と美月に見せたいものがあるんだった」


と、そう言いながら自分の寝ているベッドに近付いていくセレナ。

「本当はタケルに見せたかったんだけど!」と、凄く作り物の無理した笑みを見せる。

俺と美月で彼女が何か伝えたい大事なものがあると察してお互いに頷く。

「なにがあるのだ?」と美月が投げ掛けた時にはセレナが自分の身体と並んで寝転んだ。

「見てて!」と元気よくセレナが見せびらかしたい気持ちを隠さない声を出す。







「ゆうたいりだつぅー!」

「不謹慎だな、おい!?」


セレナのアバターがベッドの上でガバッと上半身だけ立ち上がった。

どこかで見たことあるしょーもないネタだった。

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