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59、上松えりなは運転する

夜、俺は車の中で揺らされていた。

座っていると眠たくなり睡魔に襲われていると、バタンと隣に誰か座ってくる物音がする。

「こんばんは」と声を掛けると、彼女は俺の挨拶に返事をせずに口を尖らせている。

月明かりに照らされたその顔を見ると、俺に何か言いたげな顔をしたかと思えば本当に叫びだす。


「まったくお前は!お前わぁぁぁぁ!」

「ご、ごめん……。ごめんって……」


朝の誘い方に不満があるのか、今日1日ずっとこんな感じである。

「うるさいなぁ……」と彼女の叫びに割り込むように運転手が口を挟む。


「あー、やだやだ。我に運転させて後ろの席でイチャイチャ喧嘩してんだもん。このまま海に車ごとダイブするぞ?」

「なんでえりなさんまで!?これはどういう集いですか!?」

「あ、我はご主人様の運転手をしているだけですのでそういう便利キャラだと理解してくれると幸いです。わかりましたか?」

「ご主人様ぁ?」


えりなさんと面識のある彼女が目を尖らせて突っ込みだす。

口止め忘れていたといきなり出鼻を挫かれ、目を閉じる。


「余計なことを口にするな。明智で良い」

「なんでお前はえりなさんをご主人様って呼ばせているんだよ!?どんな仲だ!?美鈴からも様付けで呼ばれてるし、そういうのが好きか!?」

「俺はむしろ様付けされるより、様付けで呼びたい側だ。なんなら跪いても良い」

「知るか、そんな趣味!」


出会い頭からぎゃあぎゃあと騒がしいのは、長い金髪に口元にある黒子が特徴的な深森美月であった。


「あんまりご主人様を責めないであげないでください美月様」

「というか、なんでえりなさんが運転してるんですか?どういう繋がりなんですか!?」

「後ろの席とはいえシートベルトしてくださいね。じゃあ、出発します」

「Q&Aが成立してないです」


えりなさんがドライブにすると、車が動き出す。

美月が「えぇ……?」と気持ちの整理がしていないみたいだ。


「じゃあ俺もえりなさんみたいに美月を様付けで呼んでみよっか?」

「ちょっと楽しそうじゃないか。深森家の執事編でも始めてみろよ」

「やるか深森家の執事編?」


多分便利屋フリーランスの暇人である達裄さんに言えば揃えてくれると思う。

いつかにメイド服を俺の彼女ぶん揃えた男だ、絶対にやると確信が持てる。


「しかし、大丈夫か?えりなさんの前でこんな会話しているとまたお父様に報告されるんじゃ……」


美月がはっとして、じーっとえりなさんに視線を送る。

彼女は運転しているので視線に気付いているかはわからないが、美月の言葉に反応を返す。


「あ、我のことは運転している探偵と思ってくだされば大丈夫なんで無視してください」

「そうとしか思ってないです。え?お父様に報告します?」

「どうしますかご主人様?」

「黙ってて良いんじゃね?」

「じゃあそうしますね」

「なんで手懐けられているんだ……」


俺もよく知らないが、中の人の影響で従順な犬になったのである。

ギフトなしで支配出来てしまった辺り、やっぱり俺が抑えているのが最適解な気がする……。

簡単に表には出さないようにしないと……。


「美鈴は大丈夫だった?」

「お前との夜デートズルい!とずっとふて腐れていたぞ……」

「あぁ、まぁ……」


俺が美月を誘った時に一緒にいた美鈴が『美鈴も秀頼様とセッ●●したいです!』と堂々と言ってしまっていた。

美月も美月で『優しく頼む……』と、何故かやらなきゃいけない流れになり地獄だった。


「埋め合わせしないとなぁ……」

「美鈴とセッ●●するのか?」

「深森家の執事編する……」

「なんで人を様付け呼びをしたがるんだお前は……。抵抗はないのか?」

「麻衣様を麻衣様呼びしている俺に抵抗なんかあるわけないだろ」

「麻衣様?」

「あ……」


美月が麻衣様に反応する。

そういえば美月と麻衣様に面識ないと察して訂正しようとすると、「岬麻衣のことか?」と美月から麻衣様の本名を口にされる。


「え?わかる?」

「わかるもなにもクラスメートだが……。わたくしの出席番号の次だし……」

「あぁ、そうだっけ……」


確かに悠久先生の家で見たリストでは美月を見た後に麻衣様が出ていた気がする。

同じクラスなら知っていて当然か……。


「お前のその人脈はどこから生まれるんだ……」

「あれは頼子の暴走……」

「じゃあお前の意思だろ」


至極もっともな意見である。


「岬か……、岬……」

「どうしたの?」

「いや……、彼女怖くて……」

「あぁ、確かに怖い。でも意外と絡むと楽しい子だよ」


「ふーん」と興味があるのか、ないのかわからないイマイチな反応である。

「それより……」とそれから数秒後には話題を反らされる。


「これからどこ行くんだ?どうせわたくしと純粋なデートってわけではあるまい」


えりなさんを顎で指す。

彼女がいる時点でデートではないと気付いていたようだ。


「あぁ、ちょっと美月の手を借りたくてね……」

「わたくしの……?」

「俺も美月だけに自分の秘密を明かす。だからどうしても助けたい人がいるんだ……。それの手伝いをして欲しい……」

「人助けのためなら是非力になりたい!荷物持ちでもなんでも言ってくれ!」

「あ、ありがとう……」


荷物持ちなら引っ越し屋のバイトをしているゆりかとか、俺をコンバットナイフで脅してきたヨルとか、純粋に体育会系男子の山本とかそっちの方に頼んでいると思うが、彼女がそういう性格なのはわかりきっていたので安心だ。


「それはそうと……、また女か?」

「えりなさん、後何分で着きます?」

「秀頼さまぁ?秀頼さまぁ?返事がないみたいでしたよ、秀頼さまぁ?」

「怖い!美月から様付けで呼ばれるの怖いよ!?」

「こ、怖いとかいうな!わ、わたくしそんなに怖くないでしょ!?ね?えりなさん!?」

「ご主人様が怖いと言うなら怖いんだと思います」


2人でぎゃあぎゃあ騒いでいる中、ただただ冷静にえりなさんは運転に集中していたのであった……。

美月が「わたくしは全然怖くない!」とずっと言い張っている熱を保てるのが怖いと思った。

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